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第参章 ハジマリを創り出す者
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瞳が空を映し出す。
夏の訪れを示すかのように浮かぶ入道雲。
「夏だなぁ。」
そう呟く真衣の傍らで本を読んでいた、花菜はその言葉に真衣の方に目を向ける。
まだ幼い彼女の目には空を見上げる姉の姿が悲しそうに、消えてしまいそうに感じられて、そんな不安で思わず姉の服の裾を掴んだ。
「?どうしたの、花菜」
不意に裾を掴まれ、意識をこちらに戻したように自分を見つめる姉を見て、ほっと息をつく。
「ううん。何でもないよ、お姉ちゃん。」
そう言って掴んでいた手を離し、その大きな目を細めて笑う。そんな笑みを見て、まだ小学二年生ながら、どこか年不相応に大人びている妹の不器用な甘えだと思い込んだ真衣は、
「夏休みに入ったら、うんと遊ぼうね。藍も誘って一緒にプールに行こう。」
そう声をかけた。
何気なくかけた言葉にきょとんとした表情を向け、花菜は一言
「”アイ”って誰?お姉ちゃんのお友達?」
そう真衣に問い掛けた。
「…え?」
その質問の意味を何とか咀嚼し、目を丸くした真衣は、笑顔のまま固まった。
「”アイ”って誰なの、お姉ちゃん。」
真衣が聞き取れなかったとでも思ったのだろう。再度口にされた花菜の言葉は真衣を動揺させるには十分だった。
「誰って…藍は藍だよ。私の親友で、花菜も昔からよく遊んでもらったでしょ。去年だって、遊園地や海にだって行ったじゃない。もう何変なこと…」
「お姉ちゃん」
動揺を誤魔化すように笑う真衣の言葉を、花菜が止めて口を開く。その口の動きがスローモーションかのようにゆっくりと感じられた。
幼い妹の目に、何かに酷く怯える様に笑う自分が映っている。
(辞めて。その先を言わないで――)
その先を聞いてはいけない。本能的な何かがそう訴える。
鐘を打ち鳴らしたように脈打つ心臓を偽りのものだと信じたい。
その言葉の先を聞きたくなくて止めようとするが、喉に何かが詰まった様に上手く声にならない。
「私は――」
(辞めて、辞めて、言わないで)
そう願っても真衣に止める術は無かった。
「”アイ”なんて言う人、知らない。」
今、世界の変革が始まる。
夏の訪れを示すかのように浮かぶ入道雲。
「夏だなぁ。」
そう呟く真衣の傍らで本を読んでいた、花菜はその言葉に真衣の方に目を向ける。
まだ幼い彼女の目には空を見上げる姉の姿が悲しそうに、消えてしまいそうに感じられて、そんな不安で思わず姉の服の裾を掴んだ。
「?どうしたの、花菜」
不意に裾を掴まれ、意識をこちらに戻したように自分を見つめる姉を見て、ほっと息をつく。
「ううん。何でもないよ、お姉ちゃん。」
そう言って掴んでいた手を離し、その大きな目を細めて笑う。そんな笑みを見て、まだ小学二年生ながら、どこか年不相応に大人びている妹の不器用な甘えだと思い込んだ真衣は、
「夏休みに入ったら、うんと遊ぼうね。藍も誘って一緒にプールに行こう。」
そう声をかけた。
何気なくかけた言葉にきょとんとした表情を向け、花菜は一言
「”アイ”って誰?お姉ちゃんのお友達?」
そう真衣に問い掛けた。
「…え?」
その質問の意味を何とか咀嚼し、目を丸くした真衣は、笑顔のまま固まった。
「”アイ”って誰なの、お姉ちゃん。」
真衣が聞き取れなかったとでも思ったのだろう。再度口にされた花菜の言葉は真衣を動揺させるには十分だった。
「誰って…藍は藍だよ。私の親友で、花菜も昔からよく遊んでもらったでしょ。去年だって、遊園地や海にだって行ったじゃない。もう何変なこと…」
「お姉ちゃん」
動揺を誤魔化すように笑う真衣の言葉を、花菜が止めて口を開く。その口の動きがスローモーションかのようにゆっくりと感じられた。
幼い妹の目に、何かに酷く怯える様に笑う自分が映っている。
(辞めて。その先を言わないで――)
その先を聞いてはいけない。本能的な何かがそう訴える。
鐘を打ち鳴らしたように脈打つ心臓を偽りのものだと信じたい。
その言葉の先を聞きたくなくて止めようとするが、喉に何かが詰まった様に上手く声にならない。
「私は――」
(辞めて、辞めて、言わないで)
そう願っても真衣に止める術は無かった。
「”アイ”なんて言う人、知らない。」
今、世界の変革が始まる。
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