上 下
38 / 47

新診療所建設計画

しおりを挟む
「ねぇ、グレイス。ちょっとこれを見てもらえないかな?」

 診療時間が終わり、待合室を掃除していると診察室からキースさんが声をかけてくれた。

「何か問題でもございました?」

 カルテの整理を間違えていたのだろうか……と慌てて診察室に向かうと、目に飛び込んできたのは一枚の図面だった。

「診療所を建てようと思っているんだ」

「診療所を?!」

 一体、いくらかかるのだろうか……。そしてそんなお金はないはずだが。

「グレイス。お金の心配をしているだろ。顔に書いてあるよ」

 そう言われて私は慌てて口元を抑えた。最近、キースさんとの距離が近くなり、ついつい気を抜いてしまうことが増えている。

「村長がね、鍾乳洞の中じゃ手狭だろうからって、温泉宿の側に建ててくださることになったんだ。僕達の部屋も用意してくださるって」

 机に広げられた図面には、以前の診療所のように一階は診療所、二階は居住スペースとなっている間取りが展開されていた。ただ以前とは異なり、3LDKと広々としている点に感動する。

「カルの部屋もありますのね!」

 既に彼が誕生してから一ヶ月が経とうとしており、彼の見た目は二十歳ぐらいの青年にまで成長している。先週あたりから私と同じ部屋で寝るのは、はばかられキースさんと同じ部屋で寝るようになった。

「カルが独り立ちしたら、客間にしてもいいしね。それで診療所についてなんだけど、何かいい案はあるかい?」

 その質問に先日から抱いていた希望を思い出す。

「診察室を三つ作ってはいかがでしょう?」

「み、三つ?」

「えぇ、ベッドと椅子だけの簡易的なものですが、それを三つ作り仕切っておきます。二階の居住スペースがこれだけあるんですから、問題なく作れると思いますわ」

「ベッドと椅子だけなら確かに確保できそうだけど。三つも必要なの?」

 私は診察室と書かれたスペースの上を指でなぞるようにして、小さく三つに区切る。

「こうして三つ部屋を作っておくことで、感染症にかかっていらっしゃる患者様を隔離しておくことができますわ」

 本当は隔離室を作るのがベストだが、スペース的にも予算的にも難しいに違いない。イスラが受付で簡単に症状を確認してくれるので、病気に関する知識がない私でも感染症の患者さんを見極めて案内することも可能だ。

「院内感染を防げるだけでなく、本当に体調が悪い方など寝て待っていただくこともできましてよ」

「なるほど。俺が出入りすることで、患者さんは動かさずに診察できるわけだね。凄い発想だ!」

「実は、ティアナ様から教えていただきましたの」

「ティアナ嬢から?」

 キースさんは途端に怪訝な表情を浮かべる。色々な件があり、彼女に対して決して良い印象を抱いていないのだろう。私と彼女の間にある因縁を知る人物は一様に、ティアナに対して警戒心を抱いている。

 ただ彼女にとって救いともいえるのは、この村にいる多くの人間は私達の関係について深く知らないということだ。そのため、いかにもヒロインといったビジュアルと言動に「可愛い新住人」として歓迎されている。彼女が新しい伴侶を見つけるのも時間の問題かもしれない。

「ティアナ様のサロンでは温泉の地熱を利用して体を温めることができるベッドを用意されましたの。一人のお客様をベッドで温めているうちに、もう一人のお客様の施術をする……とされていますのよ」

 施術する人はティアナ一人だけだが、この方法を導入したことにより多くの客をさばくことができるらしい。というのも当初は一日に数人来店すればいい……と思っていたようだが本格的なボディケアが人気を集め、最近では絶え間なく客が訪れているらしい。

「考えるね……」

 キースさんはティアナの営業方法に小さく唸る。

「えぇ、これを診療所に応用できないか……と思っていたところですの」

「なるほど。これならば大きな予算オーバーにもならないと思うから伝えてみるよ」

「お願いいたしますわ!」

 キースさんの中でティアナに対する認識が少し変わったような手ごたえを感じる。

傍から見れば、ティアナに婚約者を奪われたという経緯を持つグレイスだが、ゲームのプレイヤーである私からすると第二王子はティアナのものという認識の方が強い。その婚約破棄によってキースさんと出会えたわけだから、彼女を恨む気持ちなんて微塵もない。どちらかというと、この村で彼女が居心地の悪い想いをしている方が可哀想でもある。

私にできることは限られているが、どんな形であれ彼女にもまた幸せになってもらいたいのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、140話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

無惨に殺されて逆行した大聖女の復讐劇〜前世の記憶もついでに取り戻したので国造って貴国を滅ぼさせていただきます

ニコ
恋愛
 体に宿る魔石が目当てで育てられたユリア。婚約者に裏切られて殺された彼女は封印された大聖女だった。  逆行した彼女は封印が解け、地球で暮らした前世の記憶も取り戻しておりーー  好き勝手する父親や婚約者、国王にキレた彼女は国を創って宣戦布告するようです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 不定期更新で行こうと思います。 ポチッとお気に入り登録していただけると嬉しいです\(^o^)/

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...