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男爵令嬢、取引を持ち掛ける
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ティアナの実家である男爵邸に到着し最初に驚いたのは、その古城の趣でも規模でも従業員がイケメンすぎることでもない。
ティアナの変わりようだった。
これまでのティアナはピンクゴールドのフワフワの髪を無造作に下ろし、フリフリとしたドレスを常に身にまとっていた。そのビジュアルは一瞬で『メインヒロイン』と分かる程だ。
ところが今、目の前にいる彼女はピンクゴールドの髪を一つにまとめ、谷間が強調された露出が多めの服を身にまとっていた。化粧までもナチュラルメイクから自己主張が強そうなセクシー系路線に変わっている気もする。
「お久しぶりですわ。グレイス様にエマさん」
ティーサロンで偽装妊娠が発覚したことは、まるでなかったかのように快活な笑みを浮かべて彼女は私達を出迎えた。変貌ぶりだけでなく、その精神力の強さにも薄ら寒いものを感じる。
「本日はお招きありがとうございます」
招待状を受け取ったエマが代表して、ティアナにお礼を言ってくれた。
「このような地方に足を運んでくださるなんて、本当に感激ですわ。皆様のお部屋は既にご用意しておりますわ」
軽くエマの挨拶を無視して、ティアナは私達を城内へ案内する。そんな彼女にディランが歩み寄り
「城をホテルとする発想、王城では専らの噂となっておりますよ」
と楽しそうに声をかけた。
「王城一の商会で働くディラン様にそう言っていただけると嬉しいです」
「主な顧客層はやはり若い女性なのでしょうか――」
「えぇ、少し迷いましたけど――」
城内を移動する間、二人は楽しそうにホテル経営について語っていた。彼女と初めて会った時は、その言動に呆れていたはずのディランだが、今日は城ホテルだけでなく彼女自身にも興味があるといった様子だ。そんな不思議な光景を眺めつつ私達は二人の後をついて歩くこととなった。
「こちらがエマさんのお部屋です」
一人一人の部屋を案内され、最後にエマの部屋にたどり着いた。結局、オリバー、ユアン、フレデリックは不参加となったこのメンバーの中で一番身分が低いのはエマだから仕方ないのかもしれないが、オマケといわんばかりの態度にエマは憮然とした表情を浮かべていた。
「お夕食の時間にはメイドが案内に参ります。まだお時間があるので……グレイス様、お時間をいただけませんか?」
突然、声をかけられ思わず私は返す言葉を迷う。もしかしたら第二王子を攻略できなかったことへの報復だろうか……と思わず警戒してしまう。
「実は梅肉エキスのことでご相談したいことがありますの」
そんな私の不穏な表情を読み取ったのか、ティアナはにっこりと微笑みそう言う。『梅肉エキス』について――と言われると断る理由が見当たらない。キースさんを見上げると無言で「行っておいで」と言わんばかりに優しく微笑まれた。
「少しだけならば――」
私の返事を最後まで聞かずにティアナは「ありがとうございます」と私の腕を取り、勢いよくエマの部屋から連れ出した。
「ねぇ、取引しない?」
中庭の東屋で二人きりになると、ティアナは先ほどまでの礼儀正しさが無くなり転生人としての表情を見せた。
「取引といいますと?」
「あんたに、第一王子の攻略方法を教えてあげる」
キースさんとオリバーは私が当初プレイしていたバージョンのゲームでは登場しないキャラクターだ。その後に発売された別機種用のゲームに登場するキャラクターであるとティアナから教えられたこともあった。
「攻略などしなくても、既にキース様とは両想いです」
私は少しムッとしながら反論する。確かにキースさんは攻略対象なのだろうが、そんなこととは関係なく彼を想い想われている自負があった。
「そうだね。形はプロポーズもされただろうし、婚約者なんだろうけど――」
ティアナはそこで言葉を区切り、ニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべる。
「でもあんた、第一王子の『心に決めた人』が誰か知らないでしょ」
キースさんにプロポーズされてから考えないようにしていたが、確かに彼の『心に決めた人』が誰だか私は知らない。
「まぁ、そういうの知らなくてもいいと思うんだけどね――。今日のディラン、ちょっと違ったでしょ」
「え……」
私の動揺を読み取ったのか、さらに彼女は追撃をする。
「あんたも知っていると思うけど、商人で女性関係が華やかなディランは、セクシーで快活な女が好きなのよね。でも商売の話ができる女――っていうのが実は最重要ポイント。ちょっと意外よね」
ディランを攻略する場合は、確かにセクシーさとビジュアル、知識などを問われる選択肢が登場する。これを正しく選ばないと彼の好感度を上げられずハッピーエンドは迎えられない。
「それが今日の私なの」
なるほど、彼女の変貌ぶりは対ディランを意識したものだったのか。思わず感心していると馬鹿にしたような表情でティアナは微笑む。
「本当に効果抜群だったわ。でも肝心の第一王子の攻略方法をあんたは知らないでしょ?」
一緒にいる時間は長いし、最近は甘い雰囲気が二人の間に流れるようになっていたが、確かに決め手に欠けている気もする。
「そこで取引をしたいの。私はあんたに第一王子の攻略方法を教える。その代わりあんたはここで温泉を発掘する。どう?悪くない取引でしょ?」
まるでお菓子を交換しようというような気軽さで提案するティアナだが、途方もない現実を突きつけられたような気がした。
ティアナの変わりようだった。
これまでのティアナはピンクゴールドのフワフワの髪を無造作に下ろし、フリフリとしたドレスを常に身にまとっていた。そのビジュアルは一瞬で『メインヒロイン』と分かる程だ。
ところが今、目の前にいる彼女はピンクゴールドの髪を一つにまとめ、谷間が強調された露出が多めの服を身にまとっていた。化粧までもナチュラルメイクから自己主張が強そうなセクシー系路線に変わっている気もする。
「お久しぶりですわ。グレイス様にエマさん」
ティーサロンで偽装妊娠が発覚したことは、まるでなかったかのように快活な笑みを浮かべて彼女は私達を出迎えた。変貌ぶりだけでなく、その精神力の強さにも薄ら寒いものを感じる。
「本日はお招きありがとうございます」
招待状を受け取ったエマが代表して、ティアナにお礼を言ってくれた。
「このような地方に足を運んでくださるなんて、本当に感激ですわ。皆様のお部屋は既にご用意しておりますわ」
軽くエマの挨拶を無視して、ティアナは私達を城内へ案内する。そんな彼女にディランが歩み寄り
「城をホテルとする発想、王城では専らの噂となっておりますよ」
と楽しそうに声をかけた。
「王城一の商会で働くディラン様にそう言っていただけると嬉しいです」
「主な顧客層はやはり若い女性なのでしょうか――」
「えぇ、少し迷いましたけど――」
城内を移動する間、二人は楽しそうにホテル経営について語っていた。彼女と初めて会った時は、その言動に呆れていたはずのディランだが、今日は城ホテルだけでなく彼女自身にも興味があるといった様子だ。そんな不思議な光景を眺めつつ私達は二人の後をついて歩くこととなった。
「こちらがエマさんのお部屋です」
一人一人の部屋を案内され、最後にエマの部屋にたどり着いた。結局、オリバー、ユアン、フレデリックは不参加となったこのメンバーの中で一番身分が低いのはエマだから仕方ないのかもしれないが、オマケといわんばかりの態度にエマは憮然とした表情を浮かべていた。
「お夕食の時間にはメイドが案内に参ります。まだお時間があるので……グレイス様、お時間をいただけませんか?」
突然、声をかけられ思わず私は返す言葉を迷う。もしかしたら第二王子を攻略できなかったことへの報復だろうか……と思わず警戒してしまう。
「実は梅肉エキスのことでご相談したいことがありますの」
そんな私の不穏な表情を読み取ったのか、ティアナはにっこりと微笑みそう言う。『梅肉エキス』について――と言われると断る理由が見当たらない。キースさんを見上げると無言で「行っておいで」と言わんばかりに優しく微笑まれた。
「少しだけならば――」
私の返事を最後まで聞かずにティアナは「ありがとうございます」と私の腕を取り、勢いよくエマの部屋から連れ出した。
「ねぇ、取引しない?」
中庭の東屋で二人きりになると、ティアナは先ほどまでの礼儀正しさが無くなり転生人としての表情を見せた。
「取引といいますと?」
「あんたに、第一王子の攻略方法を教えてあげる」
キースさんとオリバーは私が当初プレイしていたバージョンのゲームでは登場しないキャラクターだ。その後に発売された別機種用のゲームに登場するキャラクターであるとティアナから教えられたこともあった。
「攻略などしなくても、既にキース様とは両想いです」
私は少しムッとしながら反論する。確かにキースさんは攻略対象なのだろうが、そんなこととは関係なく彼を想い想われている自負があった。
「そうだね。形はプロポーズもされただろうし、婚約者なんだろうけど――」
ティアナはそこで言葉を区切り、ニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべる。
「でもあんた、第一王子の『心に決めた人』が誰か知らないでしょ」
キースさんにプロポーズされてから考えないようにしていたが、確かに彼の『心に決めた人』が誰だか私は知らない。
「まぁ、そういうの知らなくてもいいと思うんだけどね――。今日のディラン、ちょっと違ったでしょ」
「え……」
私の動揺を読み取ったのか、さらに彼女は追撃をする。
「あんたも知っていると思うけど、商人で女性関係が華やかなディランは、セクシーで快活な女が好きなのよね。でも商売の話ができる女――っていうのが実は最重要ポイント。ちょっと意外よね」
ディランを攻略する場合は、確かにセクシーさとビジュアル、知識などを問われる選択肢が登場する。これを正しく選ばないと彼の好感度を上げられずハッピーエンドは迎えられない。
「それが今日の私なの」
なるほど、彼女の変貌ぶりは対ディランを意識したものだったのか。思わず感心していると馬鹿にしたような表情でティアナは微笑む。
「本当に効果抜群だったわ。でも肝心の第一王子の攻略方法をあんたは知らないでしょ?」
一緒にいる時間は長いし、最近は甘い雰囲気が二人の間に流れるようになっていたが、確かに決め手に欠けている気もする。
「そこで取引をしたいの。私はあんたに第一王子の攻略方法を教える。その代わりあんたはここで温泉を発掘する。どう?悪くない取引でしょ?」
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