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ロリゴク
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卓人は姫を見て、エミリと同い年かそれよりも若いと思った。
しかしながら、その佇まいは随分と大人びて見える。
そう思うと自分よりもぐっと年上のようにも思える。
肩まで伸ばした髪もふわりとしたくせがあって、かわいらしいというかあどけないというか、なんとも言えない愛らしさがある。
なんだか不思議な印象なのだが、間違いなく言えるのは、その人が歩く姿には思わず見入ってしまうほどの一般人にない品格があった。
「むほほほほ、お姫様かわいいのにゃん」
「おいくつなのかしら?」
「十九歳だって聞いたことがあるにゃん」
十九? 自分よりもお姉さんじゃないか。
姫は卓人たち家族・関係者のほうへ軽く会釈をすると、そのまま階段からバルコニーへ降り立つ。そして任命式を見にきた市民たちへ会釈をする。
それに合わせて幹部候補生たちが一糸乱れることなく列を保ったまま階段を下りて姫の前でひざまずく。
姫が現れただけで湧き上がった観衆はその行動の美しさにさらに熱気を高めた。
「幹部候補生の皆様、各地の兵学校での研鑽、そしてこのたびの試験、大変ご苦労様でした。過日のバルツ軍およびエルゲニア軍による侵略未遂があったように、我が国を取り囲む事情は必ずしも安寧ではありません。皆様方のお力がなければ我が国民を、財産を守ることはできないでしょう」
その言葉は幹部候補生たちを激励するものであるだろうが、鼓舞するような勇ましさは全くない。かといって棒読みというわけでもなく、穏やかな品性が感じられた。
ただ、儀礼的で姫の人格が打ち消されてしまっているように、卓人には聞こえた。
まあ、こんな場で姫様が意気揚々としゃべるのも変だ。おしとやかな印象を与えることがこの場にはふさわしいのかもしれない。
「幹部候補生となられてから、さらにその先からも皆様方には大いにご苦労をおかけすると存じます。すべては国を守るため、国民に皆様の幸せのためでございます。何卒、ご尽力いただきますようお願い申し上げるものでございます」
姫から出てくる言葉は恭しくもはかない。
誰もが彼女を守りたいと思わせるには十分だった。
「重責の日々が続くこととなりましょうが、せめて今日だけは、ご参列いただいたご家族や関係者の方々のためにも華々しくこの祝いの徽章をお受け取りください」
姫の後ろに折敷をもった女性が従う。折敷の上には手のひらほどの大きさの徽章が載せてある。
前に立たれた幹部候補生はさっと立ち上がり、姫に軍式の敬礼をする。
「この国を、どうかよろしくお願いいたします」
その言葉と共に右胸に徽章が授けられる。
たったその一言をもらうに過ぎないのだが、幹部候補生の心には生涯をかけた使命として刻み込まれる。
そして隣に移動すると、前に立たれたその幹部候補生はまたさっと立ち上がる。
こうして一人ひとりの胸に徽章が飾られてゆく。
レヴァンニは似つかわしくなく緊張していた。
徽章を授けられるまでは膝をついたまま、その姿勢を崩してはならない。
隣のアラミオが立ち上がったとき、妙に心臓の鼓動が高まった。嬉しいような恥ずかしいような、失敗したらどうしようなどと考えてしまう。
そしてついに、裾を引きずる長さのスカートが自分の前に止まる。
レヴァンニは事前の指導の通りのタイミングで美しく立ち上がる。緊張していても、それに支配されることなく自在に動かせるのは彼の美徳のひとつだろう。
「この国を、どうかよろしくお願いいたします」
わずかに湿り気を帯びた可憐な声。
徽章を授ける手はなめらかで肌は透き通るようだ。
華やかなドレスはその肉体を隠そうとするが、その美しい曲線ははっきりと見て取れた。
そして気品あふれる美貌の中に残る稚気。
――こ、これは!!!
レヴァンニはごくりとつばを飲み込んだ。
かつてレヴァンニは仲間たちの前で熱弁したことがあった。
『地味な恰好をしつつフェロモン溢れるジミフェロは理想かもしれんが、それ以上の女がいるぜ!』
いつものように仲間たちは熱心に聞き入っていた。
『身体は成熟しているのに、顔は幼さが残ったまま。ロリータフェイスのごっくんボディ! 略してロリゴクだ!』
『うおお、ロリゴク! それは素晴らしいな!』
『た、確かに最強かもしれないにゃん!』
――か、完璧なまでのロリゴクだ!!
レヴァンニはこれまで会ったこともないのになんだか姫様が大好きで守ってあげたいと考えていた。だってお姫様だから。しかしこうして直に姫を見てみるとどうだろうか。
この女性にはいかなる邪なものも近づけてはならない!
この女性を守るのは俺だ!
それは本能よりももっと原初的な衝動というべきかもしれない。それが怒涛の噴火のごとくレヴァンニの最深部からあふれ出してくる。
『どんなに自分が傷つくことになったとしても、この人は守ってみせる! それは風呂の中でも、布団の中でも! そして、そして! ぐふふふふ……』
彼は任命式の真っ最中でありながら誰よりも邪な妄想をするのだが、幸いにもそれが態度に現れることはなかった。
しかしながら、その佇まいは随分と大人びて見える。
そう思うと自分よりもぐっと年上のようにも思える。
肩まで伸ばした髪もふわりとしたくせがあって、かわいらしいというかあどけないというか、なんとも言えない愛らしさがある。
なんだか不思議な印象なのだが、間違いなく言えるのは、その人が歩く姿には思わず見入ってしまうほどの一般人にない品格があった。
「むほほほほ、お姫様かわいいのにゃん」
「おいくつなのかしら?」
「十九歳だって聞いたことがあるにゃん」
十九? 自分よりもお姉さんじゃないか。
姫は卓人たち家族・関係者のほうへ軽く会釈をすると、そのまま階段からバルコニーへ降り立つ。そして任命式を見にきた市民たちへ会釈をする。
それに合わせて幹部候補生たちが一糸乱れることなく列を保ったまま階段を下りて姫の前でひざまずく。
姫が現れただけで湧き上がった観衆はその行動の美しさにさらに熱気を高めた。
「幹部候補生の皆様、各地の兵学校での研鑽、そしてこのたびの試験、大変ご苦労様でした。過日のバルツ軍およびエルゲニア軍による侵略未遂があったように、我が国を取り囲む事情は必ずしも安寧ではありません。皆様方のお力がなければ我が国民を、財産を守ることはできないでしょう」
その言葉は幹部候補生たちを激励するものであるだろうが、鼓舞するような勇ましさは全くない。かといって棒読みというわけでもなく、穏やかな品性が感じられた。
ただ、儀礼的で姫の人格が打ち消されてしまっているように、卓人には聞こえた。
まあ、こんな場で姫様が意気揚々としゃべるのも変だ。おしとやかな印象を与えることがこの場にはふさわしいのかもしれない。
「幹部候補生となられてから、さらにその先からも皆様方には大いにご苦労をおかけすると存じます。すべては国を守るため、国民に皆様の幸せのためでございます。何卒、ご尽力いただきますようお願い申し上げるものでございます」
姫から出てくる言葉は恭しくもはかない。
誰もが彼女を守りたいと思わせるには十分だった。
「重責の日々が続くこととなりましょうが、せめて今日だけは、ご参列いただいたご家族や関係者の方々のためにも華々しくこの祝いの徽章をお受け取りください」
姫の後ろに折敷をもった女性が従う。折敷の上には手のひらほどの大きさの徽章が載せてある。
前に立たれた幹部候補生はさっと立ち上がり、姫に軍式の敬礼をする。
「この国を、どうかよろしくお願いいたします」
その言葉と共に右胸に徽章が授けられる。
たったその一言をもらうに過ぎないのだが、幹部候補生の心には生涯をかけた使命として刻み込まれる。
そして隣に移動すると、前に立たれたその幹部候補生はまたさっと立ち上がる。
こうして一人ひとりの胸に徽章が飾られてゆく。
レヴァンニは似つかわしくなく緊張していた。
徽章を授けられるまでは膝をついたまま、その姿勢を崩してはならない。
隣のアラミオが立ち上がったとき、妙に心臓の鼓動が高まった。嬉しいような恥ずかしいような、失敗したらどうしようなどと考えてしまう。
そしてついに、裾を引きずる長さのスカートが自分の前に止まる。
レヴァンニは事前の指導の通りのタイミングで美しく立ち上がる。緊張していても、それに支配されることなく自在に動かせるのは彼の美徳のひとつだろう。
「この国を、どうかよろしくお願いいたします」
わずかに湿り気を帯びた可憐な声。
徽章を授ける手はなめらかで肌は透き通るようだ。
華やかなドレスはその肉体を隠そうとするが、その美しい曲線ははっきりと見て取れた。
そして気品あふれる美貌の中に残る稚気。
――こ、これは!!!
レヴァンニはごくりとつばを飲み込んだ。
かつてレヴァンニは仲間たちの前で熱弁したことがあった。
『地味な恰好をしつつフェロモン溢れるジミフェロは理想かもしれんが、それ以上の女がいるぜ!』
いつものように仲間たちは熱心に聞き入っていた。
『身体は成熟しているのに、顔は幼さが残ったまま。ロリータフェイスのごっくんボディ! 略してロリゴクだ!』
『うおお、ロリゴク! それは素晴らしいな!』
『た、確かに最強かもしれないにゃん!』
――か、完璧なまでのロリゴクだ!!
レヴァンニはこれまで会ったこともないのになんだか姫様が大好きで守ってあげたいと考えていた。だってお姫様だから。しかしこうして直に姫を見てみるとどうだろうか。
この女性にはいかなる邪なものも近づけてはならない!
この女性を守るのは俺だ!
それは本能よりももっと原初的な衝動というべきかもしれない。それが怒涛の噴火のごとくレヴァンニの最深部からあふれ出してくる。
『どんなに自分が傷つくことになったとしても、この人は守ってみせる! それは風呂の中でも、布団の中でも! そして、そして! ぐふふふふ……』
彼は任命式の真っ最中でありながら誰よりも邪な妄想をするのだが、幸いにもそれが態度に現れることはなかった。
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