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始まりは春でした

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春。


散りかけの桜の下を通り、高校の門をくぐった。

その胸にあるのは期待か不安か、とにかく胸が高鳴っていたのを鮮明に覚えている。


入学してもう1ヶ月が過ぎた。
   




   「麻倉さん、そろそろ行ける?」
 水分を取っていると、そう声をかけられた。

   「はい。大丈夫です。」
 振り返るとそこには穏やかに笑う将也先輩がいる。
 なんでこの人、いつも笑ってるんだろ。
 失敗しても笑ってるからこの笑顔がちょっと怖い。

   「じゃあ、行こっか。」

 スタート地点に向かう先輩の後に続いて歩く。

   「確か今日はインターバル1000の三本でしたよね?」

   「そうだよ。設定はちゃんと覚えてる?」

   「そこは大丈夫です。……RESTはゴールのとこから200行って、そこから100戻って、100行ってそのままスタート、という感じでいいんでしたよね?」
 

   「そう、それであってるよ。頑張ろーね。」



   「はい。」
  
 そんな話をしてるうちにスタート地点に着いた。
 ドクドクと波打つ血流を感じて息を深く吐いた。
 走る前は緊張するな。
ただ……

   「よしっ!じゃあ、行くよ。準備は大丈夫?」

 将也先輩が呼びかける。

「はい。」「大丈夫。」という返事を聞いた後、先輩の よーい、はいという掛け声で一斉に走り始める。

あっという間に離れていく背中に少し寂しさを感じながらも少しでも離されないように食らいつく。
 やっぱ先輩達速いなぁ。

 
   






  「美香ちゃん、4分02」


最初の1本目からだいぶ差があったようで、私がゴールする頃には先輩達は大分息が整っていた。



そんな感じで残り2本も終わらせ、クールダウンの意も込めて先輩達と30分ジョグに行く。




 
   「やっと終わった~!!疲れたね。」

 穂乃美先輩がそう話しかけてくれる。走ってる時は遠く感じたけど、こうやって話しかけてくれるから今では緊張しないで話せるようになった。
    まだ2年生の茜先輩と波瑠先輩とはあんまり話せてないけど、少しずつでも話せるようになるといいな。


   「疲れたといえば羽山、こないだのテストどうだった?」

  将也先輩が楽しげに波瑠先輩に聞く。
 波瑠先輩はと言うと、苦々しそうに「赤点1個」と呟いた。

  波瑠先輩、頭良さそうだと思ってたんだけど、違ったみたい。ギャップがあるな~って笑っちゃったら、
   「笑ってるけど、麻倉さんはどうだったの?」
 って言われた。
 あらら、笑っちゃったの、見られてたか。
 
   「取り敢えず赤点は無いです。ただ、60を下回ったのがいくつかありました。」

 隠す必要も無いのでそう応えると、将也先輩はお前仲間減ったな、と笑った。

   「そういう先輩こそどうなんですか?」

 茜先輩が結果はわかっているとでも言うように話に入る。それに対してもまた、将也先輩は楽しそうに口を開いた。


   「赤点3つ♪」



 ………………先輩、それ、ダメなのでは?
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