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第一章 霊草不足のポーション
(9)作戦会議
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第三王子がダンジョンでの儀礼に挑む二日前の朝、カーライルとアルマは魔法石屋の近くで合流した。冷たく澄んだ朝の空気が二人を包み込む中、アルマはその寒さをまるで感じていないかのように平然としていた。朝日に照らされて彼女の金色の髪はまるで太陽の光を反射しているかのように輝き、青い瞳は冷たさを切り裂こうとするように鋭く光っていた。彼女の隣に立つカーライルはぼさぼさの髪に疲れた表情を浮かべ、どこかくたびれた雰囲気を漂わせている。だが、その様子がかえってアルマの強烈な存在感を際立たせていた。
「準備はできてるか?」
カーライルは短く問いかけた。無感情に聞こえるその声には、アルマの覚悟を確かめようとする意図が込められていた。
「ええ、問題ないわ。」
アルマは軽く頷き、落ち着いた口調で応じた。その声には自信があり、彼女の立ち姿がその覚悟を物語っていた。
二人は無言で魔石屋に向かって歩き出した。言葉は必要なかった。彼らは目の前にある試練にどう向き合うか、互いに理解し合っていた。だが、店に着いた時、二人の前には思い描いていた光景とは違うものが広がっていた。店内は慌ただしく、職人たちが忙しそうに出入りし、店主が大声で指示を飛ばしている様子が窓越しに見える。外には「立ち入り禁止」の看板が掲げられ、まるで進入を拒むかのようだった。
「こんな朝早くから監査対応が始まってるとは…想像以上に厄介だな。」
カーライルは眉をひそめ、冷静に店の状況を観察した。いつも冷静な彼だが、その様子からわずかな苛立ちが伝わってきた。計画通りに物事が進まないことに対する面倒臭さが彼の中に芽生えていた。
一方、アルマは彼の隣に立ちながら無言でその光景を見つめていた。彼女の鋭い瞳は状況を正確に把握していたが、焦りは見せなかった。自分たちがすぐに動けないことに対して、内心ではわずかな苛立ちを感じつつも、冷静さを崩すことなく立ち続けていた。
その時、店主が忙しそうな動作の中でカーライルに気づき、声をかけてきた。
「おお、あんたはこの間、深夜に魔石を買っていった冒険者じゃないか?確か、墓地へ行くとかなんとか言ってたよな。」
カーライルは淡々と頷いた。「まあ、そんなところだ。」
店主は少し笑いながら続けた。「今も魔石を売ってやりたいんだが、見ての通り、監査の準備中でな。三年に一度の面倒な時期、いや、大事な時期なんだ。この監査をちゃんと通さないと営業ができなくなっちまう。悪いが、夜まで待ってくれ。監査が終わったころにでも改めて来てくれよ。もうすぐ監査官も来るから大忙しでね。」
カーライルは店主の言葉に静かに耳を傾けながら、店内の様子をちらりと見た。
「分かった。改めて夜に来る。」
彼は淡々と答え、軽く肩をすくめた。その言葉には、焦りや苛立ちはなく、状況を冷静に受け入れて計画を調整する判断が滲んでいた。
アルマも特に反論せず、黙ってカーライルの後に続いた。彼女は、計画が少し狂ったことを感じていたが、それを顔に出さなかった。むしろ、監査が行われているという事実が、思わぬ手がかりになるかもしれないという期待もあった。二人はそのまま静かに街の喧騒を離れ、夜が訪れるまで待つことにした。
─
冷静に考えれば、朝から魔石屋に向かったのは早計だったかもしれない。作戦をきちんと立ててから動くべきだった――と、カーライルは二日酔いの頭を抱えながら思い返していた。朝から監査官と鉢合わせしなかったのは、まったくもって幸運だった。
そんなことを考えながら、彼はアルマとともに魔石屋を後にし、近くのカフェへ足を運んだ。朝の冷たい空気がまだ体にまとわりつく中、カフェの温かい空間が二人を包み込む。普段のカーライルなら、こんなところにいるのではなく、酒場でビールを片手にぼんやりと時間を潰しているところだろう。しかし、今日の状況はそれを許さなかった。緊張感が二人を冷静にさせ、慎重な判断を求められていた。
「まさか、カフェで作戦会議なんてね。あんたが酒以外を飲んでるの、初めて見るわ。」アルマは冗談交じりに微笑みながら言ったが、その声には緊張が隠しきれていなかった。彼女も、この状況がただの遊びではないと痛感していた。
「さあ、どうするかだな。」カーライルは冷たい目でコーヒーのカップを持ち上げ、一口飲むとアルマに視線を向けた。いつもの彼のように、感情は表に出さない。その無表情さは時にアルマを不安にさせることもあったが、今日はその冷静さが頼もしく感じられた。感情に左右されず、的確な判断ができるカーライルの存在が、今は必要だった。
アルマは顔を引き締め、真剣な口調で話し始めた。「工房長と同じように、もし監査官が黒だったとしても、必ず言い訳は用意しているはずよ。」
カーライルは無言で頷き、考え込むように視線を落とした。「そうだな、一カ月以上も前から準備してるなら、隙なんてそう簡単には見つけられない。物証も今のところないしな。」
「だから、カマをかけるしかないわね。」アルマの瞳には決意が宿っていた。「まずは特級ポーションの名前を出して、反応を見てみましょう。もし怪しげな反応を示したら…」
「次に、『盗まれた特級ポーションを見つけた』と言って、さらに揺さぶりをかけるわけか。」カーライルは腕を組み、アルマの案を一瞬考え込んでからそう応じた。
「その通りよ。それで監査官が何かを隠しているなら、必ずボロを出すわ。」アルマは満足そうに微笑んだ。
しかし、カーライルの表情は曇ったままだった。「でも、証拠もないのに揺さぶりをかけて、本当に効果があるのか?下手に刺激して墓穴を掘る可能性だってある。」
アルマはふっと笑い、「証拠なら、作ればいいのよ。夜までまだ時間があるし、私に考えがあるわ。」自信に満ちた彼女の言葉に、カーライルはそれ以上深く掘り下げることなく、彼女に任せることにした。
二人は、それぞれの考えを整理しながら、静かに作戦を練り始めていた。
「準備はできてるか?」
カーライルは短く問いかけた。無感情に聞こえるその声には、アルマの覚悟を確かめようとする意図が込められていた。
「ええ、問題ないわ。」
アルマは軽く頷き、落ち着いた口調で応じた。その声には自信があり、彼女の立ち姿がその覚悟を物語っていた。
二人は無言で魔石屋に向かって歩き出した。言葉は必要なかった。彼らは目の前にある試練にどう向き合うか、互いに理解し合っていた。だが、店に着いた時、二人の前には思い描いていた光景とは違うものが広がっていた。店内は慌ただしく、職人たちが忙しそうに出入りし、店主が大声で指示を飛ばしている様子が窓越しに見える。外には「立ち入り禁止」の看板が掲げられ、まるで進入を拒むかのようだった。
「こんな朝早くから監査対応が始まってるとは…想像以上に厄介だな。」
カーライルは眉をひそめ、冷静に店の状況を観察した。いつも冷静な彼だが、その様子からわずかな苛立ちが伝わってきた。計画通りに物事が進まないことに対する面倒臭さが彼の中に芽生えていた。
一方、アルマは彼の隣に立ちながら無言でその光景を見つめていた。彼女の鋭い瞳は状況を正確に把握していたが、焦りは見せなかった。自分たちがすぐに動けないことに対して、内心ではわずかな苛立ちを感じつつも、冷静さを崩すことなく立ち続けていた。
その時、店主が忙しそうな動作の中でカーライルに気づき、声をかけてきた。
「おお、あんたはこの間、深夜に魔石を買っていった冒険者じゃないか?確か、墓地へ行くとかなんとか言ってたよな。」
カーライルは淡々と頷いた。「まあ、そんなところだ。」
店主は少し笑いながら続けた。「今も魔石を売ってやりたいんだが、見ての通り、監査の準備中でな。三年に一度の面倒な時期、いや、大事な時期なんだ。この監査をちゃんと通さないと営業ができなくなっちまう。悪いが、夜まで待ってくれ。監査が終わったころにでも改めて来てくれよ。もうすぐ監査官も来るから大忙しでね。」
カーライルは店主の言葉に静かに耳を傾けながら、店内の様子をちらりと見た。
「分かった。改めて夜に来る。」
彼は淡々と答え、軽く肩をすくめた。その言葉には、焦りや苛立ちはなく、状況を冷静に受け入れて計画を調整する判断が滲んでいた。
アルマも特に反論せず、黙ってカーライルの後に続いた。彼女は、計画が少し狂ったことを感じていたが、それを顔に出さなかった。むしろ、監査が行われているという事実が、思わぬ手がかりになるかもしれないという期待もあった。二人はそのまま静かに街の喧騒を離れ、夜が訪れるまで待つことにした。
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冷静に考えれば、朝から魔石屋に向かったのは早計だったかもしれない。作戦をきちんと立ててから動くべきだった――と、カーライルは二日酔いの頭を抱えながら思い返していた。朝から監査官と鉢合わせしなかったのは、まったくもって幸運だった。
そんなことを考えながら、彼はアルマとともに魔石屋を後にし、近くのカフェへ足を運んだ。朝の冷たい空気がまだ体にまとわりつく中、カフェの温かい空間が二人を包み込む。普段のカーライルなら、こんなところにいるのではなく、酒場でビールを片手にぼんやりと時間を潰しているところだろう。しかし、今日の状況はそれを許さなかった。緊張感が二人を冷静にさせ、慎重な判断を求められていた。
「まさか、カフェで作戦会議なんてね。あんたが酒以外を飲んでるの、初めて見るわ。」アルマは冗談交じりに微笑みながら言ったが、その声には緊張が隠しきれていなかった。彼女も、この状況がただの遊びではないと痛感していた。
「さあ、どうするかだな。」カーライルは冷たい目でコーヒーのカップを持ち上げ、一口飲むとアルマに視線を向けた。いつもの彼のように、感情は表に出さない。その無表情さは時にアルマを不安にさせることもあったが、今日はその冷静さが頼もしく感じられた。感情に左右されず、的確な判断ができるカーライルの存在が、今は必要だった。
アルマは顔を引き締め、真剣な口調で話し始めた。「工房長と同じように、もし監査官が黒だったとしても、必ず言い訳は用意しているはずよ。」
カーライルは無言で頷き、考え込むように視線を落とした。「そうだな、一カ月以上も前から準備してるなら、隙なんてそう簡単には見つけられない。物証も今のところないしな。」
「だから、カマをかけるしかないわね。」アルマの瞳には決意が宿っていた。「まずは特級ポーションの名前を出して、反応を見てみましょう。もし怪しげな反応を示したら…」
「次に、『盗まれた特級ポーションを見つけた』と言って、さらに揺さぶりをかけるわけか。」カーライルは腕を組み、アルマの案を一瞬考え込んでからそう応じた。
「その通りよ。それで監査官が何かを隠しているなら、必ずボロを出すわ。」アルマは満足そうに微笑んだ。
しかし、カーライルの表情は曇ったままだった。「でも、証拠もないのに揺さぶりをかけて、本当に効果があるのか?下手に刺激して墓穴を掘る可能性だってある。」
アルマはふっと笑い、「証拠なら、作ればいいのよ。夜までまだ時間があるし、私に考えがあるわ。」自信に満ちた彼女の言葉に、カーライルはそれ以上深く掘り下げることなく、彼女に任せることにした。
二人は、それぞれの考えを整理しながら、静かに作戦を練り始めていた。
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