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ミカン風呂~美肌にはコレで決まり!~
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酒場が温泉宿に併設されてから商人だけでなく冒険者も利用するようになり、フレデリックが言ったように売り上げも好調なようだ。だが私は内心納得していなかった。
「このままではいけないと思うんです」
私はキースさんを前に熱く主張していた。一年前とは異なり、最近では二人で何かを話す時は机を挟んでではなくソファーに隣り合って座りながら……ということが増えるようになっていた。
「酒場でリタ達のお姉さんが活躍しているのは、大変に喜ばしいことだとは思います。ですが、男性客ばかりを集めるだけが温泉宿の在り方ではないと思うんです」
フレデリックとは異なりキースさんは、そうだね、と同意してくれる。それだけでも何故か心強く感じるから不思議だ。
「私は、商人や冒険者の方々だけでなく体調を整えるために訪れるお客様も増やしたいんです」
「どうやって増やすんだい?」
「最大の問題は交通手段の確保です。王城の中心部から温泉宿まで片道二時間以上かかります。さらに体調が悪い方々でしたら、それ以上の時間が必要になります」
「体調が悪い時に長距離の移動は難しいだろうね」
それだけの距離を歩いてたどり着けるだけの健康体ならば、湯治など必要ないに違いない。
「そこで無料送迎を提供したいと思います」
日本では地方の温泉宿が実施しているサービスだ。東京や大阪など主要都市から宿泊客を対象としたシャトルバスを運行させ集客を行う。その運賃は施設により異なるが、無料から数千円というのが相場だ。
「ちょっと分からないんだけど……そんなことして儲かるの?」
確かに馬車を確保する料金を考えたら、日帰りで帰ってもらっては元を取ることができない。
「そこで『湯治』ですわ。湯治は一般的に二週間が単位といわれています。二週間連泊してくださるお客様を対象とした送迎サービスにいたします」
「なるほどね。一泊の料金が安いから二週間宿泊しても金貨二枚もかからないわけだね」
「そのためには毎日入浴していただくことになるのですが、飽きてしまうと思いますの。そこで温泉を日替わりで変えます」
「変えるというと?」
そう言われ私は慌てて戸棚へ向かい乾かしたミカンの皮をキースさんに見せた。
「入浴剤ですわ。紅茶やヨモギ、大根の葉などを使ってお湯の種類を変えるんですの」
「へぇ……。ミカンの皮で効果があるの?」
私は大きく頷く。
「ミカンはその果肉だけでなく皮にもビタミンが含まれていますので、肌荒れにも効果的なんですのよ?」
食べた後、天日干しするだけで簡単に作れるので、おばあちゃんは冬場になるとよくミカン風呂にしてくれていた。天日干しが面倒な時は電子レンジで数分加熱するだけでも乾燥させられる。
「そういうお風呂があったら女性客にも人気が出そうだね」
「女性――キース様、天才ですわ!! 早速、明日、温泉宿に行ってきてもよろしいでしょうか」
「診療所は大丈夫だよ。でも……」
そう言うとキースさんは珍しく愛おしそうに私の髪に触れた。
「君と半日以上離れるのは辛いな……」
確かに午前中に出発しても森の奥の温泉宿に行くとなると、帰ってくるのは夜になることが多い。
「私も寂しいですわ」
キースさんの手を取りながら、ふとあることを思いついた。半日以上温泉宿で過ごすならば食事が欠かせないはずだ。現在は酒場で簡単な軽食を提供しているが、やはり酒のつまみという一面が強い。お風呂に入ってランチを楽しむという雰囲気では決してない。
「ランチですわ!!」
私はソファーから立ち上がりながら、その思いつきを口にする。男性が酒でお金を落とすように女性も飲食代でお金を落としてくれれば、売り上げはアップするはずだ。特に鍾乳洞の入口にあったホールをカフェにすれば女性客に喜ばれること間違いなし。これならばディランや村長らも男性客以外の集客に協力してくれるに違いない。
「キース様、大好きですわ」
あまりの嬉しさに私はキースさんの首元に抱きつき感謝を伝えた。そんな私に対してキースさんが困ったような笑みを浮かべていたと知るのは、もう少し先のこととなる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【注意】
今回紹介した『ミカン風呂』による効能はあくまでも民間療法です。経験に基づいた知識であるため体質に合わない場合があります。特にミカンの皮に含まれる精油成分が肌を刺激する場合もあります。体調に異変を感じた場合は、直ぐに使用を中止してください。
【参考文献】
NPO法人 おばあちゃんの知恵袋の会(2010年)『おばあちゃんからの暮らしの知恵』高橋書店
「このままではいけないと思うんです」
私はキースさんを前に熱く主張していた。一年前とは異なり、最近では二人で何かを話す時は机を挟んでではなくソファーに隣り合って座りながら……ということが増えるようになっていた。
「酒場でリタ達のお姉さんが活躍しているのは、大変に喜ばしいことだとは思います。ですが、男性客ばかりを集めるだけが温泉宿の在り方ではないと思うんです」
フレデリックとは異なりキースさんは、そうだね、と同意してくれる。それだけでも何故か心強く感じるから不思議だ。
「私は、商人や冒険者の方々だけでなく体調を整えるために訪れるお客様も増やしたいんです」
「どうやって増やすんだい?」
「最大の問題は交通手段の確保です。王城の中心部から温泉宿まで片道二時間以上かかります。さらに体調が悪い方々でしたら、それ以上の時間が必要になります」
「体調が悪い時に長距離の移動は難しいだろうね」
それだけの距離を歩いてたどり着けるだけの健康体ならば、湯治など必要ないに違いない。
「そこで無料送迎を提供したいと思います」
日本では地方の温泉宿が実施しているサービスだ。東京や大阪など主要都市から宿泊客を対象としたシャトルバスを運行させ集客を行う。その運賃は施設により異なるが、無料から数千円というのが相場だ。
「ちょっと分からないんだけど……そんなことして儲かるの?」
確かに馬車を確保する料金を考えたら、日帰りで帰ってもらっては元を取ることができない。
「そこで『湯治』ですわ。湯治は一般的に二週間が単位といわれています。二週間連泊してくださるお客様を対象とした送迎サービスにいたします」
「なるほどね。一泊の料金が安いから二週間宿泊しても金貨二枚もかからないわけだね」
「そのためには毎日入浴していただくことになるのですが、飽きてしまうと思いますの。そこで温泉を日替わりで変えます」
「変えるというと?」
そう言われ私は慌てて戸棚へ向かい乾かしたミカンの皮をキースさんに見せた。
「入浴剤ですわ。紅茶やヨモギ、大根の葉などを使ってお湯の種類を変えるんですの」
「へぇ……。ミカンの皮で効果があるの?」
私は大きく頷く。
「ミカンはその果肉だけでなく皮にもビタミンが含まれていますので、肌荒れにも効果的なんですのよ?」
食べた後、天日干しするだけで簡単に作れるので、おばあちゃんは冬場になるとよくミカン風呂にしてくれていた。天日干しが面倒な時は電子レンジで数分加熱するだけでも乾燥させられる。
「そういうお風呂があったら女性客にも人気が出そうだね」
「女性――キース様、天才ですわ!! 早速、明日、温泉宿に行ってきてもよろしいでしょうか」
「診療所は大丈夫だよ。でも……」
そう言うとキースさんは珍しく愛おしそうに私の髪に触れた。
「君と半日以上離れるのは辛いな……」
確かに午前中に出発しても森の奥の温泉宿に行くとなると、帰ってくるのは夜になることが多い。
「私も寂しいですわ」
キースさんの手を取りながら、ふとあることを思いついた。半日以上温泉宿で過ごすならば食事が欠かせないはずだ。現在は酒場で簡単な軽食を提供しているが、やはり酒のつまみという一面が強い。お風呂に入ってランチを楽しむという雰囲気では決してない。
「ランチですわ!!」
私はソファーから立ち上がりながら、その思いつきを口にする。男性が酒でお金を落とすように女性も飲食代でお金を落としてくれれば、売り上げはアップするはずだ。特に鍾乳洞の入口にあったホールをカフェにすれば女性客に喜ばれること間違いなし。これならばディランや村長らも男性客以外の集客に協力してくれるに違いない。
「キース様、大好きですわ」
あまりの嬉しさに私はキースさんの首元に抱きつき感謝を伝えた。そんな私に対してキースさんが困ったような笑みを浮かべていたと知るのは、もう少し先のこととなる。
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【注意】
今回紹介した『ミカン風呂』による効能はあくまでも民間療法です。経験に基づいた知識であるため体質に合わない場合があります。特にミカンの皮に含まれる精油成分が肌を刺激する場合もあります。体調に異変を感じた場合は、直ぐに使用を中止してください。
【参考文献】
NPO法人 おばあちゃんの知恵袋の会(2010年)『おばあちゃんからの暮らしの知恵』高橋書店
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