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第三章 建国の女神様
(55)黒い影
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カーライルは、夜の闇を切り裂くように王都を駆け抜けていた。アルマの指示を胸に刻み、廃墟と化した街並みの中、ひたすら光の柱を目指して進む。その光は人工魔石から立ち上り、闇夜を貫くように天へ伸びていた。その中で最も大きく輝く柱――それこそが、彼が目指す目的地だった。
かつて栄華を誇ったこの都市は、死霊系モンスターの襲撃によって無惨に変わり果てていた。倒れた街路樹が散乱し、瓦礫に埋もれた建物は、そのかつての姿を想像させる余地すらない。月光に照らされた瓦礫の山が、不気味な影を作りながら彼の進む道を遮るようにそびえ立つ。
街を覆う瘴気は、夜空を染めるように漂い、その中を駆け抜けるたびに腐敗の臭いが風に乗ってカーライルの鼻を刺した。吸い込むごとに胸が焼けつくようだったが、彼は立ち止まらなかった。
「嬢ちゃんたちが時間を稼いでる間に…必ず手に入れる。」
カーライルは荒い息を整え、地面を蹴る足にさらに力を込めた。彼の視線はひたすら前方を捉え、人工魔石の光に導かれるように進む。壊れた屋根を飛び越え、散乱する死霊系モンスターの残骸を踏み越えるたび、乾いた音が静寂を引き裂いた。その音すら彼を急かしているようだった。
やがて、光の柱が最も強く輝く場所にたどり着いた。そこには、魔導騎兵の残骸が横たわっていた。鋼鉄の装甲はひどく歪み、鋭い爪痕が深々と刻まれている。かつての威容を思わせるものは何一つなく、ただ打ち捨てられた廃墟と化していた。しかし、その中心――瓦礫の中で輝く眩い光が、カーライルの視線を引き寄せた。
「これが…人工魔石か。」
瓦礫を慎重に踏み越えながら、カーライルは輝く魔石に近づいた。人工魔石は脈動するように光を放ち、その力が空間全体に満ちている。手を伸ばした瞬間、冷たさと圧倒的な重みが指先から全身へと響き渡った。その感覚は、ただの物理的な重みではなく、体の奥底まで揺さぶるような力だった。
「…すげぇ力だ。」
右手で光り輝く魔石を持ち上げると、そのずっしりとした存在感が全身に染み渡った。人工魔石に宿る膨大なマナの塊。その威圧感は、ただ抱えているだけでも彼の体力を奪うほどだった。それでも、彼の胸中にはアルマとロクスが戦い続ける姿が浮かんでいた。この力を届けなければならない――その使命感が、カーライルを突き動かしていた。
その時だった。微かに背筋を刺すような気配を感じ取った。
「…誰だ?」
カーライルは瞬時に反応し、視線を周囲に走らせた。デスサイズの放った魔法や死霊モンスターかとも思ったが、違う。それは、もっと人間臭い気配だった。まるで盗賊が戦火の混乱に乗じて宝物を狙うような匂い。確かに近くに何者かが潜んでいた。
カーライルはその方向に剣を構え直し、全身を緊張で満たした。
「隠れてないで出てきやがれ…!」
だが、その黒い影は、分が悪いと悟ったのか、音もなく闇の中へと姿を消した。
「…なんだったんだ。」
疑念を胸に抱きつつも、カーライルは息を吐き、再び魔石を脇に抱え直した。今は立ち止まっている暇はない。アルマたちが死神と対峙している間に、魔石を届けることが何よりも優先される。
「待ってろよ、嬢ちゃん…!」
カーライルは瓦礫を踏み越え、再び走り出した。その姿は、夜の闇を切り裂く光の筋と交錯し、戦場に一筋の希望を差し込むかのようだった。
かつて栄華を誇ったこの都市は、死霊系モンスターの襲撃によって無惨に変わり果てていた。倒れた街路樹が散乱し、瓦礫に埋もれた建物は、そのかつての姿を想像させる余地すらない。月光に照らされた瓦礫の山が、不気味な影を作りながら彼の進む道を遮るようにそびえ立つ。
街を覆う瘴気は、夜空を染めるように漂い、その中を駆け抜けるたびに腐敗の臭いが風に乗ってカーライルの鼻を刺した。吸い込むごとに胸が焼けつくようだったが、彼は立ち止まらなかった。
「嬢ちゃんたちが時間を稼いでる間に…必ず手に入れる。」
カーライルは荒い息を整え、地面を蹴る足にさらに力を込めた。彼の視線はひたすら前方を捉え、人工魔石の光に導かれるように進む。壊れた屋根を飛び越え、散乱する死霊系モンスターの残骸を踏み越えるたび、乾いた音が静寂を引き裂いた。その音すら彼を急かしているようだった。
やがて、光の柱が最も強く輝く場所にたどり着いた。そこには、魔導騎兵の残骸が横たわっていた。鋼鉄の装甲はひどく歪み、鋭い爪痕が深々と刻まれている。かつての威容を思わせるものは何一つなく、ただ打ち捨てられた廃墟と化していた。しかし、その中心――瓦礫の中で輝く眩い光が、カーライルの視線を引き寄せた。
「これが…人工魔石か。」
瓦礫を慎重に踏み越えながら、カーライルは輝く魔石に近づいた。人工魔石は脈動するように光を放ち、その力が空間全体に満ちている。手を伸ばした瞬間、冷たさと圧倒的な重みが指先から全身へと響き渡った。その感覚は、ただの物理的な重みではなく、体の奥底まで揺さぶるような力だった。
「…すげぇ力だ。」
右手で光り輝く魔石を持ち上げると、そのずっしりとした存在感が全身に染み渡った。人工魔石に宿る膨大なマナの塊。その威圧感は、ただ抱えているだけでも彼の体力を奪うほどだった。それでも、彼の胸中にはアルマとロクスが戦い続ける姿が浮かんでいた。この力を届けなければならない――その使命感が、カーライルを突き動かしていた。
その時だった。微かに背筋を刺すような気配を感じ取った。
「…誰だ?」
カーライルは瞬時に反応し、視線を周囲に走らせた。デスサイズの放った魔法や死霊モンスターかとも思ったが、違う。それは、もっと人間臭い気配だった。まるで盗賊が戦火の混乱に乗じて宝物を狙うような匂い。確かに近くに何者かが潜んでいた。
カーライルはその方向に剣を構え直し、全身を緊張で満たした。
「隠れてないで出てきやがれ…!」
だが、その黒い影は、分が悪いと悟ったのか、音もなく闇の中へと姿を消した。
「…なんだったんだ。」
疑念を胸に抱きつつも、カーライルは息を吐き、再び魔石を脇に抱え直した。今は立ち止まっている暇はない。アルマたちが死神と対峙している間に、魔石を届けることが何よりも優先される。
「待ってろよ、嬢ちゃん…!」
カーライルは瓦礫を踏み越え、再び走り出した。その姿は、夜の闇を切り裂く光の筋と交錯し、戦場に一筋の希望を差し込むかのようだった。
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