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第三章 建国の女神様

(47)奏でる剣の舞

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ロクスと呼ばれた騎士は、胸の奥底で渦巻く苦悩を必死に押し殺し、冷徹で鋭い声を戦場に響かせた。

「今は、街を救うことが最優先だ!」

その声には、騎士としての揺るぎない判断と不退転の覚悟が込められていた。過去の重みが彼を引きずり込もうとする中で、ロクスは迷いを断ち切り、目の前の使命に己のすべてを注ぐ決意を示した瞬間だった。

「感情は……後回しだ!」

その言葉を吐き捨てるように叫ぶと、ロクスは両手で剣を強く握り直し、鋼鉄のような意志を胸に宿して敵へと再び駆け出した。彼の背中には過去の影が微かに滲んでいたが、それ以上に未来を守るという覚悟が勝り、視線はただ前を向いていた。戦場に響くその足音は、揺るぎない使命感と全力を尽くす覚悟を具現化したかのようだった。

その言葉に、カーライルは目を伏せて一瞬思考を巡らせた。彼の拳は自然と固く握り締められ、胸の内に長年の葛藤が渦巻く。

「そうだな……今は死神が先決だ。」

低く響くその声には、完全には振り切れない過去への悔恨と、それでも今この瞬間を優先しなければ未来を掴めないという覚悟が滲んでいた。カーライルは剣を抜き直し、迷いを振り払うように力強くロクスの背を追い、死神の如きデスサイズに向かって前進した。その瞳には、過去を背負いつつも現在に全てを懸ける鋼の意志が宿っていた。

一方、アルマも緊迫した空気を肌で感じ取っていた。胸中には様々な感情が入り乱れていたが、それらを封じ込め、全ての意識を戦いに集中させるほか術はなかった。手にした杖を強く握りしめ、全身のマナを高めると、冷たい感覚が体中を駆け巡り、戦場の厳しさを一層実感させた。

その時、デスサイズが静かに動き始めた。重い沈黙が戦場を覆う中、死神の前で闇のマナが不気味に収束していく。そのマナはまるで空間そのものを引き裂くかのように膨張し、やがて漆黒の球体となった。それは闇の深淵を凝縮したかのようで、見る者の心に死と絶望の予感を刻み込む。

「来るぞ…!」
ロクスの鋭い警告が戦場に響くと同時に、デスサイズは暗黒の球体を冷徹な動きで投げ放った。その動きは威厳すら漂わせ、まるで逃れる術のない運命そのもののようだった。

ロクスは一瞬の躊躇もなく剣を振り上げ、迫り来る漆黒の球体を一閃で斬り裂いた。だが、その瞬間、球体が砕け散ると同時に、不気味な静寂が戦場に広がる。空気が凍りついたかのような張り詰めた感覚に、全身の毛が逆立つような緊張が襲いかかる。

次の瞬間、地面に落ちた黒い破片がじわじわと広がり、不気味な腐臭を漂わせ始めた。その破片から湧き出したのは、腐肉と骨が絡み合ったグールやスケルトン。不死の軍勢が、まるでデスサイズの命令に従うように現れ、闇の中から戦場を埋め尽くしていく。

「嬢ちゃん、下がれ!」カーライルが素早くアルマに声をかけ、剣を構えながら前へと進み出た。迫り来るグールたちの濁った瞳には、獲物を捉える不気味な光が宿り、腐敗した手足を引きずる音が耳を刺す。背後では、錆びた剣を手にしたスケルトンたちが静かに包囲を狭めていた。

「厄介な数だ…」カーライルは冷静に状況を見極めると、一体のグールが腐敗した腕を振り上げた瞬間、その軌道を見切って一閃。腐肉が飛び散り、グールが唸り声を上げるが、彼は怯むことなく次の動作に移り、鋭い突きでその胸を貫く。巨体が地面に崩れ落ちる音が重く響き、戦場の静寂を切り裂いた。

その刹那、ロクスも動き出していた。カーライルの動きを察知しつつ、自らも迫るスケルトンたちを正確な一撃で斬り伏せていく。言葉を交わさずとも互いの位置と動きを感知し、二人は完璧な連携で敵の包囲を切り崩していく。カーライルが前方の敵を倒す間に、ロクスは背後から迫る敵を仕留め、再びカーライルに援護される形で次の攻撃に移った。

その連携は、まるで長年の訓練を積んだかのような自然なもので、戦場における即興の連携とは思えないほどの調和を見せた。ロクスの剣が敵を斬り裂けば、その刹那の隙を逃さず、カーライルの剣が次なる一撃を確実に決める。二人の剣戟が響き合い、まるで舞を踊るような精密さと美しさがあった。

湧き出す不死者たちの群れは無尽蔵にも思えたが、二人の剣が織りなす調和の中でその勢いを削がれ、一体また一体と倒されていく。剣が閃光を放つたび、闇の中に戦いの軌跡が刻まれ、その動きは戦場の律動そのものとなっていた。

アルマはその光景を見つめながら、杖を強く握りしめた。彼女の瞳には恐怖と希望が交錯していたが、やがて静かに息を整え、全身のマナを集中させた。冷たい感覚が全身を駆け巡り、彼女もまた戦いの輪に加わる覚悟を固める。

デスサイズを中心とする闇の支配が広がる中、カーライルとロクスの剣の舞は戦場に一筋の光をもたらしていた。その光景は、絶望の中でなお抗う人の意志そのものだった。
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