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涙の理由
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「ほほほほほ、みなさんこれくらいにしてあげましょう。ナナリのエミリさん、素晴らしかったですよ」
突然、眼鏡をかけた頭の禿げあがった緑のローブの試験官が立ち上がり、高らかな声で拍手を始めた。
「意地悪なことをして申し訳ありません。あなたの研究者としての資質を試させていただきました」
その言葉を合図に、他の面接官も顔をほころばせ拍手をした。
「資質?」
「はい。研究とは、必ずしも誰かが認めてくれるものとは限りません。誰も見向きもしてくれなくとも、自分を信じてやり抜く粘り強さが必要なのです。あなたは我々が無関心な態度をとっても自分が面白いと思った魔法について一生懸命に語ってくれました。お兄さんから教わった魔法は素晴らしかったんでしょうね」
兄をほめられたのはすごくうれしかった。
「あ、ありがとうございます」
「あなたには魔法を研究する資質があります」
「はい?」
「合格です。筆記試験も高得点でした。あなたは本校の入学試験に合格です」
眼鏡の先生は、安心を促すためににっこりと微笑んだ。
「あ、あはは! ありがとうございます!」
エミリは満面の笑顔で、深々と頭を下げた。
そしてしばらく動かなくなると、次第にぶるぶると震え始め、ついには嗚咽をもらし始めた。
面接官たちは、初めはうれし泣きをしているのかと思った。平民出身の受験生はどうしても合格したいと必死になって勉強してくることがある。そんなに多いわけでもないが珍しいというわけでもない。
しかし、どうやら様子がおかしい。
女性の面接官が近寄って言葉をかける。
「ごめんなさいね。さっきの面接がつらかったのね」
エミリは横に首を振った。
「あなたの年齢で、大人にあんな態度をとられれば心が削られる思いだったでしょうね。だけどあなたは頑張った、すごく頑張ったのよ」
面接官は背中をさすってなだめようと試みた。
「……違う、違うんです」
面接は確かにつらかったが、泣くほどではなかった。
合格できたことは嬉しい。きっとみんなも喜んでくれるから。
泣いているのは、もっと別のことだった。
それは考えないようにしていたことだった。
だけど、今こうして合格したことを認められると、もはや逃れようもなく現実が差し迫ってくるのを受け入れなければならなくなった。
ヴァザリア魔法研究所付設魔法学校を勧めてくれたのはナタリアだった。
自分は深く考えもせず、興味があったから行ってみたいと思った。
そしたらみんなが喜んで協力してくれた。
兄は学費を出してくれるといった。
兵学校は三ヶ月も住む場所を貸してくれた。
ルイザは受験勉強のために、毎晩つきあってくれた。いろいろ教えてくれた。
厨房で一緒に働いていたおばさんたちも、兵学校の人たちも応援してくれた。
だから合格したかった。
絶対に合格したかった。
――だけど合格したら、お兄ちゃんと離れなければならなくなる。
もし、誰も応援などしなかったのなら、魔法学校なんて合格しなくてもよかった。
応援してくれるから、頑張りたいと思った。
だから、逃げられなくなった。
兄がティフリスの幹部養成学校に推薦されるという噂を聞いた。そうすれば近くにいられると思った。でも、結局はそうはならなかった。
兵学校のあるアイアからこのティフリスまで、どれほどの道のりがあっただろうか。孤児院と兵学校の距離とはまるで違う。
だったら受験などしないで、兄のそばにいられればそれが一番幸せだった。
でも、兄には兄の人生がある。
自分は兄の人生の妨げにならないよう、自立しなければならない。
だから、兄と離れても生きていけるようにしなければならない。
そこから、逃げてはいけなかった。
だけど、結果的に自らの選択によって兄と離れなければならなくなるということは、エミリにとってとても悲しいことだった。
卓人が兵学校を除籍になることはまだ知らない。
エミリの涙は、止まらなかった。
突然、眼鏡をかけた頭の禿げあがった緑のローブの試験官が立ち上がり、高らかな声で拍手を始めた。
「意地悪なことをして申し訳ありません。あなたの研究者としての資質を試させていただきました」
その言葉を合図に、他の面接官も顔をほころばせ拍手をした。
「資質?」
「はい。研究とは、必ずしも誰かが認めてくれるものとは限りません。誰も見向きもしてくれなくとも、自分を信じてやり抜く粘り強さが必要なのです。あなたは我々が無関心な態度をとっても自分が面白いと思った魔法について一生懸命に語ってくれました。お兄さんから教わった魔法は素晴らしかったんでしょうね」
兄をほめられたのはすごくうれしかった。
「あ、ありがとうございます」
「あなたには魔法を研究する資質があります」
「はい?」
「合格です。筆記試験も高得点でした。あなたは本校の入学試験に合格です」
眼鏡の先生は、安心を促すためににっこりと微笑んだ。
「あ、あはは! ありがとうございます!」
エミリは満面の笑顔で、深々と頭を下げた。
そしてしばらく動かなくなると、次第にぶるぶると震え始め、ついには嗚咽をもらし始めた。
面接官たちは、初めはうれし泣きをしているのかと思った。平民出身の受験生はどうしても合格したいと必死になって勉強してくることがある。そんなに多いわけでもないが珍しいというわけでもない。
しかし、どうやら様子がおかしい。
女性の面接官が近寄って言葉をかける。
「ごめんなさいね。さっきの面接がつらかったのね」
エミリは横に首を振った。
「あなたの年齢で、大人にあんな態度をとられれば心が削られる思いだったでしょうね。だけどあなたは頑張った、すごく頑張ったのよ」
面接官は背中をさすってなだめようと試みた。
「……違う、違うんです」
面接は確かにつらかったが、泣くほどではなかった。
合格できたことは嬉しい。きっとみんなも喜んでくれるから。
泣いているのは、もっと別のことだった。
それは考えないようにしていたことだった。
だけど、今こうして合格したことを認められると、もはや逃れようもなく現実が差し迫ってくるのを受け入れなければならなくなった。
ヴァザリア魔法研究所付設魔法学校を勧めてくれたのはナタリアだった。
自分は深く考えもせず、興味があったから行ってみたいと思った。
そしたらみんなが喜んで協力してくれた。
兄は学費を出してくれるといった。
兵学校は三ヶ月も住む場所を貸してくれた。
ルイザは受験勉強のために、毎晩つきあってくれた。いろいろ教えてくれた。
厨房で一緒に働いていたおばさんたちも、兵学校の人たちも応援してくれた。
だから合格したかった。
絶対に合格したかった。
――だけど合格したら、お兄ちゃんと離れなければならなくなる。
もし、誰も応援などしなかったのなら、魔法学校なんて合格しなくてもよかった。
応援してくれるから、頑張りたいと思った。
だから、逃げられなくなった。
兄がティフリスの幹部養成学校に推薦されるという噂を聞いた。そうすれば近くにいられると思った。でも、結局はそうはならなかった。
兵学校のあるアイアからこのティフリスまで、どれほどの道のりがあっただろうか。孤児院と兵学校の距離とはまるで違う。
だったら受験などしないで、兄のそばにいられればそれが一番幸せだった。
でも、兄には兄の人生がある。
自分は兄の人生の妨げにならないよう、自立しなければならない。
だから、兄と離れても生きていけるようにしなければならない。
そこから、逃げてはいけなかった。
だけど、結果的に自らの選択によって兄と離れなければならなくなるということは、エミリにとってとても悲しいことだった。
卓人が兵学校を除籍になることはまだ知らない。
エミリの涙は、止まらなかった。
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