銭湯エルフと恋の夏

チョコレ

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(16)エルフと待ち合わせ

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フィリアが銭湯にやってきてから五日目。

七月末の日曜日の朝、今日は美駅で待ち合わせをすることになっていた。この街には二つの駅があり、地元の人たちはそれぞれを短い愛称で呼んでいる。本来の正式名称を耳にする機会なんて、ほとんどない。

西側の駅は市役所の近くにあるため「市駅」、東側の駅は美琴商店街が近いことから「美駅」と親しまれている。うちの銭湯はそのちょうど中間地点に位置しているが、夏菜の家が東側寄りということもあって、自然と待ち合わせは美駅に決まった。しかも、南方面への路線は美駅を通るものだけ。便利な場所なのだ。

少し早めに着いたかなと思いながら周囲を見渡すと、意外にも夏菜がもうそこに立っていた。いつもなら、俺が先に着いて「遅れてごめん!」と軽やかに駆け寄ってくる夏菜を待つのが恒例だったのに、今日はその逆だったらしい。なんだか不意を突かれた気分だ。

さらに驚いたのは、彼女の服装だった。いつものカジュアルなスタイルとは違い、今日は淡いパステルカラーのワンピースをまとっている。柔らかな色合いと風に揺れる軽やかなデザインが、彼女の明るさを優しく引き立てていて、思わず目が離せなくなった。肩にかかる茶色の髪がふわりと揺れるその仕草もどこか落ち着いていて、普段の夏菜とは違う、穏やかな雰囲気を醸し出していた。

こんな一面もあるんだな——心の中で思わず呟いてしまう。これまでずっと近くにいたのに、彼女の新しい魅力に気づいたような気がした。普段は気づかなかった細かな変化に目が奪われてしまう。なんだか少し照れくさいような、不思議な気持ちだった。

「おっそい!」夏菜の声が耳に飛び込んできて、ハッと我に返る。彼女は口を尖らせて軽く睨むような目つきで、不満げに言葉を続けた。

「女の子を待たせるなんてね、ほんと信じらんない。まったく、アタシの方がしっかりしてるじゃん!」

ああ、なるほど。見た目が変わっても中身は相変わらずらしい。そのいつもの調子に、思わず苦笑してしまう。

「いや、俺も早く来たんだけどさ。まさか夏菜が先にいるなんて思わなくて。」慌てて弁解すると、夏菜はふっと笑みを浮かべ、肩を軽くすくめた。

「たまにはアタシが先に来ることもあるって覚えときなさいよ。」

「たまにはね。」そう返そうとした瞬間、自分が妙に緊張していることに気づいた。いつもならさらっと流せるはずのやり取りが、夏菜の柔らかな笑顔に引っ張られて、胸の中で妙なざわめきとなって渦巻いている。なんなんだ、この感じ…。息苦しさを感じて、思わず深呼吸でごまかそうとする。

その時、銭湯から一緒に歩いてきたフィリアが俺の隣に立った。

俺が貸したお古のシャツとズボンを着た彼女は、麦わら帽子をちょこんとかぶっていて、その姿はどこか少年のようなあどけなさを漂わせている。対照的に、今日はワンピースで女性らしさを前面に押し出した夏菜。二人の雰囲気があまりにも違いすぎて、視界に入るたびに奇妙な違和感を覚えた。

「お、おはようございます。」フィリアが少し緊張気味に頭を下げる。その仕草はどこまでも丁寧で、夏菜は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐにいつもの柔らかい笑顔を浮かべた。

「フィリアちゃん、おはよう!今日も元気そうね!」夏菜の明るい声が弾けるように響く。しかし、その視線はフィリアの服装に留まっている。彼女は少し首を傾げて、問いかけた。

「ねえ、フィリアちゃん…それって、もしかして悠斗の服?もしかして、着替えとか持ってきてないの?」

その言葉にフィリアは一瞬戸惑い、申し訳なさそうに視線を伏せる。「ええ…そうですの…。ユウトさんが貸してくださったものですの。」

その答えを聞いた夏菜は、一拍置いてからニコッと笑い、声を弾ませた。「そっか!じゃあ、次の定休日にさ、フィリアちゃん用の服を買いに行こうよ!確か水曜だよね、悠斗?」

「えっ?」突然の提案にフィリアが驚いたように目を瞬かせる。その仕草がどこか子供っぽくて、思わず見守ってしまう。

「ほら、銭湯の定休日にショッピングだよ!フィリアちゃん、せっかくなら自分に合った服を着た方が楽しいでしょ?」夏菜は楽しそうに手を叩いて、すでに自分の中では計画が決まったかのような勢いだ。

「で、でも…そんな、気を使わせるわけには…」フィリアが戸惑いながら遠慮がちに答えると、夏菜は勢いよく首を横に振った。

「気にしない、気にしない!私が行きたいだけだし、フィリアちゃんも一緒に行った方が楽しいじゃん。それに、日本の夏って楽しいことたくさんだから、もっと似合う服で思いっきり楽しもうよ!」

その熱意に押されたのか、フィリアは困ったように微笑みながらも、小さく頷いた。「そ、それなら…お言葉に甘えさせていただきますの。」

そんな二人のやり取りを横で聞きながら、俺は軽く肩をすくめた。夏菜の押しの強さにはどうにも敵わない。とはいえ、フィリアが少しでも楽しいと思える時間を過ごせるなら、それも悪くないかもしれない。

「さあ、何はともあれ電車に乗らなきゃ!」夏菜が元気よく声を張り上げると、俺たちは自然と切符売り場へ向かって歩き出した。その後ろ姿を追いかけながら、ふとフィリアを見ると、彼女がどこか嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。

その笑顔を見て、妙な胸のざわつきが少しだけ和らいだ気がした。ホッとしたような、どこか満たされたような、不思議な感覚を抱えたまま、俺は歩き続けた。
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