愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~

チョコレ

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第二章 魔匠を継ぐ者

(22)決定的な一撃

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ゴーレムの巨体が壁にぶつかり、大小の破片が床に散らばる中、それは微動だにせず静かに佇んでいた。その静けさは異様で、広間全体を圧倒していた。

だが次の瞬間、ゴーレムがゆっくりと動き始める。巨大なクリスタルの腕が淡い光を反射しながら、崩れた壁の大きな破片を掴み上げた。その破片の大きさは小山のようで、ゴーレムがそれを容易に持ち上げる様子に、カーライルの背筋が緊張に包まれた。

「…冗談だろう?」
カーライルは低く呟き、口元に苦笑を浮かべたが、内心では冷や汗が止まらない。振りかぶられた岩は、まさに巨大な弾丸のように見えた。もしあれが直撃すれば、どんな実力者でもひとたまりもない。

「おい、嬢ちゃん!」
カーライルは短くアルマに呼びかけたが、それ以上の言葉は必要なかった。状況がすべてを物語っていた。

一方、フィオラは不敵な笑みを浮かべていた。「あんなバカデカい岩、まともにぶつけられたらお陀仏やけど…こっちには切り札があるんやで!」腰に手を伸ばし、特製の爆弾を取り出す。その表情はどこか楽しげで、まるで新しい遊びを見つけた子どものようだった。

「ちょっと向き変えたるわ!」
軽快に言い放つと、ゴーレムの動きを鋭く観察した。そして、岩が振り下ろされる直前、フィオラは爆弾を正確なタイミングでゴーレムの足元に投げ込む。

ボンッ!
低い爆音とともに爆弾が炸裂し、激しい爆風が巻き起こった。「爆風までは反射できひんやろ!」フィオラは自信満々に笑いながら成功を確信した。

爆風の衝撃でゴーレムのバランスが崩れ、岩の軌道がわずかに狂う。岩は狙いを外れ、三人のすぐ脇を通り過ぎて地面に激突した。

ドゴォォォン!
轟音が広間に響き渡り、激しい振動が地面を揺らす。飛び散る破片と砂煙が視界を覆い、一瞬で周囲がぼやけた。

「ふぅー、あっぶなっ!」
フィオラは後ろに一歩下がりながら軽口を叩いた。「ギリギリで助かったやん!これで勝負はまだまだ続くな!」

カーライルは額の汗を手の甲で拭いながら息を吐く。「正直、少しでも角度がずれてたら終わってたな…。お前の爆弾がなかったら、今頃粉々だ。」

「そりゃ当然やん!」
フィオラは肩をすくめ、満足げな笑みを浮かべた。「ウチの計算は完璧やで!ま、あんちゃんたちが生きてるから言えることやけどな!」
その軽口には、自身の成功への誇りと仲間への信頼が滲んでいた。

カーライルは苦笑を浮かべながらも、すぐに視線をゴーレムへ戻した。妨害されたにもかかわらず、ゴーレムは諦める気配も見せず、巨体を揺らしながら再び岩を拾い上げようとしていた。その動きには迷いもためらいもなく、冷徹な意思だけが宿っている。

「まだ諦めてないのかよ…」
カーライルは低く呟き、苦々しい表情を浮かべた。その声が空間に響いた瞬間、アルマが一歩前に進み出る。

「マナを直接ぶつけても反射されるなら…こうするしかないわ。」彼女の声には決意の重みがあり、冷ややかな闘志が宿っていた。「できれば使いたくなかったけど、今は仕方ない…!」

アルマの脳裏に、かつて監査官が見せた魔法の光景が蘇る。彼女はほんの一瞬のためらいを見せたが、それを振り払うように静かに詠唱を始めた。その声は耳に残る低音で、空間に響き渡るたびに緊張感が高まっていく。

「氷の王よ、冥界より凍土の使者を呼び覚まし、この世のすべてを白き永遠の眠りに導け。息をする者、鼓動を持つ者、その命を凍てついた鎖で縛り、無限の静寂に閉じ込めよ!氷獄牢|《フロストプリズン》!」

詠唱が終わると同時に、広間の温度が急激に低下し、冷気が空間を支配した。ゴーレムの巨体を中心に氷が生まれ、瞬く間に広がっていく。その冷気はゴーレムの動きを徐々に鈍らせ、やがて完全に動きを封じ込める。

「これで…動けないはず。」
アルマは冷静に呟きながら鋭い視線をゴーレムに向けた。瓦礫を持ち上げかけていた巨体は、そのままの姿勢で氷に閉ざされ、石像のように硬直していく。膝をついたゴーレムが地響きを立てながら沈む音が広間に響き渡った。

カーライルはその瞬間を逃さず剣を抜き放ち、鋭い目で結合部を見据えながら駆け出した。「今しかない…!」

その声には強い決意が込められている。全身の力を剣に集中し、冷気で硬度が弱まった結合部に正確に狙いを定める。

剣が振り下ろされ、一撃は左腕の付け根を深々と捉えた。

「バキィイン!」
鋭い断裂音が広間に響き渡る。断たれたマナの束が光の粒子となって弾け、淡い輝きを放ちながら空間を舞った。圧縮されていたエネルギーが拡散し、ゴーレムの左腕が胴体から切り離される。

巨大な腕が地面に激突し、轟音と衝撃が足元を伝う。その余韻の中、カーライルは荒い息を整えつつ、鋭い視線をゴーレムに向けた。

「やったか…!」
達成感を滲ませたその声は、しかし束の間のものだった。彼の脳裏に冒険者たちの話がよぎる。極寒の環境にさらされた武器や装甲が脆くなり砕け散った――その記憶が今目の前の現象と重なる。

冷気で脆弱化した関節部。その手応えがカーライルに新たな洞察を与える。「凍らせれば…マナの束も断てるはずだ。」
彼は低く自分に言い聞かせるように呟き、剣を握り直した。その目には揺るぎない決意が宿っている。

だが、チャンスは長く続かなかった。ゴーレムの巨体がわずかに震え始め、氷の束縛から抜け出そうとしている兆しが見えた。冷気の中で響く微かな振動音が、次の危機を告げていた。

「嬢ちゃん、さっきの魔法、もう一度使えるか?」
カーライルが焦りを滲ませつつ問いかけると、アルマは一瞬目を閉じ、マナの残量を感じ取るように意識を集中させた。その後、苦渋の表情で答える。

「…あと二回が限界。それ以上はマナが尽きて、私が動けなくなるわ。」

カーライルは短く頷き、わずかな希望に賭けるように返す。「それで十分だ。」
その声には揺るぎない信頼と決意が込められていた。

そのやり取りを聞きながら、フィオラが明るい声で割り込む。「ほな、うちもやったるわ!あの結合部を断ち切る刃、見せたるから待っとき!」
彼女は背負っていたリュックから素材を取り出し、その目には楽しげな輝きと職人としての真剣さが宿っていた。

その瞬間、広間に「バキィン!」という鋭い音が響き渡る。ゴーレムを覆っていた氷が砕け散り、巨体がゆっくりと動き始める。冷気の束縛を解かれたゴーレムが轟音を立てながら三人に向かって再びその巨体を揺らした。

「よっしゃ、いっちょ派手に決めたるで!」
フィオラは笑みを浮かべながら道具を手に持ち、軽やかに動き出す。その陽気な声が緊張感に包まれた戦場に一瞬の軽さをもたらし、カーライルとアルマにわずかな余裕を与える。

「行くぞ!」
カーライルは低く力強い声で発し、剣を構える。再び三人は、それぞれの役割を果たすべく立ち向かう準備を整えた。圧倒的な敵を前にしても、その背中には揺るぎない信念が宿っていた。
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