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大聖女の温泉…その効能は異次元レベル
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「グレイス様……一つ質問なのですが、ご自身で入浴されたことありますか?」
女性客集客のためには広告塔が必要だと、ある日の午後、エマを温泉宿へ招待していた。胡散臭いという表情を隠さなかったエマだが、入浴後は見違える程目を輝かせていた。
「肌がすべすべになりました」
「ええ。今日は牛乳風呂ですからね」
牛乳:湯が1:9になる割合で混ぜ合わせる牛乳風呂。さすがに普通のお風呂でこれを実現するのは難しい。おばあちゃんは洗面器にミニ牛乳風呂を作り手やひじなどのガサガサをケアしてくれた。ただ昨日、たまたま牛乳を大量に買い付けたという商人がおり、格安で譲ってもらったのだ。
「牛乳には保湿成分がありますの。古くから美肌のために入浴剤として使われていたりしましたのよ」
「古くから?聞いたことありませんが……あぁ、貴族の間で……ということですね」
本当は古代エジプトでの話だが、私が弁解するよりも先にエマは勝手に納得してくれた。
「でも牛乳だけで、こんなに肌がつるつるになりますか?自宅に職人を呼んで美肌ケアをしているんですけど、どんなに高いオイルを使ってもこんなにはなりませんでしたよ」
そう言って差し出されたエマの腕を触れてみると、確かにツヤツヤしているだけでなくもっちりと吸い付くような質感だ。入浴前の彼女の肌を触っていたわけではないので、分からないがかなり効果があるようだ。
「グレイス様は温泉に入られたことあるんですか?」
「実は……ないんですの」
忙しいということもあり、実は残念ながら入浴したことがなかった。
「絶対、この温泉何かあります」
エマの必死な形相に負け、いい機会だからと私も入浴してみることにした。簡素な造りだが、広々とした空間で入浴するのはやはり気持ちがいい。白濁とした湯舟につかりながら手足を伸ばしてみるとジンワリと身体が温かくなる。
「温泉ってやっぱり最高だな――」
久々の温泉に嬉しくなりながら、ふと自分の腕を触ってみてギョッとする。
「なにこれ……ツルツル?」
吸い付くというようなレベルではない。生まれ変わったような肌の質感に思わず愕然とする。美肌の効能がある温泉は日本にも多数あったし入浴したこともあるが、ここまで肌質の変化を感じることはなかった。
「私が掘ったから……?」
ユアンには「突っついただけ」と説明したが、一応木の枝を使って地面を掘ったことには変わりない。異世界の温泉だから……という可能性もあるが、あれだけ美に目ざといエマですら、この泉質の違いに驚くぐらいだ。おそらく特別なのだろう。
新たな発見に静かに感動していると、ふと足の痛みがジンワリとなくなっていくのも感じる。コロが背中に乗せてくれるとはいえ、やはり三十分近く鞍などがない獣の背中に乗っているのは非常に体力が必要だ。ここに来るたびに筋肉痛を感じていたのだが、その鈍い痛みが無くなっていることにも気づく。
「でも何でみんな気付かなかったんだろう」
当然の疑問に私は首を傾げる。十分程度入浴しただけでも、これだけの変化が感じられたのだ。開店してから三か月以上が経つ現在、来客の間で話題にならなかったのが不思議だ。
「ねぇ、お二人は温泉に入っていらっしゃる?」
酒場のカウンター越しにリタ姉達にそう質問すると、二人は顔を見合わせると苦笑いを浮かべた。
「あの大きな湯舟に入るってことだよね……」
二人は従業員ということもあり無料で温泉を使用することができるはずだ。
「実は……入っていません」
「え?! なんで?」
「子供の時から湯舟に入る習慣ってないだよね。グレイス姉さんは湯舟に入るようにって言ってくれたけどさ、なんか慣れなくて……。体を洗う時にお湯を使うぐらいしか使ってないよ」
「それって他のお客様もそうなのかしら?」
「う――ん。男湯のことはよく分からないけど、長々と湯舟につかる……って人は多くないと思うよ?」
先ほどの疑問に早速答えが出た。エマは私が牛乳風呂の魅力を伝えていたから湯舟につかってくれたが、多くの利用客は身体を洗う場所という認識しかないのだろう。
ちなみにリタ姉達に温泉の効能を説明し自分の肌を触らせてみたところ、二人が仕事を放りだして温泉に向かったのは言うまでもない。
女性客集客のためには広告塔が必要だと、ある日の午後、エマを温泉宿へ招待していた。胡散臭いという表情を隠さなかったエマだが、入浴後は見違える程目を輝かせていた。
「肌がすべすべになりました」
「ええ。今日は牛乳風呂ですからね」
牛乳:湯が1:9になる割合で混ぜ合わせる牛乳風呂。さすがに普通のお風呂でこれを実現するのは難しい。おばあちゃんは洗面器にミニ牛乳風呂を作り手やひじなどのガサガサをケアしてくれた。ただ昨日、たまたま牛乳を大量に買い付けたという商人がおり、格安で譲ってもらったのだ。
「牛乳には保湿成分がありますの。古くから美肌のために入浴剤として使われていたりしましたのよ」
「古くから?聞いたことありませんが……あぁ、貴族の間で……ということですね」
本当は古代エジプトでの話だが、私が弁解するよりも先にエマは勝手に納得してくれた。
「でも牛乳だけで、こんなに肌がつるつるになりますか?自宅に職人を呼んで美肌ケアをしているんですけど、どんなに高いオイルを使ってもこんなにはなりませんでしたよ」
そう言って差し出されたエマの腕を触れてみると、確かにツヤツヤしているだけでなくもっちりと吸い付くような質感だ。入浴前の彼女の肌を触っていたわけではないので、分からないがかなり効果があるようだ。
「グレイス様は温泉に入られたことあるんですか?」
「実は……ないんですの」
忙しいということもあり、実は残念ながら入浴したことがなかった。
「絶対、この温泉何かあります」
エマの必死な形相に負け、いい機会だからと私も入浴してみることにした。簡素な造りだが、広々とした空間で入浴するのはやはり気持ちがいい。白濁とした湯舟につかりながら手足を伸ばしてみるとジンワリと身体が温かくなる。
「温泉ってやっぱり最高だな――」
久々の温泉に嬉しくなりながら、ふと自分の腕を触ってみてギョッとする。
「なにこれ……ツルツル?」
吸い付くというようなレベルではない。生まれ変わったような肌の質感に思わず愕然とする。美肌の効能がある温泉は日本にも多数あったし入浴したこともあるが、ここまで肌質の変化を感じることはなかった。
「私が掘ったから……?」
ユアンには「突っついただけ」と説明したが、一応木の枝を使って地面を掘ったことには変わりない。異世界の温泉だから……という可能性もあるが、あれだけ美に目ざといエマですら、この泉質の違いに驚くぐらいだ。おそらく特別なのだろう。
新たな発見に静かに感動していると、ふと足の痛みがジンワリとなくなっていくのも感じる。コロが背中に乗せてくれるとはいえ、やはり三十分近く鞍などがない獣の背中に乗っているのは非常に体力が必要だ。ここに来るたびに筋肉痛を感じていたのだが、その鈍い痛みが無くなっていることにも気づく。
「でも何でみんな気付かなかったんだろう」
当然の疑問に私は首を傾げる。十分程度入浴しただけでも、これだけの変化が感じられたのだ。開店してから三か月以上が経つ現在、来客の間で話題にならなかったのが不思議だ。
「ねぇ、お二人は温泉に入っていらっしゃる?」
酒場のカウンター越しにリタ姉達にそう質問すると、二人は顔を見合わせると苦笑いを浮かべた。
「あの大きな湯舟に入るってことだよね……」
二人は従業員ということもあり無料で温泉を使用することができるはずだ。
「実は……入っていません」
「え?! なんで?」
「子供の時から湯舟に入る習慣ってないだよね。グレイス姉さんは湯舟に入るようにって言ってくれたけどさ、なんか慣れなくて……。体を洗う時にお湯を使うぐらいしか使ってないよ」
「それって他のお客様もそうなのかしら?」
「う――ん。男湯のことはよく分からないけど、長々と湯舟につかる……って人は多くないと思うよ?」
先ほどの疑問に早速答えが出た。エマは私が牛乳風呂の魅力を伝えていたから湯舟につかってくれたが、多くの利用客は身体を洗う場所という認識しかないのだろう。
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