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火竜らしい解決方法

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「本当にここの温泉って凄いわね~すっごいスベスベよ~~」

 そう言って喜々としながら肌の質感を確認している大男に私はにっこりと微笑む。以前と同じように酒場のテーブルの一角で彼と向き合っている。前回と違うことといえば、私達の前には紅茶の代わりに梅酒が置かれていたことだろうか。

「お気に召してくださって、本当に良かったですわ」

「うんうん。また来るね~~」

 すっかり口調がオネェ口調になっている火竜。

「あなた、貧民街にいた火竜でしてよね?」

 私は声を落として、ソッと囁く。既に酒場のカウンター、酒場の隅からは冒険者らしき人物らが鋭い視線を私達へ送っている。フェンリルの時もそうだったが、その視線に大男は気付いていないらしい……いや、気付いているのかもしれないが、気にしていないのかもしれない。

「分かっちゃった?」

 大男はテヘっといった様子で小さく肩をすくめて笑う。

「あふれでてくる乙女感が一緒ですもの……」

「じゃあ、捕まえる?」

 笑顔で大男はそう尋ねるが、目の奥が笑っていないのは一目瞭然だ。

「私には無理ですし、ここにいる人間だけではどうこうすることはできませんわ。ただアルフレッド様の消息を皆、心配していますの」

「ダーリンのことね……」

 いつの間にか恋人になったのだろうか。大男として目の前に登場されると、火竜の時よりもその関係性が生々しく感じられる。

「殿下のご両親は特に心配されていますわ」

「ダーリンは元気よ。とーーっても」

 何故かそういう彼の表情に疲れがにじみ出ているような気がした。

「とんでもない無理難題をおっしゃっているんじゃありませんこと?」

「え?何でわかるの?」

 何かの救いを求めるように彼は私へ視線を送る。

「殿下の無理難題はいつものことですわ。教室に日が当たらないから、学園の庭に生えている樹齢千年の木を切れと仰ったり、談話室と教室の距離が遠いから教室の場所を変更しろ……とか」

 私が知るアルフレッドは学園時代のものだけだが、定期的に無理難題を言って学園側を困らせていた。

「でも、それは殿下の不安の表れだと思いますの」

「不安?」

「えぇ、自分の不安定な立場を確認したくて、どこまで要求が通るのか試しているだけですのよ。だから要求が通っても通らなくてもいつも不機嫌でいらっしゃいましたわ」

 芸能人がマネージャーに無理難題を言って困らせるのと同じような原理だろう。それに付き合わされる周囲の人間はたまったものではないが……。

「そっか……。じゃあ、私を困らせているのも私の愛を確認しているってことかしら?」

「殿下とは恋人になられましたの?」

 大切なことなので私はあえて質問する。

「うんん。ダーリンはちょっとシャイだから、まだそういうのじゃないけど……私の愛が確認できたら、結婚してもらえるかもしれないっ!」

 少なくともアルフレッドの貞操は守られているらしい。

「アルフレッド様は、貴方にどんな無理難題を仰っていますの?」

「実はね……この国の王様になりたいって言っているの」

「王に?」

「最初はね、火竜であるあたしが王城を襲っているのを、彼がやっつけて英雄になるつもりだったんだけどぉ。ほら上手くいかなかったでしょ?」

 火竜を使って貧民街を焼き払いたかったというより、自分の第二王子としての立場を強固なものにするための蛮行だったことを知り、驚愕させられる。なんというアホだ。

「だからねぇ、どうにかして王にしてくれっていうのぉ――」

「それで第一王子の話になったわけですのね」

「そうそう。そうなのよぉ~~。極悪非道で狡猾な前王の息子が第一王子になっているから、ダーリンは第二王子として冷遇されてきたって――」

 なるほど……同情をかう作戦にでたのだろう。

「婚約者だったグレイスちゃんも第一王子と婚約することになって、貴族連中から命を狙われていたから英雄になりたかったんだって」

「それで話を聞きに来てくださったんですのね」

 火竜までアホでなくて本当に良かったと胸をなでおろす。

「だって、グレイスちゃんと初めて会った時、悪い子じゃないって直ぐわかったもん。だから本当のことが知りたかったのぉ」

「ありがとうございます。私もお話がちゃんとできましたら、貴方とはお友達になれる気がしておりましたの」

「えぇ~~やだぁ~~うれしいぃ~~」

 大男は両手を顎の下に持ってきて、嬉しそうに体を横に振る。そんな姿を見ると、私なんかよりも乙女のような気がしてくる。

「そう言えば、お名前を伺っておりませんでしたわ?」

「あ、実はないのよぉ~~」

 今度は両手を頬に当てて困ったように首を傾げる。

「あら……」

 意外な事実に私は目を丸くする。

「ほら、火竜って産まれた時から一人じゃない?だからぁ、誰も名前を付けてくれなかったし……王城に連れてこられるまで、人間と交流らしい交流もしてこなかったのよねぇ~~」

「なるほど。それでは私に名づけをさせていただけませんこと?」

「えぇ~~嬉しいぃ~~!可愛い名前にしてねぇ~~」

 火竜らしい勇ましい名前が候補として頭に浮かんでいたので、その言葉に慌てて新たな候補を考えることにした。可愛い……可愛い……。

「オリヴィア――。なんてどうでしょう?」

 女性ならば花の名前がピッタリかもしれないが、なんとなく花の名前では彼の見た目にアンマッチすぎる気がする。オリーブの木という意味があるオリヴィアなら色々とピッタリな気がする。

「やぁ~~ん。可愛くてカッコいい~~。凄い気にいっちゃった」

 語尾にはハートマークが乱舞しそうな勢いで喜んでもらい思わず私も笑顔になる。

「ねぇ、オリヴィア? アルフレッド様の無理難題を解決する方法は私も一緒に考えますわ。ですから一人で悩まないでくださいませね」

「うんうん。そうするぅ!もう胃に穴が空きそうなぐらい考えていたんだよ~~。グレイスちゃんが第一王子と婚約したんなら、第一王子を殺しちゃえばいいのかな~~って思ったんだけどぉ。こんな森に第一王子なんているわけないでしょ?だからね、ダーリンが言っていることが変だなぁ~~って思ったの」

 私は肯定とも否定ともとれる笑顔をその質問に向ける。彼はどうやらキースさんが第一王子という事実を知らないのだろう。

「あぁ~~よかった。なんか気持ちが楽になっちゃった!最後はダーリンのために、この国を滅ぼそうかな~~なんて思っていたから……本当に良かった!」

 満面の笑みを浮かべながら、無邪気にそういう彼……いや彼女の姿に思わずゾッとさせられたのは言うまでもない。
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