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第三章 建国の女神様

(36)連携の戦場

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── 魔導騎兵がシオンの指揮のもと動き始めたその刻。
王都西部、商業区域。

普段なら、賑わいに満ちた商業区域は、今や漆黒の影に覆われ、静寂が支配していた。暗闇の中から這い出すように現れる無数の死霊系モンスターたち。その冷たい存在感が石畳の上を覆い、不気味な気配があたりを漂っていた。

街を守るために集結した冒険者たちは、死霊の波に恐れることなく戦いの陣を敷いていた。ギルドの建物を背に、誰一人退くことを許さない鋼の覚悟がそこにはあった。その緊張感が、まるで空気を切り裂くように戦場を支配している。

「来やがったな、化け物ども!」

屈強な男が血に染まった大剣を肩に担ぎ、咆哮を上げる。傷だらけの体には戦場の痕跡が刻み込まれていたが、その顔に浮かぶ笑みは恐怖ではなく、獲物を狙う狩人のような鋭さを帯びていた。目の前のスケルトンの群れに向かって彼は踏み出し、周囲の仲間たちに喝を飛ばす。

「さっさと片付けろ!グラディオス様の見せ場を奪うんじゃねえ!」

その叫びに応えるように、戦士たちは次々と前へと進み出る。筋骨隆々の戦士が片手斧を振り下ろし、一撃でスケルトンを粉砕していく。そのたびに骨の破片が宙を舞い、まるで鉄の嵐が吹き荒れるかのように死霊たちを蹴散らしていった。

しかし、彼らの勢いにも限界が見え始めた。死霊たちは尽きることなく湧き出し、黒い瘴気を漂わせながら冒険者たちを包囲しつつあった。戦士たちの顔に焦燥の色が浮かび始めたその時、一人のエルフの女性が前に進み出た。

彼女は静謐と優雅さをまとい、細い指を空へ掲げる。風に囁くように彼女の口から言葉が紡がれる。

「風よ、我らを守り、進むべき道を開け。」

その声とともに空気がざわめき、透明な結界が彼女を中心に広がる。風の精霊が舞い降りたかのような力が冒険者たちを包み込み、死霊たちはその結界に触れると見えない力に押し返される。荒々しく後方へ吹き飛ばされたスケルトンやゾンビたちは地に崩れ落ち、二度と動き出すことはなかった。

「これで少し時間が稼げます。体勢を立て直してください。」

その冷静で的確な声に、冒険者たちは一瞬の安堵を得ると同時に、再び戦う意志を取り戻した。彼らの目には誇りが宿り、背筋には新たな力が漲り始める。風の結界に守られながらも、彼らは決してその守りに甘んじることなく、次の戦いへの準備を整えていた。

そこにさらに一人、穏やかで落ち着いた足取りで近づく人物がいた。柔らかな物腰で彼は口を開く。

「私にも手伝わせてください。この地に亡命してきた身として、手に入れた安住の地を簡単に失うわけにはいきません。」

屈強な冒険者の一人が彼を値踏みするように見つめ、嘲笑混じりに言い放つ。

「おい、そんなひょろっちい体で何ができるってんだ?」

だがその言葉に動じることもなく、彼は微笑を浮かべながら地面に手を触れ、指先で光の紋様を描き始めた。

「まあまあ…見ていてください。この王都の石畳は質が良い。きっと素晴らしいものが作れますよ。」

彼が静かに囁き、地面に描かれた紋様が眩い輝きを放つと、大地が微かに震え始めた。

「出でよ、ストーンゴーレム。」

その言葉とともに、地面が盛り上がり、巨大な石の巨人が姿を現した。その堂々たる姿は人の三倍もの高さを誇り、王都の石畳から生まれたその体は堅牢で威厳に満ちていた。ゴーレムは冒険者たちの盾となり、死霊の波に対する不落の砦として戦場に立ちはだかった。

「街は少し傷つきましたが、これくらい使っても文句は言われないでしょう。この守護者がいる限り安心してください。」

その落ち着いた言葉に冒険者たちは背を押され、再び前線へと踏み出す。風の結界とゴーレムの守護に支えられた戦士たちの眼には、新たな決意が宿り、彼らの動きには迷いがなかった。

血と汗にまみれながらも、彼らの姿は混沌の中に立ち昇る確かな希望の光そのものであった。
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