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第三章 建国の女神様

(32)光の柱

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フィオラは宿屋の一室で、目の前のゴーレムのコアを凝視したまま動けずにいた。まるで凍りついたようにその場に立ち尽くし、絡まり合う思考が身体の自由を奪っていた。何をすべきかが見えず、胸の奥で激しく響く鼓動だけが現実を主張していた。無力感が全身を締めつけ、恐怖と焦燥が心臓の鼓動とともに増していく。冷や汗が額に滲み、視界がかすかに揺れるたび、足元の現実が崩れ落ちるような感覚に襲われていた。

その時、ゴーレムのコアが突然、不気味な光を放ち始めた。薄暗い部屋が異様な輝きで満たされ、空間全体が異界へと変貌したかのように感じられる。コアはまるで生き物のように脈動し、その鼓動が静寂を破って部屋全体に響き渡った。光と影が複雑な模様を壁に描き、揺らめく光景がフィオラの不安をさらに掻き立てた。

「…これ、なんなん…?」

思わず漏らした声に、答えは返らない。それでもその呟きは、恐怖に縛られた自分を奮い立たせようとする小さな足掛かりだった。

身体を動かそうとする意志に反して、目の前の異変が彼女を圧倒し続けた。コアの脈動する光が視界に焼き付き、異常な鼓動が頭の中で鋭い警鐘を鳴らしている。このままでは何か恐ろしいことが起こる――そんな嫌な予感が背筋を駆け上がった。

「こ、これはまずいでぇ…!」

フィオラは喉から震え混じりの声を絞り出した。恐怖に足が竦み、全身の力が抜けかける中、意を決して冷たい指先でコアを掴み取った。震える手が彼女の内心を物語っていたが、ここで動かなければいけないという本能的な衝動が、何とか彼女を突き動かしていた。

「堪忍やで!」

フィオラはそう叫びながら窓を開け放つ。冷たい夜風が一気に部屋へ流れ込み、彼女の頬を冷やした。その風が、彼女にほんの少しだけ冷静さを取り戻させる。次の瞬間、フィオラは震える手に握ったコアを全力で外へ投げ放った。

宙を舞ったコアは、夜空の闇に吸い込まれるように消えていくかと思われたが、すぐに眩い光の柱を放ちながら空へと伸びていった。その光景は、彼女の目に圧倒的な力と不安をもたらした。コアから噴出した強烈なマナが柱となり、空を貫いて天と地を結ぶかのように輝いていた。その光は神聖であると同時に、この世界の秩序を侵す脅威のように感じられた。

「…なんなん、これ…」
フィオラは窓辺に立ち尽くし、空を見上げた。その光景は街全体を包み込むほどで、遠くからは人々の歓声が聞こえてきた。「建国祭の新しい演出か!」と興奮する声が飛び交い、街の空気が賑わいで震え上がっていた。

だが、フィオラの胸にはその光が祝祭の喜びではなく、不吉な前兆として映っていた。胸の奥に広がる恐怖は止まらず、光の柱が何か恐ろしい存在をこの世界に招き寄せようとしているように思えてならなかった。

その不安は現実のものとなる。コアから立ち上った光を遥かに凌駕する巨大な光の柱が、北の夜空を引き裂くように立ち上がったのだ。

その光の強烈さは、空気を圧倒するほどの威圧感を放ち、街全体を昼間のように明るく照らし出した。聖堂や王城、魔法学院までもがその光に飲まれ、影は一瞬で消え去った。幻想的でありながら、息を呑むほどの恐怖を伴う光景が広がった。

「…あかん、これ、ホンマにまずいやつや…!」

フィオラの声は震え、彼女の目には光の奥に潜む脅威がはっきりと映っていた。その脅威が間近に迫りつつある――彼女の直感はそう警告していた。

次の瞬間、光が何かに吸い込まれるようにして一気に消え、街全体が闇に包まれた。その闇は単なる夜の暗さではなく、世界が崩壊寸前にあるかのような冷たい圧迫感を伴っていた。

フィオラは震えながらもその場から動けなかった。全身が闇に飲み込まれたような感覚の中で、邪悪な気配が空気を支配しているのを感じ取った。彼女の心を苛むのは、これが破滅の始まりであるという、確信に近い不安だった。
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