5 / 47
モフモフ温泉
しおりを挟む
「グレイスさ~~ん!こっち~~!!」
私達の少し先を歩いていたパウラ達が井戸の前で手を勢いよく振っている。獣人の生活環境を改善することを考えるよりも今は彼女達の歓迎を受けよう――と思った矢先、井戸の奥にある岩場から白い煙が立ち上がるのが見えた。
「あれ……何?」
『あぁ。湧き水だ』
コロは何でもないと言った様子だが、絶対におかしい。
湧き水から湯気が出ているとはどういうことだろうか。私は慌ててその場所に駆け寄る。地面の泥の中からお湯が滲みだしている状態だが、恐る恐る触れるとかなり温かいことが分かる。
「あ――グレイスさん、それダメだよ。温かいけど泥だらけになっちゃう」
湧き出ている量が少ないからか、全く生活に使用されていないようだ。しかしパウラ達のアドバイスを無視して私は近くにあった木の枝でお湯が湧き出てくる場所を軽く掘り起こす。
もしかしたら……。
もしかしたら……。
数回掘ると、先ほどまでチョロチョロと湧き出ていたお湯が、突然ドバっと小さな噴水のように噴き出してきた。泥だらけになりながら思わず笑顔があふれてしまう。
「これ、温泉だよ!!」
しかし残念ながら私の感動の言葉の意味は、コロにもパウラ達には伝わらなかったようだ。私の叫び声に井戸の側にいた住人らも集まってきたが、全員不思議そうに首を傾げるだけだった。
「確かに温泉ですね」
ユアンは試験管を見ながら感心したようにそう呟く。数日後、ユアンを連れて再び鍾乳洞を訪れていた。温泉といっても、そもそも入ることができない温泉も存在する。成分的に利用が可能かどうか専門家に確認してもらいたかったのだ。
「成分を調べました所、入浴に使用しても問題ありませんよ。でも、こんなに湯量が豊富なのに、なんで使用していないんですか?」
私が掘り起こした時よりも湧き水の勢いはさらに増しており、今では腰の位置までお湯が噴き出している。
「私が掘り起こすまでは、湧き水程度の湯量しかなかったからだと思いますわ」
「一人でそんなに掘ったんですか?」
ユアンは訝し気な表情を浮かべる。
「そんなことありませんわ。ちょっと木の枝で地面をつついただけでしてよ」
一人で温泉の掘削作業をした……と思われてはたまらないので、思わず弁解するがやはりユアンの表情は変わらない。
「まぁ、伝説では井戸を掘り起こしたり、枯れた滝をよみがえらせたりする大聖女がいますからね……」
「大聖女の力というより、ただ湧いていたものを見つけただけですわ」
伝説の大聖女と肩を並べられるレベルではない……と必死で否定する。本当にたまたま湧いていたのを見つけただけなのだ。
「で、どうすんだ?これ」
獣人達やユアンとは異なり、その存在価値に気付いているのだろう。ディランは満面の笑顔を浮かべて私に質問した。
「ここで温泉宿を開いたらどうでしょう?」
「いいねぇ――」
ユアンに温泉の調査を依頼した際、たまたま工場にいたディランは目を輝かせて「一緒に行く」と同行を申し出てくれた。おそらくその時点から彼の頭の中で私以上にビジネスプランが練り上げられていたに違いない。
私達の少し先を歩いていたパウラ達が井戸の前で手を勢いよく振っている。獣人の生活環境を改善することを考えるよりも今は彼女達の歓迎を受けよう――と思った矢先、井戸の奥にある岩場から白い煙が立ち上がるのが見えた。
「あれ……何?」
『あぁ。湧き水だ』
コロは何でもないと言った様子だが、絶対におかしい。
湧き水から湯気が出ているとはどういうことだろうか。私は慌ててその場所に駆け寄る。地面の泥の中からお湯が滲みだしている状態だが、恐る恐る触れるとかなり温かいことが分かる。
「あ――グレイスさん、それダメだよ。温かいけど泥だらけになっちゃう」
湧き出ている量が少ないからか、全く生活に使用されていないようだ。しかしパウラ達のアドバイスを無視して私は近くにあった木の枝でお湯が湧き出てくる場所を軽く掘り起こす。
もしかしたら……。
もしかしたら……。
数回掘ると、先ほどまでチョロチョロと湧き出ていたお湯が、突然ドバっと小さな噴水のように噴き出してきた。泥だらけになりながら思わず笑顔があふれてしまう。
「これ、温泉だよ!!」
しかし残念ながら私の感動の言葉の意味は、コロにもパウラ達には伝わらなかったようだ。私の叫び声に井戸の側にいた住人らも集まってきたが、全員不思議そうに首を傾げるだけだった。
「確かに温泉ですね」
ユアンは試験管を見ながら感心したようにそう呟く。数日後、ユアンを連れて再び鍾乳洞を訪れていた。温泉といっても、そもそも入ることができない温泉も存在する。成分的に利用が可能かどうか専門家に確認してもらいたかったのだ。
「成分を調べました所、入浴に使用しても問題ありませんよ。でも、こんなに湯量が豊富なのに、なんで使用していないんですか?」
私が掘り起こした時よりも湧き水の勢いはさらに増しており、今では腰の位置までお湯が噴き出している。
「私が掘り起こすまでは、湧き水程度の湯量しかなかったからだと思いますわ」
「一人でそんなに掘ったんですか?」
ユアンは訝し気な表情を浮かべる。
「そんなことありませんわ。ちょっと木の枝で地面をつついただけでしてよ」
一人で温泉の掘削作業をした……と思われてはたまらないので、思わず弁解するがやはりユアンの表情は変わらない。
「まぁ、伝説では井戸を掘り起こしたり、枯れた滝をよみがえらせたりする大聖女がいますからね……」
「大聖女の力というより、ただ湧いていたものを見つけただけですわ」
伝説の大聖女と肩を並べられるレベルではない……と必死で否定する。本当にたまたま湧いていたのを見つけただけなのだ。
「で、どうすんだ?これ」
獣人達やユアンとは異なり、その存在価値に気付いているのだろう。ディランは満面の笑顔を浮かべて私に質問した。
「ここで温泉宿を開いたらどうでしょう?」
「いいねぇ――」
ユアンに温泉の調査を依頼した際、たまたま工場にいたディランは目を輝かせて「一緒に行く」と同行を申し出てくれた。おそらくその時点から彼の頭の中で私以上にビジネスプランが練り上げられていたに違いない。
0
お気に入りに追加
1,164
あなたにおすすめの小説
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
それじゃあエルガ、後はお願いね
みつまめ つぼみ
恋愛
アルスマイヤー男爵家の令嬢ユーディトは、突然聖教会から次期大聖女に指名される。断ることもできず、彼女は一年間の修行に出ることに。親友のエルガに見送られ、ユーディトは新たな運命に立ち向かう。
しかし、修行を終えて戻ったユーディトを待っていたのは、恋人フレデリックと親友エルガの結婚という衝撃の知らせだった。心の中で複雑な感情を抱えながらも、ユーディトは二人の結婚式に出席することを決意する。
サクッと書いたショートストーリーです。
たぶん、ふんわりざまぁ粒子が漏れ出ています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる