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簡単生姜湯~家出娘の心を溶かす?!~
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「十二番になりますわ。診療所でお待ちいただいても、ご自宅でもお待ちいただいても大丈夫ですよ」
「あの……お代についてなんですが……」
赤子を抱えたその女性は、番号札を受け取らずに言いにくそうに打ち明けた。私は声を少し落とし、彼女にだけ聞こえるように囁く。
「基本的に無料で診療させていただいておりますのでご安心ください。ただ無料ですので、必ずしも回復魔法を施術できるわけではございませんので、ご了承くださいね」
「あ、ありがとうございます」
そう言って顔を上げた女性の顔に私は思わず声を上げた。
「あら、エマじゃありませんこと?」
「え?なんで……って、グレイス様! なんでこんなところに?」
「今、こちらでお手伝いしておりますの。凄い奇遇ですわね」
あえて私はエマがここで子供を抱えている理由に言及しなかった。彼女は学園で同じクラスにいた豪商の娘……いや“元”豪商の娘、と言った方が正しいだろう。
彼女がクラスから姿を消したのは最終学年を目前とした時期だった。下働きだった男と駆け落ちしたという噂が学園中に広まった。風の噂で子供を作った……というような話を聞いていたが、こんなところに姿を現すほど困窮を極めていたとは。
「あら……可愛い。男の子?」
エマの腕に抱かれている子供はハッキリと性別がつかない赤子だが、包んである布が青いためそう聞いてみる。
「女の子です……。本当はこの子のために買いたかったんですけど……」
「ごめんなさい。でも言われてみればこんなにエマにソックリな綺麗な瞳ね」
赤子は熱のせいか顔を真っ赤にしているが、その潤んだ瞳は美しいグリーン色に輝いていた。
「笑ってしまいますよね。子供ができたって分かったら、男に捨てられたんです」
「えっ……」
押し込めていた感情がはちきれたように彼女は叫ぶようにして、受付前にも関わらず身の上を語りだした。
「学園にいた時は『愛している』とか『君と離れるなら死んだ方がましだ』なんて言ったくせに……、私が勘当されて仕送りが期待できないって分かったら、私を娼館に売り払おうとしたんです」
「まぁ……」
「それも妊娠していて売り物にならないことが分かったら、そのまま目の前から消えて……。隠し持っていた宝石を売って生活していますが……この子が病気になって……私どうしたら……」
最後は涙を流しながら叫ぶ彼女は、診療所の注目の的になっていた。だが、エマはそんなことを気にした様子もなく泣き続ける。
「上がって貰ったら?」
なす術もなくオロオロとしている私を見かねたのか、診察室から姿を現したキースさんはそう言って二階を指さした。
「そ、そうですわね。さ、エマこっちにいらして」
赤子を抱きながら泣き崩れる彼女を横から抱えるようにして私は二階のダイニングテーブルに彼女を案内した。
「エマも体調が悪いんじゃありませんこと?」
彼女を抱える際に伝わってきた体温は泣いたことを差し引いても、かなり熱かった。
「二人分の診療代なんてありませんから……」
「ちょっとお待ちになっていてね。赤ちゃんは、そちらのソファーに寝かせてくださいませね」
私は手早く台所に回り、生姜湯を作ることにした。生姜湯の作り方は簡単だ。
・すりおろした生姜…小さじ1
・蜂蜜…大さじ1
・湯…150ml
・レモン汁…少々
すりおろした生姜と蜂蜜をカップに入れて、お湯を注いでよく混ぜ、最後にレモンを加えれば完成だ。お湯が沸いていれば一分もかからずに作れる。
風邪をひいた時、風邪をひきかけた時に祖母がよく作ってくれたものだ。子供の頃は辛さが苦手だったこともあるが、大人になってからはその独特の風味がないと風邪が治らないような気すらしていた。
「これは?」
差し出されたカップに不思議な表情を浮かべるエマに私は笑顔で説明した。
「生姜湯ですわ。身体を温めてくれる効果がありますの。喉が痛い時にはオススメなの」
「あったかい――」
先ほどまでエマを覆っていた緊張が徐々にほぐれていくのが分かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【参考文献】
神様の食材:はちみつ生姜湯の作り方!5つの効果がすごい!アレンジレシピも! (最終閲覧日:2019年5月7日)
https://www.kami-shoku.com/hachimitsu/14702/
【注意】
今回紹介した『生姜湯』はあくまでも民間療法です。
タイトルにあるように『おばあちゃんの知恵』で、経験に基づいた知識であるため体質に合わない場合があります。体調に異変を感じた場合は、直ぐに使用を中止してください。
作者も実際に作っており一定の効果を感じておりますが、個人の感想です。必ずしも効果を保証するものではありません。
「あの……お代についてなんですが……」
赤子を抱えたその女性は、番号札を受け取らずに言いにくそうに打ち明けた。私は声を少し落とし、彼女にだけ聞こえるように囁く。
「基本的に無料で診療させていただいておりますのでご安心ください。ただ無料ですので、必ずしも回復魔法を施術できるわけではございませんので、ご了承くださいね」
「あ、ありがとうございます」
そう言って顔を上げた女性の顔に私は思わず声を上げた。
「あら、エマじゃありませんこと?」
「え?なんで……って、グレイス様! なんでこんなところに?」
「今、こちらでお手伝いしておりますの。凄い奇遇ですわね」
あえて私はエマがここで子供を抱えている理由に言及しなかった。彼女は学園で同じクラスにいた豪商の娘……いや“元”豪商の娘、と言った方が正しいだろう。
彼女がクラスから姿を消したのは最終学年を目前とした時期だった。下働きだった男と駆け落ちしたという噂が学園中に広まった。風の噂で子供を作った……というような話を聞いていたが、こんなところに姿を現すほど困窮を極めていたとは。
「あら……可愛い。男の子?」
エマの腕に抱かれている子供はハッキリと性別がつかない赤子だが、包んである布が青いためそう聞いてみる。
「女の子です……。本当はこの子のために買いたかったんですけど……」
「ごめんなさい。でも言われてみればこんなにエマにソックリな綺麗な瞳ね」
赤子は熱のせいか顔を真っ赤にしているが、その潤んだ瞳は美しいグリーン色に輝いていた。
「笑ってしまいますよね。子供ができたって分かったら、男に捨てられたんです」
「えっ……」
押し込めていた感情がはちきれたように彼女は叫ぶようにして、受付前にも関わらず身の上を語りだした。
「学園にいた時は『愛している』とか『君と離れるなら死んだ方がましだ』なんて言ったくせに……、私が勘当されて仕送りが期待できないって分かったら、私を娼館に売り払おうとしたんです」
「まぁ……」
「それも妊娠していて売り物にならないことが分かったら、そのまま目の前から消えて……。隠し持っていた宝石を売って生活していますが……この子が病気になって……私どうしたら……」
最後は涙を流しながら叫ぶ彼女は、診療所の注目の的になっていた。だが、エマはそんなことを気にした様子もなく泣き続ける。
「上がって貰ったら?」
なす術もなくオロオロとしている私を見かねたのか、診察室から姿を現したキースさんはそう言って二階を指さした。
「そ、そうですわね。さ、エマこっちにいらして」
赤子を抱きながら泣き崩れる彼女を横から抱えるようにして私は二階のダイニングテーブルに彼女を案内した。
「エマも体調が悪いんじゃありませんこと?」
彼女を抱える際に伝わってきた体温は泣いたことを差し引いても、かなり熱かった。
「二人分の診療代なんてありませんから……」
「ちょっとお待ちになっていてね。赤ちゃんは、そちらのソファーに寝かせてくださいませね」
私は手早く台所に回り、生姜湯を作ることにした。生姜湯の作り方は簡単だ。
・すりおろした生姜…小さじ1
・蜂蜜…大さじ1
・湯…150ml
・レモン汁…少々
すりおろした生姜と蜂蜜をカップに入れて、お湯を注いでよく混ぜ、最後にレモンを加えれば完成だ。お湯が沸いていれば一分もかからずに作れる。
風邪をひいた時、風邪をひきかけた時に祖母がよく作ってくれたものだ。子供の頃は辛さが苦手だったこともあるが、大人になってからはその独特の風味がないと風邪が治らないような気すらしていた。
「これは?」
差し出されたカップに不思議な表情を浮かべるエマに私は笑顔で説明した。
「生姜湯ですわ。身体を温めてくれる効果がありますの。喉が痛い時にはオススメなの」
「あったかい――」
先ほどまでエマを覆っていた緊張が徐々にほぐれていくのが分かった。
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【参考文献】
神様の食材:はちみつ生姜湯の作り方!5つの効果がすごい!アレンジレシピも! (最終閲覧日:2019年5月7日)
https://www.kami-shoku.com/hachimitsu/14702/
【注意】
今回紹介した『生姜湯』はあくまでも民間療法です。
タイトルにあるように『おばあちゃんの知恵』で、経験に基づいた知識であるため体質に合わない場合があります。体調に異変を感じた場合は、直ぐに使用を中止してください。
作者も実際に作っており一定の効果を感じておりますが、個人の感想です。必ずしも効果を保証するものではありません。
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