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(46)エルフと和菓子
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夜の十時近く。銭湯の暖簾をくぐり、最後のお客さんである土建屋のお兄さんたちが帰っていく。いつも通り屈強な体つきと朗らかな笑顔を見せながらも、どこか名残惜しそうな雰囲気を漂わせていた。
「フィリアちゃんと明日は会えなくて、寂しくて死んじゃうよー!」
胸を押さえる仕草をする彼らに、思わず苦笑いが漏れる。
番台に立つフィリアは、麦わら帽子を軽く抑えながら「ま、またよろしくお願いします…!」と一生懸命な笑顔で見送る。その笑顔に彼らも笑い声を響かせながら手を振り返して去っていった。その様子を眺めていると、自然と胸の奥が温かくなる。彼女の笑顔はいつも、俺たちの銭湯に穏やかな光を灯してくれる。
銭湯がようやく静まり返った頃、俺はフィリアに声をかけた。「フィリア、ちょっとこっちに来てくれる?」
「え?あの…はい、何でしょう?」
不思議そうに首をかしげる彼女を食卓へ誘う。テーブルの上には、ばあちゃん直伝の冷たい和菓子、わらび餅が並んでいる。ぷるんと透明感のあるその見た目は、夏の夜にぴったりの一品だ。夜食にもっとボリュームのあるものをとも考えたけれど、明日は朝早くからの出発だし、これくらいがちょうどいいだろう。
「これ、ばあちゃんに教わったんだよ。」
つややかに冷えたわらび餅を見せると、フィリアの瞳が大きく輝き、小さく息を呑む。そして信じられないものを見るような顔でぽつりとつぶやいた。
「ア、アクアスライムが、この世界にも…!」
その言葉に思わず吹き出しそうになりながら、「いやいや、違うよ。これはわらび餅っていう、夏の和菓子なんだ。」と説明する。さらに、きな粉と黒蜜を手に取り、「これをかけて食べるんだよ」と言いながら、彼女の前に少し取り分けてつまようじを渡した。
「どうぞ。」
フィリアは少し緊張した様子でつまようじを手に取り、恐る恐るわらび餅を口に運ぶ。その瞬間、もちもちした食感とひんやりとした口当たりに驚いたのか、彼女の瞳がさらに大きく輝き、口元を手で覆いながら感嘆の声を漏らした。
「今日の一日の疲れが…飛んでいきますわ…!」
そのほっとした表情と満足げな笑顔を見ていると、俺の頬も自然と緩む。彼女がこんなふうに喜んでくれるたびに、もっと彼女のために何かしてあげたくなる。
お菓子を楽しみながら談笑した後、俺はそっと明日の話題を切り出した。「いよいよ明日はビーチだね。この前は海に入れなかったけど、今度は遊べるから楽しみだろ?」
フィリアは目を輝かせながら、「は、はい!塩の広大な湖、それに白い砂浜、とても楽しみですわ!」と嬉しそうに声を弾ませる。その無邪気な反応に、俺もつい笑ってしまう。
「ところで、海で何かやりたいことってある?」と尋ねると、フィリアは少し考え込むように視線を上げたあと、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「前回、海辺のお城から海を眺めさせていただきましたが、太陽が沈む前に帰ってしまいました。ですので、今度は太陽が海の中に沈むところを見てみたいですわ…!」
彼女の純粋な期待が込められた瞳に、胸が温かくなる。その言葉で思い出したのは、以前フィリアと夏菜と行ったテーマパークのこと。今回は自転車だから時間を気にせず、夕日が沈むまで楽しむこともできるだろう。
「任せて。夕日が沈むまで思いっきり楽しもう。」
俺がそう言うと、フィリアは嬉しそうに微笑み、小さな声で「ありがとうございます…ユウトさんのおかげで、とても特別な一日になりそうです」と囁いた。
その瞬間、俺の胸の中に温かさが広がった。明日はフィリアがこの銭湯にやってきてちょうど二週間目の水曜日。彼女にとってこの夏が特別なものになるように。ストレートビーチで過ごす一日が忘れられない思い出になるように、俺は心の中で固く誓った。
「フィリアちゃんと明日は会えなくて、寂しくて死んじゃうよー!」
胸を押さえる仕草をする彼らに、思わず苦笑いが漏れる。
番台に立つフィリアは、麦わら帽子を軽く抑えながら「ま、またよろしくお願いします…!」と一生懸命な笑顔で見送る。その笑顔に彼らも笑い声を響かせながら手を振り返して去っていった。その様子を眺めていると、自然と胸の奥が温かくなる。彼女の笑顔はいつも、俺たちの銭湯に穏やかな光を灯してくれる。
銭湯がようやく静まり返った頃、俺はフィリアに声をかけた。「フィリア、ちょっとこっちに来てくれる?」
「え?あの…はい、何でしょう?」
不思議そうに首をかしげる彼女を食卓へ誘う。テーブルの上には、ばあちゃん直伝の冷たい和菓子、わらび餅が並んでいる。ぷるんと透明感のあるその見た目は、夏の夜にぴったりの一品だ。夜食にもっとボリュームのあるものをとも考えたけれど、明日は朝早くからの出発だし、これくらいがちょうどいいだろう。
「これ、ばあちゃんに教わったんだよ。」
つややかに冷えたわらび餅を見せると、フィリアの瞳が大きく輝き、小さく息を呑む。そして信じられないものを見るような顔でぽつりとつぶやいた。
「ア、アクアスライムが、この世界にも…!」
その言葉に思わず吹き出しそうになりながら、「いやいや、違うよ。これはわらび餅っていう、夏の和菓子なんだ。」と説明する。さらに、きな粉と黒蜜を手に取り、「これをかけて食べるんだよ」と言いながら、彼女の前に少し取り分けてつまようじを渡した。
「どうぞ。」
フィリアは少し緊張した様子でつまようじを手に取り、恐る恐るわらび餅を口に運ぶ。その瞬間、もちもちした食感とひんやりとした口当たりに驚いたのか、彼女の瞳がさらに大きく輝き、口元を手で覆いながら感嘆の声を漏らした。
「今日の一日の疲れが…飛んでいきますわ…!」
そのほっとした表情と満足げな笑顔を見ていると、俺の頬も自然と緩む。彼女がこんなふうに喜んでくれるたびに、もっと彼女のために何かしてあげたくなる。
お菓子を楽しみながら談笑した後、俺はそっと明日の話題を切り出した。「いよいよ明日はビーチだね。この前は海に入れなかったけど、今度は遊べるから楽しみだろ?」
フィリアは目を輝かせながら、「は、はい!塩の広大な湖、それに白い砂浜、とても楽しみですわ!」と嬉しそうに声を弾ませる。その無邪気な反応に、俺もつい笑ってしまう。
「ところで、海で何かやりたいことってある?」と尋ねると、フィリアは少し考え込むように視線を上げたあと、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「前回、海辺のお城から海を眺めさせていただきましたが、太陽が沈む前に帰ってしまいました。ですので、今度は太陽が海の中に沈むところを見てみたいですわ…!」
彼女の純粋な期待が込められた瞳に、胸が温かくなる。その言葉で思い出したのは、以前フィリアと夏菜と行ったテーマパークのこと。今回は自転車だから時間を気にせず、夕日が沈むまで楽しむこともできるだろう。
「任せて。夕日が沈むまで思いっきり楽しもう。」
俺がそう言うと、フィリアは嬉しそうに微笑み、小さな声で「ありがとうございます…ユウトさんのおかげで、とても特別な一日になりそうです」と囁いた。
その瞬間、俺の胸の中に温かさが広がった。明日はフィリアがこの銭湯にやってきてちょうど二週間目の水曜日。彼女にとってこの夏が特別なものになるように。ストレートビーチで過ごす一日が忘れられない思い出になるように、俺は心の中で固く誓った。
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