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(47)エルフとTシャツ
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フィリアが帰るまで、あと14日。
彼女がこの銭湯に現れてから、今日でちょうど二週間になる。たった二週間しか経っていないのに、なんだかずっと昔の出来事のように感じる。湯船が突然光りだし、その中から現れたのは、ぶかぶかの白装束を着た銀髪の少女。髪が濡れて、装束が透けて…。
――やめろ、思い出しちゃダメだ。
そんなことを考えるなんてフィリアに失礼だし、それ以上に自分が恥ずかしい。けれど、あのときの衝撃が、それだけ強烈だったことも否定できない。
さて、今日は待ちに待ったストレートビーチへのお出かけの日。朝の支度を終え外に出ると、ばあちゃんがショートステイに向かうバンに乗り込むところだった。俺とフィリアで見送りに出ると、ばあちゃんは柔らかな笑顔を浮かべながら言った。
「楽しんでらっしゃいね。また明日、お土産話を聞かせてね。」
「は、はい…!」
フィリアは一瞬目を丸くし、それから慌てて頷いた。きっと「お土産話」という言葉に戸惑っているんだろう。異世界から来た彼女にとって、こうした日本特有の言い回しはまだ慣れないものだ。後できちんと説明して、ばあちゃんとの会話がもっとスムーズになるようにしておかないとな。
そんなやり取りをしているうちに、朝の十時が近づいてきた。
「悠斗ー!」
銭湯の定休日の静けさを破るような元気な声が響く。夏菜だ。時間ぴったり、いや少し早めに来るあたり、彼女らしい。
「行くわよー!出てきてー!」
入り口から急かされ、俺は急いで最後の準備を整える。でも少し手間取ってしまった。原因はフィリアの「水着問題」だ。
バスタオルを巻いての着替えなんて器用なことは彼女には無理だろうし、水着の上に服を着せるとしても、麦わら帽子を外すと尖った耳が目立つ。色々と悩んだ末、水色のフリル付きの水着の上に俺の白いジップアップTシャツを羽織らせることにした。これならジッパーを上げ下げするだけで簡単に着脱できるし、帽子を外さずに済む。それに、大きめのTシャツだから太ももまで隠れてちょうどいい。いや、少し目を引くかもしれないが…。
「い、いきますわ…!」
銭湯に隣接する住居側の扉から、フィリアが恐る恐る顔を出す。
水色のフリルがかわいらしい水着。その上に俺の白いTシャツ。大きすぎてだぶついており、太ももまで覆っているせいで、超ミニスカートのようにも見える。華奢なフィリアがそれを着ると、妙に守ってあげたくなる雰囲気が漂っていて、思わず視線をそらしてしまった。もしこれをフィリアファンクラブの誰かが見たら、絶対に大騒ぎになる。
「まだー!」外から夏菜の声がさらに大きくなる。慌てて、昨日調達しておいた白いサンダルをフィリアに手渡した。
「これ、履いてみて。きっと合うと思うから。」
「はい…ありがとうございます。」
フィリアは小さく礼を言いながら、慎重にサンダルを履く。その仕草がどこかぎこちなくも愛らしい。そしてようやく準備が整い、俺たちは夏菜が待つ銭湯の外へ飛び出した。
夏の日差しが眩しい朝。空は一面の青。フィリアの麦わら帽子が風に揺れ、隣の夏菜は勢いよく自転車を押している。
今日がどんな一日になるのか。胸の奥が高鳴るのを感じながら、俺たちは海への期待に胸を膨らませていた。
彼女がこの銭湯に現れてから、今日でちょうど二週間になる。たった二週間しか経っていないのに、なんだかずっと昔の出来事のように感じる。湯船が突然光りだし、その中から現れたのは、ぶかぶかの白装束を着た銀髪の少女。髪が濡れて、装束が透けて…。
――やめろ、思い出しちゃダメだ。
そんなことを考えるなんてフィリアに失礼だし、それ以上に自分が恥ずかしい。けれど、あのときの衝撃が、それだけ強烈だったことも否定できない。
さて、今日は待ちに待ったストレートビーチへのお出かけの日。朝の支度を終え外に出ると、ばあちゃんがショートステイに向かうバンに乗り込むところだった。俺とフィリアで見送りに出ると、ばあちゃんは柔らかな笑顔を浮かべながら言った。
「楽しんでらっしゃいね。また明日、お土産話を聞かせてね。」
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フィリアは一瞬目を丸くし、それから慌てて頷いた。きっと「お土産話」という言葉に戸惑っているんだろう。異世界から来た彼女にとって、こうした日本特有の言い回しはまだ慣れないものだ。後できちんと説明して、ばあちゃんとの会話がもっとスムーズになるようにしておかないとな。
そんなやり取りをしているうちに、朝の十時が近づいてきた。
「悠斗ー!」
銭湯の定休日の静けさを破るような元気な声が響く。夏菜だ。時間ぴったり、いや少し早めに来るあたり、彼女らしい。
「行くわよー!出てきてー!」
入り口から急かされ、俺は急いで最後の準備を整える。でも少し手間取ってしまった。原因はフィリアの「水着問題」だ。
バスタオルを巻いての着替えなんて器用なことは彼女には無理だろうし、水着の上に服を着せるとしても、麦わら帽子を外すと尖った耳が目立つ。色々と悩んだ末、水色のフリル付きの水着の上に俺の白いジップアップTシャツを羽織らせることにした。これならジッパーを上げ下げするだけで簡単に着脱できるし、帽子を外さずに済む。それに、大きめのTシャツだから太ももまで隠れてちょうどいい。いや、少し目を引くかもしれないが…。
「い、いきますわ…!」
銭湯に隣接する住居側の扉から、フィリアが恐る恐る顔を出す。
水色のフリルがかわいらしい水着。その上に俺の白いTシャツ。大きすぎてだぶついており、太ももまで覆っているせいで、超ミニスカートのようにも見える。華奢なフィリアがそれを着ると、妙に守ってあげたくなる雰囲気が漂っていて、思わず視線をそらしてしまった。もしこれをフィリアファンクラブの誰かが見たら、絶対に大騒ぎになる。
「まだー!」外から夏菜の声がさらに大きくなる。慌てて、昨日調達しておいた白いサンダルをフィリアに手渡した。
「これ、履いてみて。きっと合うと思うから。」
「はい…ありがとうございます。」
フィリアは小さく礼を言いながら、慎重にサンダルを履く。その仕草がどこかぎこちなくも愛らしい。そしてようやく準備が整い、俺たちは夏菜が待つ銭湯の外へ飛び出した。
夏の日差しが眩しい朝。空は一面の青。フィリアの麦わら帽子が風に揺れ、隣の夏菜は勢いよく自転車を押している。
今日がどんな一日になるのか。胸の奥が高鳴るのを感じながら、俺たちは海への期待に胸を膨らませていた。
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