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第三章 建国の女神様
(25)若き邂逅
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玉座の前で立ち止まったアルマは、静かに深く一礼し、厳粛な空気を切り裂くように凛とした声で名乗った。
「アルルマーニュ・デュフォンマルでございます。」
その響きには、彼女が背負う家名への誇りと、若さを超えた揺るぎない意志が込められていた。十五歳という年齢を感じさせないその堂々とした態度は、玉座の間に漂う重々しい静寂をかすかに震わせ、厳かな壁にその声を深く刻み込むようだった。
続いて、カーライルが一歩前に進み、低く落ち着いた声で名乗った。
「カーライルだ。」
その短い一言には、彼自身の性格が如実に現れていた。余計な言葉を削ぎ落とし、無骨でありながらも、その背後には冒険者として数々の困難を乗り越えた者の重みが感じられる。無言のうちに、彼が歩んできた険しい道のりが静かに語られているかのようだった。
玉座に座る第三王子は、二人の挨拶を受け取りながら、その深紅の瞳を静かに細めた。彼の銀髪は、降り注ぐ月光を浴びて淡く輝き、冷たくも神秘的な光を放っている。静かに手を礼服の肩から外し、動きを止めて二人を見据えるその姿には、年若さとは相反する威厳と重圧が漂っていた。
王子は軽く頷き、低く、しかし透き通る声で口を開いた。
「遠路はるばる来てくれたこと、心から感謝している。」
初めて耳にする第三王子の声は若く、微かに幼さも感じられるが、その一方で王家としての威厳と重みが漂い、アルマは緊張のあまり背筋を伸ばし、顔がこわばる。
第三王子は穏やかな眼差しをアルマに向けると、柔らかな口調で語りかけた。
「そんなに堅苦しくしないでくれ。今夜は肩書きも格式も忘れて、ただ“シオン”として、君たち命の恩人と話がしたいんだ。」
その声には優しさの中に確かな意志が宿り、玉座の間に静かに響き渡った。肩書きの重圧を解き放ち、対等な立場で心を通わせたいというシオンの真摯な思いが、一言一言に滲んでいた。
アルマはシオンの思いがけない言葉に一瞬戸惑いを覚えたが、その誠実な眼差しに触れて心が解きほぐされるのを感じた。慎重に頭を垂れ、「かしこまりました、シオン殿下」と静かに応えたが、その声にはまだ王族への敬意が色濃く残っていた。
シオンは少しだけ不満げな微笑を浮かべ、さらに言葉を重ねた。「デュフォンマル殿、報告書で知ったのだが、どうやら君と僕は同い年らしい。もう少し肩の力を抜いて接してくれないだろうか。」
その言葉には、形式を超えた、心からの理解を求める強い意志が込められていた。シオンの瞳には、表面的な礼儀に囚われることなく、本音で語り合おうとする熱意が宿り、厳粛な空間に温かな光が差し込むように感じられた。
アルマはその思いを受け、しばし考え込んだ末、視線を落として静かに言葉を選んだ。「ですが…あなたは王子ですし、無礼にあたるのではないでしょうか…」その声には、シオンが背負う王族としての重責への深い敬意が滲んでいた。
しかし、シオンは軽く手を振り、優しくその言葉を遮った。「そんなことは気にしないでほしい。格式に囚われすぎていては、伝えたいことも心に届かぬままになる。」
その言葉に込められた真心が、アルマの心にじんわりと染み渡る。彼女は少し考えたのち、表情が徐々に柔らかくなっていくのを自らも感じた。やがて顔を上げ、静かに微笑みながら応じた。「確かに…そうですね。」
「それでは、シオン殿下がそうおっしゃるのなら、私も形式にはこだわりません。どうぞ、『アルマ』とお呼びください。」アルマはまっすぐにシオンを見つめ、その一言には、彼の真摯な思いを受け入れ、心を開く決意が込められていた。
その瞬間、二人の間に存在していた無形の壁が、音もなく崩れ去ったように感じられた。シオンは満足げに柔らかな微笑を浮かべ、静かに頷くと、「ありがとう、アルマ殿」と優しく言葉を返す。その一言には、深い感謝と揺るぎない信頼が込められており、彼の声は穏やかさとともに玉座の間に力強く響き渡り、温かな余韻を残した。
そのやり取りを静かに見守っていた隣のカーライルは、心の中でそっと呟く。
(王子であろうが、天才魔法使いであろうが、所詮まだ十五歳…若いな…)
彼は二人の若々しく穏やかなやり取りを見ながら、ふと自分がその年頃だった頃を思い返していた。あの時のカーライルは、孤児院を出たばかりで、生き延びるために戦うことがすべてだった。現実は過酷で、微笑む余裕などまったくなく、傷だらけの体と摩耗しそうな心を抱えて、ただ生きる術を模索しながら必死に日々を駆け抜けていたのだ。
(あの頃の自分に、甘さなど許されるはずもなかった…)
カーライルの胸には、かつて抱えた葛藤が再び渦巻く。温かさや安らぎとは無縁の生活を送り、力だけが己を守る唯一の盾であった日々。しかし、今目の前にいるシオンとアルマの姿は、彼が歩んできた険しい道とは異なる輝きを纏い、まるで届かない遠い光のように感じられる。それでも、その若さが放つ眩い輝きには、どこか羨望と懐かしさが交じり合い、彼の心の奥底に静かに染み込むように広がっていった。
「アルルマーニュ・デュフォンマルでございます。」
その響きには、彼女が背負う家名への誇りと、若さを超えた揺るぎない意志が込められていた。十五歳という年齢を感じさせないその堂々とした態度は、玉座の間に漂う重々しい静寂をかすかに震わせ、厳かな壁にその声を深く刻み込むようだった。
続いて、カーライルが一歩前に進み、低く落ち着いた声で名乗った。
「カーライルだ。」
その短い一言には、彼自身の性格が如実に現れていた。余計な言葉を削ぎ落とし、無骨でありながらも、その背後には冒険者として数々の困難を乗り越えた者の重みが感じられる。無言のうちに、彼が歩んできた険しい道のりが静かに語られているかのようだった。
玉座に座る第三王子は、二人の挨拶を受け取りながら、その深紅の瞳を静かに細めた。彼の銀髪は、降り注ぐ月光を浴びて淡く輝き、冷たくも神秘的な光を放っている。静かに手を礼服の肩から外し、動きを止めて二人を見据えるその姿には、年若さとは相反する威厳と重圧が漂っていた。
王子は軽く頷き、低く、しかし透き通る声で口を開いた。
「遠路はるばる来てくれたこと、心から感謝している。」
初めて耳にする第三王子の声は若く、微かに幼さも感じられるが、その一方で王家としての威厳と重みが漂い、アルマは緊張のあまり背筋を伸ばし、顔がこわばる。
第三王子は穏やかな眼差しをアルマに向けると、柔らかな口調で語りかけた。
「そんなに堅苦しくしないでくれ。今夜は肩書きも格式も忘れて、ただ“シオン”として、君たち命の恩人と話がしたいんだ。」
その声には優しさの中に確かな意志が宿り、玉座の間に静かに響き渡った。肩書きの重圧を解き放ち、対等な立場で心を通わせたいというシオンの真摯な思いが、一言一言に滲んでいた。
アルマはシオンの思いがけない言葉に一瞬戸惑いを覚えたが、その誠実な眼差しに触れて心が解きほぐされるのを感じた。慎重に頭を垂れ、「かしこまりました、シオン殿下」と静かに応えたが、その声にはまだ王族への敬意が色濃く残っていた。
シオンは少しだけ不満げな微笑を浮かべ、さらに言葉を重ねた。「デュフォンマル殿、報告書で知ったのだが、どうやら君と僕は同い年らしい。もう少し肩の力を抜いて接してくれないだろうか。」
その言葉には、形式を超えた、心からの理解を求める強い意志が込められていた。シオンの瞳には、表面的な礼儀に囚われることなく、本音で語り合おうとする熱意が宿り、厳粛な空間に温かな光が差し込むように感じられた。
アルマはその思いを受け、しばし考え込んだ末、視線を落として静かに言葉を選んだ。「ですが…あなたは王子ですし、無礼にあたるのではないでしょうか…」その声には、シオンが背負う王族としての重責への深い敬意が滲んでいた。
しかし、シオンは軽く手を振り、優しくその言葉を遮った。「そんなことは気にしないでほしい。格式に囚われすぎていては、伝えたいことも心に届かぬままになる。」
その言葉に込められた真心が、アルマの心にじんわりと染み渡る。彼女は少し考えたのち、表情が徐々に柔らかくなっていくのを自らも感じた。やがて顔を上げ、静かに微笑みながら応じた。「確かに…そうですね。」
「それでは、シオン殿下がそうおっしゃるのなら、私も形式にはこだわりません。どうぞ、『アルマ』とお呼びください。」アルマはまっすぐにシオンを見つめ、その一言には、彼の真摯な思いを受け入れ、心を開く決意が込められていた。
その瞬間、二人の間に存在していた無形の壁が、音もなく崩れ去ったように感じられた。シオンは満足げに柔らかな微笑を浮かべ、静かに頷くと、「ありがとう、アルマ殿」と優しく言葉を返す。その一言には、深い感謝と揺るぎない信頼が込められており、彼の声は穏やかさとともに玉座の間に力強く響き渡り、温かな余韻を残した。
そのやり取りを静かに見守っていた隣のカーライルは、心の中でそっと呟く。
(王子であろうが、天才魔法使いであろうが、所詮まだ十五歳…若いな…)
彼は二人の若々しく穏やかなやり取りを見ながら、ふと自分がその年頃だった頃を思い返していた。あの時のカーライルは、孤児院を出たばかりで、生き延びるために戦うことがすべてだった。現実は過酷で、微笑む余裕などまったくなく、傷だらけの体と摩耗しそうな心を抱えて、ただ生きる術を模索しながら必死に日々を駆け抜けていたのだ。
(あの頃の自分に、甘さなど許されるはずもなかった…)
カーライルの胸には、かつて抱えた葛藤が再び渦巻く。温かさや安らぎとは無縁の生活を送り、力だけが己を守る唯一の盾であった日々。しかし、今目の前にいるシオンとアルマの姿は、彼が歩んできた険しい道とは異なる輝きを纏い、まるで届かない遠い光のように感じられる。それでも、その若さが放つ眩い輝きには、どこか羨望と懐かしさが交じり合い、彼の心の奥底に静かに染み込むように広がっていった。
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