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第二章 最弱の思い上がり
LV.10 ベストとワースト
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「リョウ! 俺とペアを組もうぜ!」
「いいや、リョウくんと組むのは私よ!」
牧田との任務が終わった翌日。模擬戦闘の授業があった。
今回は、隣のクラスの生徒とペアを組んでの魔物討伐。今日は、A地区の南部の特別訓練場でレベルが少し高めの魔物と戦う。
ペアは、基本的に自由に組むことになっている。出発前に体育館で、先生の注意事項などを聞いた後に、ペアを探しに散る。
同じクラスの滝本リョウは、相変わらずの人気ぶりだ。実力とルックスで、男子も女子も毎回こいつとペアを組みたがる。他クラスの人間たちも、多くがリョウの元へ向かう。
一方の俺、藤井カナトの半径10メートル内。
無人。
なんでだぁー!!
心の声が出そうになった。というか、数秒後にそう叫んでしまった。
試験明けの模擬戦闘の授業。最弱として、今までペアを組んでもらえなかった俺は、試験での快勝と、学内チームに入隊したことで、少しは一目置かれるようになったと思ったのに、今までの出来事がまるで夢だと錯覚してしまうくらいに、俺の評価はまだまだ最低だった。
「組まねえよ、あんな雑魚」
「あいつ、イエロースパークにまぐれで入ったくらいで、喜びやがって、なんであいつが」
「相手の子の調子が悪かっただけでしょ」
俺の叫びに反応したやつらが、こっちをチラチラ見ながら、聞こえるように俺を非難する。
俺は、たじろぎながらもそいつらを睨みつけた。
よし。こうなったら。
自分で相手を見つけるしかない。
1人だけ、期待を持てる人物がいる。
俺は、固まった足を1歩踏み出して、隣のクラスのその人物に向かって歩き出した。
その人物も、リョウと同じくらいに実力があって、ルックスもいいから、男女から人気がある。
嵐ミツキ。
幼馴染のあいつなら、少しは俺のことを見てくれてるし、認めてくれているはずだ。
そう思って、俺はミツキの元へ歩く。近くまで来て、ミツキの横顔に声をかけようとした。
その時。
「リョウ!」
聞き慣れた女の声。体育館によく響いた。
その場にいた全員が、ミツキの方を向く。呼ばれた本人であるリョウも。
ミツキの声で静まり返った現場。彼女が、リョウと同様に周りに与える影響力が大きいことに、俺は改めて気づいた。
「なんだ?」
リョウが用件を聞く。単刀直入に、ミツキがこう言い放った。
「私と組んでみない?」
その言葉に、ざわざわと話し声が聞こえた。そのざわめきが、次第に大きくなっていく。
リョウは、何かを考えているような表情を浮かべている。
彼女の横顔は、さっきのピシャリとした硬派な声とは逆に、どこか自信がなさそうだったが、虚勢を張っているような笑顔を作っている。
「うそ…だろ…」
一方で、情けないほどに掠れ切った声。俺は、その横顔を、ただ見ることしかできなかった。
そして、ミツキの提案に対するリョウの応えも、俺なら分かる。
「いいよ」
その瞬間、ドワッと、周りが盛り上がった。
「マジかよ!」
「学年1位と2位がの戦闘が観れるぞ!!」
「やべえ…すげえ!!」
自分たちも戦闘をするはずなのに、周りはすっかり観客気分だ。それを見ていた先生も、「お前たちも戦闘をするんだぞ」と、口では言ったものの、どこか興味津々な様子だ。
俺は、ミツキと組めるのを、思っていた以上に期待していなかったみたいで、落胆も思いのほか、無かった。
しばらくして、他のペアも完成して行く。
俺は、焦った。このままだと、1人にされてしまう。試験の前の時と同様に、完成した2人組にお情けのように入れられる、あの屈辱的な目に再び遭わされてしまう。
なんとしてでも、阻止せねば…。
そう思った矢先、心当たりのある人物がもう1人いることに気が付いた。むしろ、どうして忘れていたのだろうと、疑問を持ってしまうほどに。
その女子は、思いの外、近くに立っていた。ソワソワしながら、見るからに不安そうな面持ちで、分かりやすくたじろいでいる。
きっと、彼女もまだなんだろうな。
確信して、声をかける。
「ルナ」
声を受けた、イエロースパークで俺に続く2番目の低レベル、人見知り少女の水無月ルナが、「はひっ!」と背筋を急に突っ張る。
「ふっ…藤井くん…」
俺を救世主か神のような類を見るような目。
俺は、先刻のミツキと同じく、単刀直入に言った。
「俺と、組んでよ」
こうして、今日の模擬戦闘の授業は、学年ベスト2のペアと、荒くれ集団ワースト2のペアが、同時に誕生するという、奇妙な回となった。
「いいや、リョウくんと組むのは私よ!」
牧田との任務が終わった翌日。模擬戦闘の授業があった。
今回は、隣のクラスの生徒とペアを組んでの魔物討伐。今日は、A地区の南部の特別訓練場でレベルが少し高めの魔物と戦う。
ペアは、基本的に自由に組むことになっている。出発前に体育館で、先生の注意事項などを聞いた後に、ペアを探しに散る。
同じクラスの滝本リョウは、相変わらずの人気ぶりだ。実力とルックスで、男子も女子も毎回こいつとペアを組みたがる。他クラスの人間たちも、多くがリョウの元へ向かう。
一方の俺、藤井カナトの半径10メートル内。
無人。
なんでだぁー!!
心の声が出そうになった。というか、数秒後にそう叫んでしまった。
試験明けの模擬戦闘の授業。最弱として、今までペアを組んでもらえなかった俺は、試験での快勝と、学内チームに入隊したことで、少しは一目置かれるようになったと思ったのに、今までの出来事がまるで夢だと錯覚してしまうくらいに、俺の評価はまだまだ最低だった。
「組まねえよ、あんな雑魚」
「あいつ、イエロースパークにまぐれで入ったくらいで、喜びやがって、なんであいつが」
「相手の子の調子が悪かっただけでしょ」
俺の叫びに反応したやつらが、こっちをチラチラ見ながら、聞こえるように俺を非難する。
俺は、たじろぎながらもそいつらを睨みつけた。
よし。こうなったら。
自分で相手を見つけるしかない。
1人だけ、期待を持てる人物がいる。
俺は、固まった足を1歩踏み出して、隣のクラスのその人物に向かって歩き出した。
その人物も、リョウと同じくらいに実力があって、ルックスもいいから、男女から人気がある。
嵐ミツキ。
幼馴染のあいつなら、少しは俺のことを見てくれてるし、認めてくれているはずだ。
そう思って、俺はミツキの元へ歩く。近くまで来て、ミツキの横顔に声をかけようとした。
その時。
「リョウ!」
聞き慣れた女の声。体育館によく響いた。
その場にいた全員が、ミツキの方を向く。呼ばれた本人であるリョウも。
ミツキの声で静まり返った現場。彼女が、リョウと同様に周りに与える影響力が大きいことに、俺は改めて気づいた。
「なんだ?」
リョウが用件を聞く。単刀直入に、ミツキがこう言い放った。
「私と組んでみない?」
その言葉に、ざわざわと話し声が聞こえた。そのざわめきが、次第に大きくなっていく。
リョウは、何かを考えているような表情を浮かべている。
彼女の横顔は、さっきのピシャリとした硬派な声とは逆に、どこか自信がなさそうだったが、虚勢を張っているような笑顔を作っている。
「うそ…だろ…」
一方で、情けないほどに掠れ切った声。俺は、その横顔を、ただ見ることしかできなかった。
そして、ミツキの提案に対するリョウの応えも、俺なら分かる。
「いいよ」
その瞬間、ドワッと、周りが盛り上がった。
「マジかよ!」
「学年1位と2位がの戦闘が観れるぞ!!」
「やべえ…すげえ!!」
自分たちも戦闘をするはずなのに、周りはすっかり観客気分だ。それを見ていた先生も、「お前たちも戦闘をするんだぞ」と、口では言ったものの、どこか興味津々な様子だ。
俺は、ミツキと組めるのを、思っていた以上に期待していなかったみたいで、落胆も思いのほか、無かった。
しばらくして、他のペアも完成して行く。
俺は、焦った。このままだと、1人にされてしまう。試験の前の時と同様に、完成した2人組にお情けのように入れられる、あの屈辱的な目に再び遭わされてしまう。
なんとしてでも、阻止せねば…。
そう思った矢先、心当たりのある人物がもう1人いることに気が付いた。むしろ、どうして忘れていたのだろうと、疑問を持ってしまうほどに。
その女子は、思いの外、近くに立っていた。ソワソワしながら、見るからに不安そうな面持ちで、分かりやすくたじろいでいる。
きっと、彼女もまだなんだろうな。
確信して、声をかける。
「ルナ」
声を受けた、イエロースパークで俺に続く2番目の低レベル、人見知り少女の水無月ルナが、「はひっ!」と背筋を急に突っ張る。
「ふっ…藤井くん…」
俺を救世主か神のような類を見るような目。
俺は、先刻のミツキと同じく、単刀直入に言った。
「俺と、組んでよ」
こうして、今日の模擬戦闘の授業は、学年ベスト2のペアと、荒くれ集団ワースト2のペアが、同時に誕生するという、奇妙な回となった。
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