愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~

チョコレ

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第四章 解き放たれし影

(21)暴風に堕ちる双剣

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 塔の巨大な部屋には、ラヴァンとカーライルの戦いの余波が響き渡っていた。金属が激しくぶつかり合い、火花が舞うたびに、緊張感が空間を支配する。

 ラヴァンは金色の瞳に冷たい光を宿しながら、軽快に短剣を操ってカーライルを翻弄し続けていた。その動きはまるで舞う風そのもの。余裕さえ漂う彼の口元には、挑発的な笑みが浮かんでいる。

「本当にしつこい奴だな。ちまちまとした戦いなんざ、俺の性に合わねぇ。」
 呟く声には苛立ちと興奮が微かに混じる。その視線は、あくまで冷静にカーライルの動きを読み続けている。

 対するカーライルは、双剣を構え直しながら、ラヴァンを鋭く睨み返した。
「だったら、俺が一瞬で片付けてやる。口を閉じて黙ってやられとけ!」

 怒りを込めた言葉と共に、彼は素早く踏み込み、一閃を繰り出す。
 双剣が疾風のごとき速度でラヴァンの首元を狙う。しかし――

「悪いな、その程度じゃ俺には届かねぇ。」
 ラヴァンは、余裕たっぷりの笑い声を上げながら軽やかに横へと跳び退く。その動きには無駄がなく、攻撃をかわすたびに、彼の余裕がますます明確になっていく。

「飽きたぜ。もうお前と遊んでる時間はない。」

 その言葉と同時に、ラヴァンの脚が地を蹴る。強烈な勢いが空間を震わせ、その鋭い蹴りがカーライルの胸元を正確に捕らえた。

「ぐっ…!」
 カーライルの身体が宙を舞う。衝撃は鈍く重く、まるで巨岩に殴りつけられたかのような痛みが全身を駆け抜けた。

「嵐に巻き込まれて、消え失せろ!」
 ラヴァンの追い打ちが迫る。さらに強烈な蹴りが加わり、カーライルの身体は巨大なグリフォンの嵐の中心へと投げ込まれた。

 鋼鉄の翼を大きく広げたグリフォンが咆哮を上げ、その羽ばたきで塔全体に突風を巻き起こす。空気が歪み、瓦礫が宙を舞う中、カーライルの視界は遮られ、身体は制御不能に翻弄される。

「くっ…!」
 全身を叩きつける風圧に耐えながら、彼は必死に双剣を握り直す。しかし、その時、グリフォンの冷徹な瞳が彼を捉えた。次の瞬間、さらなる強烈な突風が襲いかかり、肌を裂くような痛みが走る。

「こんなところで倒れるか…!」
 怒りを込めた声を上げ、カーライルは双剣を振り下ろす。だが、グリフォンの嵐はその攻撃を呑み込み、彼を無力なまま宙に舞わせ続けた。

 そして――カーライルの身体が鋭い風圧に押し流され、マナ格納庫の透明なガラスに叩きつけられる。

「ぐぁっ…!」
 鈍い衝撃音が響き、ガラスが低く振動する。彼の身体は床に崩れ落ち、双剣が手を離れて冷たい床を転がった。呻き声すら漏らさず、彼は動かない。

「やれやれ、だから言ったろ。ちまちました戦いなんざごめんだってな。」
 ラヴァンは肩をすくめながら短剣を弄び、不敵な笑みを浮かべる。その目には完全な勝者としての余裕が宿っている。

「愚か者だ。」
 ゼフィアが冷ややかな声で言い放つ。その表情には怒りも焦りもなく、ただ冷酷な計算だけが見える。
「その無駄な力で計画を狂わせるな。お前は命じられた通りに動けばいいだけだ。」

「へぇ、厳しいこった。」
 ラヴァンは嘲るように笑いながらゼフィアを一瞥した。「だが、これで一人片付いたんだ。俺なりに役には立ったろう?」

 ゼフィアはその挑発を無視し、冷たく見下ろす。「役立つかどうかは私が決めることだ。お前が決めることではない。」

 一方で、ロクスはその場面を目の当たりにし、胸の奥から怒りが沸き上がる。「カーライル!」

 彼の叫びは嵐の中でも鮮明に響き渡り、グリフォンに向けられた瞳には強い決意が宿る。

「さあ、どうする、天剣の騎士?」
 ゼフィアが不敵な笑みを浮かべ、ロクスに問いかける。その足元では新たな魔法陣が浮かび上がり、グリフォンの力がさらに増幅されていく。

 ロクスは剣を掲げ、その刃に宿る雷光を強く輝かせた。「ここで倒れるわけにはいかない…!」

 嵐の中でなお輝きを失わないその剣を握りしめ、彼は一歩前に踏み出す。その動きは、全てを切り裂く覚悟を体現していた。戦いは、さらなる激戦へと突入しようとしていた。
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