愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~

第三章 建国の女神様

（３８）叡智の戦場（前編）

── 魔導騎兵がシオンの指揮のもと動き出したその刻
王城のすぐ南、王立魔法学院

学院の広大な庭は張り詰めた緊張感に包まれ、そこには冷徹な戦術と知識の集積が織りなす見えない網が張り巡らされていた。ここに集う魔法使いたちは、冒険者たちの荒々しい闘志とは異なり、緻密で計算された方法で敵に挑んでいた。

最前線には学院の中でも選ばれた生徒たちが立ち並ぶ。彼らの顔に恐れはなく、修練と知識が武器となり、自信に満ちていた。教員たちの指示に応じて整然と隊列を組み、彼らの背後では雷鳴が轟き、炎が夜空を裂き、氷の結晶が鮮やかな光を放つ。放たれる魔法が確実に死霊たちの群れを封じ込み、戦況は徐々に学院側に傾きつつあった。

「魔法障壁を展開せよ！まずは防御を固めるんだ！」
鋭い指示が飛び交い、生徒たちは迅速に地面へ魔法陣を描き、次々と発動させる。透明な魔法障壁は鋼鉄のように堅固で、迫り来る死霊の突撃を受け止め、粉々に砕いていった。

「ガレス先生！配置が完了しました！」
若い生徒が叫ぶと、黒髪を背に流した教員が短く応じた。「よくやった！」

その合図とともに赤い魔法陣が輝きを増し、生徒たちの放つ炎がスケルトンやゾンビを焼き尽くす。炎の嵐に包まれた死霊たちは黒焦げとなり、骨の残骸だけが地面に転がった。

「炎だけでは足りない！次は雷を！」
冷静な指示に応じ、空には新たな魔法陣が浮かび上がる。神罰のごとく雷光が夜空を裂き、死霊たちに降り注いだ。焼け焦げた骨が崩れ落ちる音が戦場に響き渡り、その光景は目を見張るほどの迫力を持っていた。

「今だ、全員一斉攻撃！」
教員の声に呼応し、生徒たちは魔法を一斉に放つ。その連携は見事で、死霊の群れを次々に蹴散らしていった。しかし、次々と湧き出る死霊たちの数は膨大で、戦況は依然として熾烈を極めていた。額に汗を浮かべた生徒たちは、新たな魔法陣を展開するべく必死に動き続けていた。

その時、不意に背後から低く落ち着いた声が響いた。

「ふぉふぉふぉ…少々手こずっているようじゃの。」

喧騒の中で際立つその声に、生徒も教員も驚き振り返る。そこには、学院長ヴァンデンバーグの姿があった。

「どれ、久方ぶりにこの老いぼれが腕試しといこうかの。」

学院長は、学院長室に飾られている古の杖を手にしていた。その杖は、長い歴史を物語る重厚な木の軸と漆黒の魔石を備え、刻まれた古代文字が微かなマナの光を放っていた。その姿を目にした教員たちが息を呑む。

「ヴァンデンバーグ学院長…まさか、御自ら…！」

一人の教員が声を上げると、学院長は肩をすくめ、微笑を浮かべた。

「ふぉっふぉっふぉ…最近の噂では、ワシはただのお飾りだそうじゃな。それを払拭する良い機会じゃ。さて、特別授業を始めるとしようかの。」

彼の言葉が戦場に響き渡ると、生徒も教員もその場に緊張と期待が交錯した視線を学院長に注いだ。その佇まいには、戦場を支配する威厳と静かな闘志が漂い、長き年月にわたるマナの深奥への探求がその姿に凝縮されていた。まるで存在するだけで戦場全体を掌握し、マナの極みを見せつけているかのような圧倒的な風格であった。