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異世界にある、第2の故郷
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――『もう一つのスカイ』今夜のゲストはグレイス公爵令嬢。
美しいブロンドにサファイアブルーの双眸は見る人の心を奪い、社交界に大輪の花を添えた令嬢。
ただ一年前、第二王子からの一方的な婚約破棄を期に社交界から姿を消すことに……。新たに医者と婚約したという噂もあり、今社交界から注目を集める令嬢の一人でもある。――
――今夜のゲストは公爵令嬢のグレイス・ゴドウィン様です。よろしくお願いします――
「よろしくお願いいたしますわ」
――公の場に出られるのは一年ぶりですよね?――
「えぇ、一年前に公爵邸を出ましてね。夜会などに顔を出す時間がございませんの」
――相手はなんでも貧民街で医師をしている男性だとか。戸惑いなどありませんでしたか?――
「戸惑いばかりでしたわ。最初は皆さまが何に困っているのかを考えることから始まりまして……」
――貴族と平民では悩みもそりゃー違いますもんね――
「そうなんです。でも今では少しずつお役に立てるようになって参りましたのよ」
――そんなグレイス様の『もう一つのスカイ』はどちらですか?――
「王城にあります森ですわ」
――あぁ、なんでも森の主がいて、迂闊に足を踏み入れると蹴り殺されるって、おそろしい場所ですよね――
「皆様はあまり行かれませんわね」
――ですよね……――
「でもだからこそ、ここでしか採集できない植物やここでしか会えない獣人の方々もいらっしゃいますのよ」
――なるほど……――
――この日、グレイス公爵令嬢は森の入口に立ったが、人影らしいものは見えない。しかしグレイスは気にした様子もなく森の奥へ向かっていく――
――危険はないんですか?――
「そうですね。あまり初めての方にはオススメいたしませんわ。森の主は実際にいますからね。周囲の人間も最初は私が一人で行くことを心配していたのですが……」
――初日には婚約者とその弟までも同伴したという――
「今では気軽に見送ってくれていますわ。あ、ほら見えた。コロでしてよ」
――グレイス公爵令嬢がそう言って指さした先には、バイク程の大きさはあるダイアウルフがそこにいた――
『なぁ、そのコロってのは止めろ。それとお前は何を一人ぶつぶつ言ってんだ』
「『もう一つのスカイ』ごっこよ。コロもよくテレビで一緒にみたでしょ?でも『情熱平原』とは違って、スタッフとのかけあいというよりナレーションが入る感じだから難しいわね」
スタッフによるインタビュー形式ではなく、ナレーションが入る形の『もう一つのスカイ』。さらにスタジオでMCらとゲストの会話も入るので想像以上に、その再現が難しく苦戦させられている。できるなら、もう一度見たいが叶いそうにない願いなので、勿論口にしない。
『わざわざ森まで来てくれなくても、俺が迎えに来てやったのに』
「別に道中だって、この森ほど危険じゃないわ。パウラ達もなんだかんだいって毎日、二人で森から通っているわけだしね」
『あいつらは獣人だからな』
獣人の二人が工場の学校に通うようになってから半年以上が経過している。今では年下の子供達をまとめる係まで務めるほど馴染んでいる。最初はどうなることかと思っていたが、子供の順応性の高さには驚かされてばかりだ。
「でも別にお礼なんてしてくれなくていいんだよ?」
『いや、パウラだけじゃなくて、あいつらの親達もどうしてもお礼がしたいみたいなんだよ』
今日は、パウラの一家が夕飯に招待してくれたのだ。最初は断ったが、パウラ達があまりにもしつこく誘うので家庭訪問を兼ねてお邪魔することにした。
「獣人の方々はみんな森の中に住んでいるの?」
『この奥になるんだけどな。大きな鍾乳洞があって、そこで暮らしている』
「へぇ~~鍾乳洞か~~。いいね~~楽しそう」
そう言った私をコロは冷めたような目で見る。
『あのな……鍾乳洞ってのは、観光にはいいが住んで楽しいって場所じゃねぇぞ』
また、やってしまった。あまりにも生活環境が異なり、大変なのかどうかが分からなくなるのだ。心の中で静かに反省しつつも、パウラ達を傷つけずに済んだことにホッとしていた。
美しいブロンドにサファイアブルーの双眸は見る人の心を奪い、社交界に大輪の花を添えた令嬢。
ただ一年前、第二王子からの一方的な婚約破棄を期に社交界から姿を消すことに……。新たに医者と婚約したという噂もあり、今社交界から注目を集める令嬢の一人でもある。――
――今夜のゲストは公爵令嬢のグレイス・ゴドウィン様です。よろしくお願いします――
「よろしくお願いいたしますわ」
――公の場に出られるのは一年ぶりですよね?――
「えぇ、一年前に公爵邸を出ましてね。夜会などに顔を出す時間がございませんの」
――相手はなんでも貧民街で医師をしている男性だとか。戸惑いなどありませんでしたか?――
「戸惑いばかりでしたわ。最初は皆さまが何に困っているのかを考えることから始まりまして……」
――貴族と平民では悩みもそりゃー違いますもんね――
「そうなんです。でも今では少しずつお役に立てるようになって参りましたのよ」
――そんなグレイス様の『もう一つのスカイ』はどちらですか?――
「王城にあります森ですわ」
――あぁ、なんでも森の主がいて、迂闊に足を踏み入れると蹴り殺されるって、おそろしい場所ですよね――
「皆様はあまり行かれませんわね」
――ですよね……――
「でもだからこそ、ここでしか採集できない植物やここでしか会えない獣人の方々もいらっしゃいますのよ」
――なるほど……――
――この日、グレイス公爵令嬢は森の入口に立ったが、人影らしいものは見えない。しかしグレイスは気にした様子もなく森の奥へ向かっていく――
――危険はないんですか?――
「そうですね。あまり初めての方にはオススメいたしませんわ。森の主は実際にいますからね。周囲の人間も最初は私が一人で行くことを心配していたのですが……」
――初日には婚約者とその弟までも同伴したという――
「今では気軽に見送ってくれていますわ。あ、ほら見えた。コロでしてよ」
――グレイス公爵令嬢がそう言って指さした先には、バイク程の大きさはあるダイアウルフがそこにいた――
『なぁ、そのコロってのは止めろ。それとお前は何を一人ぶつぶつ言ってんだ』
「『もう一つのスカイ』ごっこよ。コロもよくテレビで一緒にみたでしょ?でも『情熱平原』とは違って、スタッフとのかけあいというよりナレーションが入る感じだから難しいわね」
スタッフによるインタビュー形式ではなく、ナレーションが入る形の『もう一つのスカイ』。さらにスタジオでMCらとゲストの会話も入るので想像以上に、その再現が難しく苦戦させられている。できるなら、もう一度見たいが叶いそうにない願いなので、勿論口にしない。
『わざわざ森まで来てくれなくても、俺が迎えに来てやったのに』
「別に道中だって、この森ほど危険じゃないわ。パウラ達もなんだかんだいって毎日、二人で森から通っているわけだしね」
『あいつらは獣人だからな』
獣人の二人が工場の学校に通うようになってから半年以上が経過している。今では年下の子供達をまとめる係まで務めるほど馴染んでいる。最初はどうなることかと思っていたが、子供の順応性の高さには驚かされてばかりだ。
「でも別にお礼なんてしてくれなくていいんだよ?」
『いや、パウラだけじゃなくて、あいつらの親達もどうしてもお礼がしたいみたいなんだよ』
今日は、パウラの一家が夕飯に招待してくれたのだ。最初は断ったが、パウラ達があまりにもしつこく誘うので家庭訪問を兼ねてお邪魔することにした。
「獣人の方々はみんな森の中に住んでいるの?」
『この奥になるんだけどな。大きな鍾乳洞があって、そこで暮らしている』
「へぇ~~鍾乳洞か~~。いいね~~楽しそう」
そう言った私をコロは冷めたような目で見る。
『あのな……鍾乳洞ってのは、観光にはいいが住んで楽しいって場所じゃねぇぞ』
また、やってしまった。あまりにも生活環境が異なり、大変なのかどうかが分からなくなるのだ。心の中で静かに反省しつつも、パウラ達を傷つけずに済んだことにホッとしていた。
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