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限りなく無力に近い大聖女

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 右手をパウラ、左手を妹のモニカに引かれながら案内され、鍾乳洞に入り思わず息を飲み込む。入口は小さいが、入ってすぐの場所には広場のような開けた空間が広がっていた。その奥にはさらに道が続いており、居住空間もあるという。こんな場所が王城内に存在したことに驚かされた。

 大きな都市が城壁で囲まれており、その内部を“王城”と呼ぶ。国王らが住み、議会などが開かれる王宮は王城内の中心に位置し、それを囲むようにして商店や娯楽施設がひしめき合っている。その一方、城壁付近の地域では自然が広がっているのだが、鍾乳洞が存在するという事実は生まれて初めて知った。

「凄い大きいわね」

「グレイスさん、こっちよ!こっち!」

 そう言って嬉しそうに手を引く彼女達について行くと、道はどんどん細くなる。道の左右には小さな木の扉が点々とあり、その一つ一つがプライベート居住空間への入口なのだろう。

「ここが私達のおうちなの」

 十分ほど歩いた頃だろうか。パウラが指さした先にはやはり小さな扉があり、その前で獣人の女性と診療所に来たことがあるクァールの姿があった。

「パウラとモニカの母・マリアです。二人が、いつも大変お世話になっております」

 獣人の女性は深々と頭を下げ、歓迎してくれた。

「本日はお招きいただきありがとうございますわ」

「狭くて申し訳ないのですが……。どうぞおあがりください」

 マリアさんはそう言って扉を開けて案内してくれた。部屋に入って初めて、『なぜ彼女が扉の外で待っていたのか』が分かった。部屋の大きさは日本でいう四畳あるかないかの広さしかないのだ。巨大なクァールが寝そべると部屋の半分は占拠され、座るのがやっとだ。

「あ!! 食事の前に手洗いしなきゃ!!」

 テーブルの前に座るとパウラは思い出したように叫ぶ。

「グレイスさんも手、洗ってないでしょ?一緒に行こう!」

 パウラは私の手を引くと、扉の外へ案内しようとする。部屋の中には寝具、衣類食器などはあったが、調理場や流しなどは見当たらなかった。おそらく共同の井戸などがあるのだろう。

「すみませんね……」

 マリアさんは申し訳なさそうにするが、私は笑顔で首を横に振る。

「手洗いの習慣が身についているって素晴らしいことですわ。ちょっと失礼させていただきますわね」


 井戸は再び入口へ戻り、さらに少し歩いた場所にあるという。

貧民街の生活水準も決して高くはなかったが、調理場は各家庭にあり井戸だけを共同で使用しているという状態だった。一方、この鍾乳洞では四畳ほどの空間がプライベート空間で、それ以外は全て共同生活をしている状態だ。

 その生活水準の低さに思わず同情してしまいそうになるが、森でコロと交わした言葉を思い出し務めて表情には出さないようにする。パウラ達にとっては、これが日常なのだから。

「だから私をここに連れてきたのね」

 無言で私達の後をついてくるコロに静かに呟く。

『そうさな……見て欲しかったってのはあるな』

「シャモンドを売って生活したらいいんじゃない?」

 それが一番手っ取り早い。貧民街のように工場を建設して商品を作り出すよりも、よほど簡単に収入を確保できるだろう。

『あれは森の主のものだ。グレイスは好きに採集していいって言われているけど、ここの住民にはそれは許されてない。土産として持っていくのだって、主が持っていけと言ってくれるからできることなんだ』

 森の主は乱獲されて市場に出回り市場価値が下がることを心配しているのだろうか――。

「でも何もできないわよ」

 私は思わず反論する。周囲の人は『大聖女』と私をあがめてくれるが、できることは本当に限られている。怪我を治すこと、動物や魔物と会話ができること、薬品を作ると少し効能が上がること……ぐらいだ。

 ただ『大聖女』というと多くの人は、さらなる奇跡を期待する。確かに私も以前は「なんでもできる神」的な存在だと思い込んでいた。そのためキースさんなど一部の人にしかその事実を伝えていないし、その力を披露することもほとんどない。

『別に助けてくれ――なんて言ってないだろ?』

 コロはフンっと鼻を鳴らし私の反論を一蹴した。
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