37 / 47
フキの葉湿布~火傷ケアにはコレ!~
しおりを挟む
「ねぇ、コロ、従魔になると何か特別なことがあるの?」
酒場で昼食を食べながらそう聞くと、コロは伏せていた顔をダルそうに上げる。
『なんで俺が従魔だって分かったんだ』
「フェンリルが言っていたじゃない『従魔』だって。でも“名づけ”を行うことで従魔になるっていうのは村長さんから聞いたんだけどね」
コロは大きくため息をつく。
『知られたくなかったんだけどな――』
「何それ、わざと隠していたの?」
『そりゃそうだろ。だから“コロ”って呼ぶなって何度も言ったじゃねぇか』
なるほど『コロ』としての自分を受け入れてしまうと、従魔になってしまうことが分かっていて必死に否定していたのか……。
「私が命令しちゃったら、全部言うこと聞いてくれたりするの?」
隠したくなる程の存在ということに私は思わず笑顔になる。
『だからこうして酒場でやりたくもない護衛の仕事しているんだろ』
不貞腐れたようにコロにそう言われ、私は思わず耳を疑う。
「え?嫌だったの?」
てっきり危険は少ないし美味しいご飯が食べられるので、喜んでやっていると思っていた。
『長年、クリムゾン様を守ってきたからな。それが誇りでもあったんだが……』
「なんかごめんね」
『でもグレイスに頼まれたら、そっちの方が価値ある仕事に感じるんだ。それは俺がお前の従魔だからかもしれない』
言葉に強い強制力はないが、相手の気持ちに影響を与えることができるのだろう。
『あと主となる人物から、何とも言えない匂いがする。常に側にいたいって思うんだ』
「だからオリヴィアも数日に一回、温泉宿に来るのかしら?」
『だろうな。性的な意味ではなくて、お前の匂いを嗅ぐと嬉しくなる。最初はお前が大聖女だからいい匂いがするのかと思っていたが、そういうわけでもないらしい』
遺伝子レベルで相性がいい人の汗は、いい匂いがすると言うが、それと似た現象なのかもしれない。
『だから、カルも本当の息子みたいにお前に懐いているんだろ』
「僕がお母様の『従魔』だから、大好きなんじゃないよ」
いつの間にか私達の後ろに不服そうな表情を浮かべたカルが立っていた。生後二週間にして既に十歳ぐらいの少年に成長している。その見た目に合うように言葉遣いも成長しているからビックリだ。もしかしたらこの子も転生者なのかもしれない……と最近、思うようになってきた。
「お母様が僕を孵してくれたから『お母様』なんだよ」
カルはやはりプリプリしながら、慣れた口調でマーゴにランチメニューを注文する。
『ま、“従魔”だって認めたくないのは分かるがな……』
確かにカルは本当の息子のように扱われることを望んでいる。
「カルは私の大好きな息子よ。従魔なんかじゃないわ」
そう言ってカルの少しくせ毛の黒髪を優しく撫でると、ようやく彼の表情がいつもの可愛らしい表情に戻る。時々大人びた表情を見せるようになっていたが、それでもまだ子供の面影の方が濃い。そんなことを考えながらカルを見ていると、彼の右手の甲が赤く腫れていることに気付いた。
「右手、どうしたの?火傷かしら……」
「今日はね、魔法の練習をしたんだ」
この二週間、クリムゾン様が指導してくださっているが、相変わらずドラゴンになることはできない。それならば、と魔法の練習も始めたらしい。
「僕、火系統の魔法と相性がいいみたい。もう上級魔法を使うことだってできるんだよ」
「上級を?」
上達スピードの速さに思わず言葉を失う。一般的に学園や神官学校では卒業するまでに中級までしか魔法を教えていない。それ以上となると独学で学ぶか、神殿や軍で働きながら習得するしかない。そのため私も含めて多くの人間は上級魔法を使えないのだ。
「ちゃんと冷やした?」
「うん。冷やした」
カルは何てことはないという表情を浮かべるが、痕が残ったら可哀想だ。私は酒場のカウンターに飾っておいたフキの葉を取る。ここで調理をする人のために用意しておいたのだ。
「これを巻いておくと火ぶくれになりにくいし、治りも早いのよ」
カルの手の甲に合うようにフキの葉をちぎって、火傷した部分に貼り付ける。その上に包帯を巻くだけの簡単なケアだ。
「お母様、心配しすぎだよ。ドラゴンにはなれないけど、これぐらいの傷なら直ぐに治っちゃうよ」
「生意気言わないの。心配してあげているんでしょ?」
私が軽くカルのおでこをこずくと、嬉しそうに小さく笑った。本当の子供……というより人間の子供として扱われることを彼が望んでいることを私は知っているのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【参考文献】
サワイ健康推進課:家庭でできるケガの応急手当(最終閲覧日:2019年6月21日)
https://www.sawai.co.jp/kenko-suishinka/grandma/201002.html
酒場で昼食を食べながらそう聞くと、コロは伏せていた顔をダルそうに上げる。
『なんで俺が従魔だって分かったんだ』
「フェンリルが言っていたじゃない『従魔』だって。でも“名づけ”を行うことで従魔になるっていうのは村長さんから聞いたんだけどね」
コロは大きくため息をつく。
『知られたくなかったんだけどな――』
「何それ、わざと隠していたの?」
『そりゃそうだろ。だから“コロ”って呼ぶなって何度も言ったじゃねぇか』
なるほど『コロ』としての自分を受け入れてしまうと、従魔になってしまうことが分かっていて必死に否定していたのか……。
「私が命令しちゃったら、全部言うこと聞いてくれたりするの?」
隠したくなる程の存在ということに私は思わず笑顔になる。
『だからこうして酒場でやりたくもない護衛の仕事しているんだろ』
不貞腐れたようにコロにそう言われ、私は思わず耳を疑う。
「え?嫌だったの?」
てっきり危険は少ないし美味しいご飯が食べられるので、喜んでやっていると思っていた。
『長年、クリムゾン様を守ってきたからな。それが誇りでもあったんだが……』
「なんかごめんね」
『でもグレイスに頼まれたら、そっちの方が価値ある仕事に感じるんだ。それは俺がお前の従魔だからかもしれない』
言葉に強い強制力はないが、相手の気持ちに影響を与えることができるのだろう。
『あと主となる人物から、何とも言えない匂いがする。常に側にいたいって思うんだ』
「だからオリヴィアも数日に一回、温泉宿に来るのかしら?」
『だろうな。性的な意味ではなくて、お前の匂いを嗅ぐと嬉しくなる。最初はお前が大聖女だからいい匂いがするのかと思っていたが、そういうわけでもないらしい』
遺伝子レベルで相性がいい人の汗は、いい匂いがすると言うが、それと似た現象なのかもしれない。
『だから、カルも本当の息子みたいにお前に懐いているんだろ』
「僕がお母様の『従魔』だから、大好きなんじゃないよ」
いつの間にか私達の後ろに不服そうな表情を浮かべたカルが立っていた。生後二週間にして既に十歳ぐらいの少年に成長している。その見た目に合うように言葉遣いも成長しているからビックリだ。もしかしたらこの子も転生者なのかもしれない……と最近、思うようになってきた。
「お母様が僕を孵してくれたから『お母様』なんだよ」
カルはやはりプリプリしながら、慣れた口調でマーゴにランチメニューを注文する。
『ま、“従魔”だって認めたくないのは分かるがな……』
確かにカルは本当の息子のように扱われることを望んでいる。
「カルは私の大好きな息子よ。従魔なんかじゃないわ」
そう言ってカルの少しくせ毛の黒髪を優しく撫でると、ようやく彼の表情がいつもの可愛らしい表情に戻る。時々大人びた表情を見せるようになっていたが、それでもまだ子供の面影の方が濃い。そんなことを考えながらカルを見ていると、彼の右手の甲が赤く腫れていることに気付いた。
「右手、どうしたの?火傷かしら……」
「今日はね、魔法の練習をしたんだ」
この二週間、クリムゾン様が指導してくださっているが、相変わらずドラゴンになることはできない。それならば、と魔法の練習も始めたらしい。
「僕、火系統の魔法と相性がいいみたい。もう上級魔法を使うことだってできるんだよ」
「上級を?」
上達スピードの速さに思わず言葉を失う。一般的に学園や神官学校では卒業するまでに中級までしか魔法を教えていない。それ以上となると独学で学ぶか、神殿や軍で働きながら習得するしかない。そのため私も含めて多くの人間は上級魔法を使えないのだ。
「ちゃんと冷やした?」
「うん。冷やした」
カルは何てことはないという表情を浮かべるが、痕が残ったら可哀想だ。私は酒場のカウンターに飾っておいたフキの葉を取る。ここで調理をする人のために用意しておいたのだ。
「これを巻いておくと火ぶくれになりにくいし、治りも早いのよ」
カルの手の甲に合うようにフキの葉をちぎって、火傷した部分に貼り付ける。その上に包帯を巻くだけの簡単なケアだ。
「お母様、心配しすぎだよ。ドラゴンにはなれないけど、これぐらいの傷なら直ぐに治っちゃうよ」
「生意気言わないの。心配してあげているんでしょ?」
私が軽くカルのおでこをこずくと、嬉しそうに小さく笑った。本当の子供……というより人間の子供として扱われることを彼が望んでいることを私は知っているのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【参考文献】
サワイ健康推進課:家庭でできるケガの応急手当(最終閲覧日:2019年6月21日)
https://www.sawai.co.jp/kenko-suishinka/grandma/201002.html
0
お気に入りに追加
1,169
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生した私は破滅エンドを避けるべく、剣と魔法を極めたら全ての攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
前世で乙女ゲームが好きだった主人公は、悪役令嬢であるエリス・フォン・シュトラールとして転生してしまう。エリスは、ゲームのシナリオではヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢で、最終的には国外追放や処刑という悲惨な結末を迎える運命だった。
「そんな未来なんて絶対に嫌!」
そう決意したエリスは、破滅フラグを回避するために自らの運命を切り開くことを決意。社交界での陰謀や恋愛に巻き込まれないように、剣術と魔法の鍛錬に没頭することにした。元々の貴族の才能と転生者としての知識を活かし、エリスは驚異的な速度で成長。やがて「最強の剣士」兼「伝説の魔導士」としてその名を轟かせることに。
ところが、彼女が強くなればなるほど、ゲームの攻略対象である王子や騎士団長、天才魔導士、さらにはライバルキャラまで、なぜか次々と彼女に夢中になってしまう!
「えっ、こんなはずじゃなかったのに!?」
溺愛される悪役令嬢となったエリスの、恋と戦いに満ちた破滅回避(?)ファンタジーが今、始まる!

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。

叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

無惨に殺されて逆行した大聖女の復讐劇〜前世の記憶もついでに取り戻したので国造って貴国を滅ぼさせていただきます
ニコ
恋愛
体に宿る魔石が目当てで育てられたユリア。婚約者に裏切られて殺された彼女は封印された大聖女だった。
逆行した彼女は封印が解け、地球で暮らした前世の記憶も取り戻しておりーー
好き勝手する父親や婚約者、国王にキレた彼女は国を創って宣戦布告するようです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
不定期更新で行こうと思います。
ポチッとお気に入り登録していただけると嬉しいです\(^o^)/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる