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誕生した黒竜の意外な素顔
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黒光りした卵が割れたのは、砂風呂ができてからちょうど一ヶ月後のことだった。朝、覗いてみたところ小さなヒビが入っており、夜には小さな穴が空き始めた。村人全員で警戒しつつ見守る中、深夜を少し過ぎた頃に卵から小さな子供の手が出て来た。
慌てて卵の殻を割る作業を手伝うとネットリとした液体の中から二歳ぐらいの男の子が私の方を見てニコニコしている。
「こ、黒竜ですわよね……?」
用意していたタオルで少年を拭きながらフェンリルに振り返ると、憮然とした表情を浮かべている。完全武装して備えていた村長も拍子抜けた様子だ。卵から出て来たのはどう見ても人間の子供だからだ。
「グレイス、翼がある」
子供の健康状態を確認してくれたキースさんは、そう言ってタオルをめくると少年の背中を見せてくれた。そこには小さなコウモリのような黒い羽がペッタリとくっついている。黒髪に黒い瞳、浅黒い地肌……目の前に揃えられた条件は、彼が黒竜であるということを示していたが、にわかに信じがたかった。
「人型で生まれてきたようじゃのぉ」
いつの間にか現れたイスラは面白そうにそう言いながら、少年の黒い髪を優しく撫でつけた。その肌触りが嬉しいのか少年は目を細めて身を任せている。
「普通はドラゴンの姿で生まれてくるのじゃが、グレイスが人間の子供にするように声をかけておったからのぉ。人間と勘違いしてしまったのでないか?」
「かぁたぁ?」
少年は嬉しそうにそう言って私に抱き着く。生まれたばかりのくせに話すこともできて、這いずり回ることもできる。おそらく人間ではないことは確かだ。
「グレイス様、ささ、名前を授けてくださりませ」
村長に言われて、私は小さく悩む。実は名前は既に考えていた。ただ出てくるのは少年ではなくミニドラゴンだと思っていたので、この名前でいいのか……という戸惑いもある。
「カル……なんてどうでしょう?」
私が恐る恐るそう呼びかけると、少年は嬉しそうに「かぁーる」などと声に出す。どうやら気に入ったらしい。しかし自分の名前を理解し発音できるとは、見た目もだが知能も二歳児ぐらいなのだろうか。
「よい名前ですな。これで黒竜は大聖女様の従魔になりました。とりあえず一安心ですわい」
「『従魔』?」
以前、フェンリルがコロのことを私の『従魔』と言っていたような気もするが、魔物のシステムは今一つ私には分からない。
「今、名前をお与えになられたではございませんか。魔物は名前を賜った時点で、名前を与えた人間を主とみなしますのじゃ。ベリスもグレイス様から『コロ』という名前を賜っているからこそ、従魔なのですよ」
確かにコロの名前を彼に与えたのは、この世界に転生する前の話だ。結果として『ベリス』の方が後から付けられた名前になっていたのだろう。そして私と再会し、「コロ」であることを受け入れるうちに、私の従魔にもなったに違いない。
「名前は契約になりますのね……」
静かに感心しながら私はある事実に気付いた。
「オリヴィア……。私、オリヴィアも従魔にしてしまいましたの?!」
「どういうこと?」
不思議そうに私の顔を覗き込むキースさんに、名前がないという火竜に『オリヴィア』という名前を付けたことを明かした。『名前』にそんな意味があるなど、オリヴィアは一言も言っていなかった。
「すごいな……。グレイスは黒竜と火竜の使い手か」
感心したようにそう言ったキースさんを私は思わず睨みつける。
「そんな簡単な話ではありませんわ。だってオリヴィアはアルフレッド様と一緒にいるんですのよ?」
「そうだけど――」
「だ――よ。だ――よ」
私達が喧嘩をしていると思ったのだろうか、カルは一生懸命私とキースさんの服を掴みながら頭を横に振っている。
「大丈夫よ。喧嘩じゃないわよ」
少年の背中をポンポンと叩きながら私はにっこりと微笑んで見せる。先ほどまで不安そうな顔をしていた少年は途端に笑顔に戻った。
「キース様を『お父さん』としていたんですけど、ちゃんと分かっているみたいですわね」
「え?俺が?」
「あら、お嫌でした?私が母ならば、キース様が父かと思っていたのですが……」
そう言ってキースさんを見上げると、彼は耳まで真っ赤に染め上げていた。
慌てて卵の殻を割る作業を手伝うとネットリとした液体の中から二歳ぐらいの男の子が私の方を見てニコニコしている。
「こ、黒竜ですわよね……?」
用意していたタオルで少年を拭きながらフェンリルに振り返ると、憮然とした表情を浮かべている。完全武装して備えていた村長も拍子抜けた様子だ。卵から出て来たのはどう見ても人間の子供だからだ。
「グレイス、翼がある」
子供の健康状態を確認してくれたキースさんは、そう言ってタオルをめくると少年の背中を見せてくれた。そこには小さなコウモリのような黒い羽がペッタリとくっついている。黒髪に黒い瞳、浅黒い地肌……目の前に揃えられた条件は、彼が黒竜であるということを示していたが、にわかに信じがたかった。
「人型で生まれてきたようじゃのぉ」
いつの間にか現れたイスラは面白そうにそう言いながら、少年の黒い髪を優しく撫でつけた。その肌触りが嬉しいのか少年は目を細めて身を任せている。
「普通はドラゴンの姿で生まれてくるのじゃが、グレイスが人間の子供にするように声をかけておったからのぉ。人間と勘違いしてしまったのでないか?」
「かぁたぁ?」
少年は嬉しそうにそう言って私に抱き着く。生まれたばかりのくせに話すこともできて、這いずり回ることもできる。おそらく人間ではないことは確かだ。
「グレイス様、ささ、名前を授けてくださりませ」
村長に言われて、私は小さく悩む。実は名前は既に考えていた。ただ出てくるのは少年ではなくミニドラゴンだと思っていたので、この名前でいいのか……という戸惑いもある。
「カル……なんてどうでしょう?」
私が恐る恐るそう呼びかけると、少年は嬉しそうに「かぁーる」などと声に出す。どうやら気に入ったらしい。しかし自分の名前を理解し発音できるとは、見た目もだが知能も二歳児ぐらいなのだろうか。
「よい名前ですな。これで黒竜は大聖女様の従魔になりました。とりあえず一安心ですわい」
「『従魔』?」
以前、フェンリルがコロのことを私の『従魔』と言っていたような気もするが、魔物のシステムは今一つ私には分からない。
「今、名前をお与えになられたではございませんか。魔物は名前を賜った時点で、名前を与えた人間を主とみなしますのじゃ。ベリスもグレイス様から『コロ』という名前を賜っているからこそ、従魔なのですよ」
確かにコロの名前を彼に与えたのは、この世界に転生する前の話だ。結果として『ベリス』の方が後から付けられた名前になっていたのだろう。そして私と再会し、「コロ」であることを受け入れるうちに、私の従魔にもなったに違いない。
「名前は契約になりますのね……」
静かに感心しながら私はある事実に気付いた。
「オリヴィア……。私、オリヴィアも従魔にしてしまいましたの?!」
「どういうこと?」
不思議そうに私の顔を覗き込むキースさんに、名前がないという火竜に『オリヴィア』という名前を付けたことを明かした。『名前』にそんな意味があるなど、オリヴィアは一言も言っていなかった。
「すごいな……。グレイスは黒竜と火竜の使い手か」
感心したようにそう言ったキースさんを私は思わず睨みつける。
「そんな簡単な話ではありませんわ。だってオリヴィアはアルフレッド様と一緒にいるんですのよ?」
「そうだけど――」
「だ――よ。だ――よ」
私達が喧嘩をしていると思ったのだろうか、カルは一生懸命私とキースさんの服を掴みながら頭を横に振っている。
「大丈夫よ。喧嘩じゃないわよ」
少年の背中をポンポンと叩きながら私はにっこりと微笑んで見せる。先ほどまで不安そうな顔をしていた少年は途端に笑顔に戻った。
「キース様を『お父さん』としていたんですけど、ちゃんと分かっているみたいですわね」
「え?俺が?」
「あら、お嫌でした?私が母ならば、キース様が父かと思っていたのですが……」
そう言ってキースさんを見上げると、彼は耳まで真っ赤に染め上げていた。
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