銭湯エルフと恋の夏

チョコレ

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(18)エルフと寿司

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ヨーロッパ風のテーマパークの門をくぐった瞬間、まるで異国の街に迷い込んだような感覚に包まれた。石畳の道、白壁に赤い屋根の建物、クラシックな街灯──どれも細部まで作り込まれていて、俺はしばらく言葉を失った。見渡す景色に圧倒されながらも、隣のフィリアを見ると、彼女も目を輝かせながらあちこちを興味深げに見回していた。

そんな様子を見た夏菜が、ふと笑顔を浮かべてフィリアに尋ねた。「ねえ、フィリアちゃんの故郷も、こんな感じだったりするの?」

フィリアは一瞬俺の方をちらりと見てから、事前に話し合った通りの答えを口にした。「ええ…そうですね。少し似ているかもしれませんわ。」その控えめな返答に、夏菜は嬉しそうに頷き、「ほんと?じゃあ、ちょっと懐かしい気持ちになれるかな?」と微笑んだ。

その後、夏菜が突然「さぁ、撮影の時間よ!」と手を叩きながら、スマホを俺に押し付けてきた。俺は自然な流れで撮影係にされ、テーマパーク内の色とりどりの花壇やクラシカルな建物を背景にポーズをとる夏菜とフィリアの写真を撮ることになった。

夏菜は次々とポーズを決めながら、「ここはどう?」「次はこっちで!」と撮影スポットを仕切り、フィリアもその勢いに押されながら少しずつ笑顔を見せ始めた。ぎこちなさを残しつつも楽しそうに笑うフィリアの姿に、俺は思わずシャッターを切る手が止まらなくなる。画面越しに見る二人の笑顔がなんとも言えず愛らしくて、気づけば夢中になっていた。

でも、俺たちの撮影会が周囲から注目を集めていることに気づいた時には、さすがに恥ずかしくなってきた。家族連れやカップルがちらちらとこちらを見ていて、まるで本物のモデル撮影でもしているような視線を感じる。俺は何とか平静を装いながら、「はい、ポーズ!」とリクエストに応え続けた。

お昼時になると、夏菜が「海の近くに来たんだし、フィリアちゃんにも海を感じられるものを食べさせてあげたいよね」と提案。ちょうどその時、フィリアが「あれはなんですの?」と指差した先にあったのは、回転寿司の看板だった。

その提案に全員が即決し、店内に入ると、フィリアは目の前で回転する寿司の皿を見て、目を輝かせていた。「なんて不思議な仕掛けですの…!」その声に、俺も思わず笑ってしまう。彼女が少し戸惑いながらも一皿を手に取ると、じっとその寿司を見つめる。その姿があまりにも真剣で、寿司が何か神聖なものに見えてきた。

「これ…どうやって食べるのですか?」と小さな声で尋ねてくるフィリアに、俺は「手で食べてもいいし、箸でも大丈夫だよ」と答えた。彼女は慎重に寿司をつまみ上げると、まるで儀式でもするかのように一口運ぶ。そしてその瞬間、彼女の瞳が大きく開き、ふわっと柔らかな笑みがこぼれた。

「美味しいですわ…!」その言葉が、心の底からの感動を表しているのがわかる。俺はその反応があまりにも純粋で、なんだか嬉しくなった。

その様子を見ていた夏菜が笑いながら言う。「フィリアちゃん、お寿司、初めてなんだよね?いろんなものがあって楽しいでしょ?」

フィリアは嬉しそうに頷きながら、「はい、色んな種類があって、わくわくしますの…」と周りの皿を見渡している。そこで彼女が手を伸ばしたのは、卵焼きの乗った寿司だった。日本らしい甘い黄色が美しい卵焼きを、フィリアは興味深そうに観察する。

「これは…卵ですか?」と小声で尋ねてきた。

「そうだよ、甘くて美味しいから食べてみなよ。」俺が答える前に、夏菜が先に教えてあげている。その説明を聞いたフィリアは、「甘い…でもご飯と一緒に…?」と不思議そうに首を傾げつつ、一口食べた。途端にふわりとした笑みが浮かび、「とても優しい味で…美味しいですわ」と微笑む。その姿がなんだか微笑ましくて、俺も嬉しくなった。

次に彼女の目を引いたのは、イクラの軍艦巻き。光を受けて輝く小さな赤い粒が、まるで宝石みたいに見えたらしい。「小さな宝石のようですわ…!」と感激する彼女に、夏菜が「それ、イクラっていって、魚の卵なんだよ」と説明する。

「魚の…卵?」フィリアは驚きながらも口に運び、「塩気があって、プチプチするんですのね!」と目を輝かせた。そのリアクションが新鮮で、俺もつい「それ、ご飯と一緒に食べるともっと美味しいぞ」と言ってしまった。

さらにフィリアの手が伸びたのは、ハマチの寿司。白身の透き通るような輝きに目を奪われたのだろう。「このお魚もとても美しいですわ…」と感心する彼女に、夏菜が「それはハマチっていうんだよ。日本じゃ人気のあるお魚なんだ」と説明していた。

「どれも見た目も味も素敵ですわ」と感動を込めて語るフィリアに、夏菜は「回転寿司って、いろんな味を手軽に楽しめるから日本の良さが詰まってるんだよね!」と得意げに語る。その会話を聞きながら、俺もなんだか誇らしい気分になった。

フィリアが興味津々で一皿ひと皿を手に取り、新しい味を楽しむ姿は見ていて微笑ましかった。イクラや卵焼き、ハマチといった寿司が、まるで初めてのおもちゃを手にした子供のような彼女にとっては、どれも新鮮な体験だったのだろう。

しかし楽しい時間も終わり、会計の時が来た。「別々で」と言おうとした俺の言葉を遮るように、夏菜が言い放った。

「ねぇ、女の子に食事代を出させるつもり?それに、フィリアちゃんは異国から来たんだから、まだ何も分からないんだよ。頼りないね、悠斗は!」と、半ば呆れた口調で言われ、俺はしぶしぶ全額を支払う羽目になった。いや、フィリアの分は最初から俺が払うつもりだったけど、なぜ夏菜の分まで…。

正直、財布の中身を確認して冷や汗が出たけど、今日が月末で助かった。明日には父さんからのお小遣いと、ばあちゃんからのアルバイト代が入る予定だ。予想外の出費ではあったが、なんとか乗り切れる見込みが立ち、俺は心の中でそっと胸をなで下ろした。
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