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魔法学校についての懸念
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「あんたら、頑張ってるみたいじゃない」
「お、ルイザ。久しぶりだな」
レヴァンニに言われると、ルイザはなんだか不愉快な顔をした。
久しぶりなどと、それ以前に親交でもあったかのような言い回しではないか。
ルイザは男子とはつるまない。
少なくとも兵学校ではそれを貫いている。ちょっとでもなれなれしくして、美しい自分に男子が勘違いしようものならたまったものではない。領主の娘として期待されているのに、くだらない男との噂でも立てられれば、今後の人生にとてつもない影を落としかねない。
レヴァンニとしては以前に斥候として鉱山へ向かったときのことから発した軽い一言だったが、ルイザにとっては面白くなかった。ただ、それについて言い合いをしても意味がない。
「二年生が準決勝に上がったのは五年ぶりらしいわよ。ふつうは八強がいいところらしいじゃない」
「へぇ、そうなんだ」
三年間鍛錬してきた三年生は当然のことながら強いし、成長期におけるこの時期の年齢差はそのまま体格差としても現れる。一、二年生が四強まで勝ち上がるのは容易なことではなかった。
「ま、そうなるんじゃないかと、予想はしてたんだけど」
ルイザはちらりと卓人を見た。このチームは彼を中心に変わった鍛錬を続けていたのを見ていた。そして他とは明らかに異なる巧妙な戦い方によって勝利を収めていた。良い結果を導いているのはあの鍛錬のおかげだ。
「ルイザが俺たちを応援にきてくれたのにゃん」
「うれしいなぁ」
男子たちがでれでれと何かを期待するような気持ち悪い笑みを浮かべる。
「ちょっと違うわよ! いや、同じ二年生だから応援はしてあげてもいいけど……違わなくはないけど! いや、だから、そんな用できたんじゃなくて……」
男子に積極的に話しかけている自分自身を意識してしまうと奇妙な屈辱感に襲われた。
「そういえば、エミリがお世話になってるね。勉強教えてくれてるのはすごく喜んでるよ」
卓人の言葉はルイザにとって思いがけず最高の助け舟となった。
「そう! それよ。エミリちゃんのこと!」
「魔法学校、合格できそうかな?」
「筆記試験だけなら合格じゃないかしら。合格基準とか公表されてるわけじゃないから、あくまでも私の勘だけど」
「え? そんなにできるの?」
「数学なら、私が五年かかったことを、二ヶ月でマスターしたわ」
それには全員が驚いた。
「ルイザの教え方がいいんだね」
「まあ、それはそうなんだけど」
彼女に謙遜という言葉はない。
「なるほどなぁ。じゃあ心配する必要ないんじゃないかな」
「だけどね……」
ルイザは一呼吸おいてから話し始めた。
「ヴァザリア魔法学校は能力の高い学生が多い反面、貴族のようにお金があるならどんな子でも入学させるらしいわ。そして、その上の組織である魔法研究所に多額の寄付を要求してくるらしいの」
「え……ということは、金がないと不合格?」
公表されている学費は兵学校の給料でギリギリなんとかなる程度だ。それ以上の金を積めと言われれば不可能だ。
「まさか、むこうだって有能な子は欲しいはずよ。将来の魔法研究者を育てるのが本来の目的なんだから」
「タクトが軍をクビにならなければいいだけのことにゃん」
「まあ、そうなんだけど」
ルイザが続けたのは次のようなことだった。
魔法学校は魔法研究者を養成する場所であるが、同時に貴族のボンクラ子女の受け皿にもなっているということだった。貴族に生まれながら魔法も武芸も学問もろくにこなせないような暗愚である場合、いわば学歴を買うような形でなんとか体裁を保とうとする。ヴァザリア魔法学校にはそれだけのブランドがある。そしてそれを平然と受け入れている。
「実際、能力的には上から下まですごい差があるらしいわ。それを一斉に教えようなんてかなり無理があるわ」
「能力別でクラス分けとかしないの?」
「それこそ、プライドだけは高い貴族が許さないに決まっているでしょう」
貴族の人がよくわからないので、その気持ちを汲むことはできないが、多分そういうものなのだろう。
「ふぅん。あまりいい話じゃないみたいだけど、ルイザが言うくらいエミリが賢いならとくに問題はないんじゃないかな」
「授業とか成績面ではそうでしょうね」
のんきな卓人にルイザはいら立った。
「あのね、そんな中でエミリちゃんうまくやっていけると思う?」
エミリは気さくだし、人づきあいもきちんとできる。上流階級の作法はルイザが教えてくれているというから、相手が貴族の子供だからといって特段問題はなさそうに思うのだが。
とはいえ、ずっと孤児院で育ってきたのだ。ちゃんとした友達づきあいなんてしたことないと言っていいだろう。
なにより自分のイメージだけで妹を判断しているが、たった二ヶ月ほどの付き合いしかない。
思いもかけないことも起こるかもしれない。
タクトはルイザに言われて急に不安になってきた。
「お、ルイザ。久しぶりだな」
レヴァンニに言われると、ルイザはなんだか不愉快な顔をした。
久しぶりなどと、それ以前に親交でもあったかのような言い回しではないか。
ルイザは男子とはつるまない。
少なくとも兵学校ではそれを貫いている。ちょっとでもなれなれしくして、美しい自分に男子が勘違いしようものならたまったものではない。領主の娘として期待されているのに、くだらない男との噂でも立てられれば、今後の人生にとてつもない影を落としかねない。
レヴァンニとしては以前に斥候として鉱山へ向かったときのことから発した軽い一言だったが、ルイザにとっては面白くなかった。ただ、それについて言い合いをしても意味がない。
「二年生が準決勝に上がったのは五年ぶりらしいわよ。ふつうは八強がいいところらしいじゃない」
「へぇ、そうなんだ」
三年間鍛錬してきた三年生は当然のことながら強いし、成長期におけるこの時期の年齢差はそのまま体格差としても現れる。一、二年生が四強まで勝ち上がるのは容易なことではなかった。
「ま、そうなるんじゃないかと、予想はしてたんだけど」
ルイザはちらりと卓人を見た。このチームは彼を中心に変わった鍛錬を続けていたのを見ていた。そして他とは明らかに異なる巧妙な戦い方によって勝利を収めていた。良い結果を導いているのはあの鍛錬のおかげだ。
「ルイザが俺たちを応援にきてくれたのにゃん」
「うれしいなぁ」
男子たちがでれでれと何かを期待するような気持ち悪い笑みを浮かべる。
「ちょっと違うわよ! いや、同じ二年生だから応援はしてあげてもいいけど……違わなくはないけど! いや、だから、そんな用できたんじゃなくて……」
男子に積極的に話しかけている自分自身を意識してしまうと奇妙な屈辱感に襲われた。
「そういえば、エミリがお世話になってるね。勉強教えてくれてるのはすごく喜んでるよ」
卓人の言葉はルイザにとって思いがけず最高の助け舟となった。
「そう! それよ。エミリちゃんのこと!」
「魔法学校、合格できそうかな?」
「筆記試験だけなら合格じゃないかしら。合格基準とか公表されてるわけじゃないから、あくまでも私の勘だけど」
「え? そんなにできるの?」
「数学なら、私が五年かかったことを、二ヶ月でマスターしたわ」
それには全員が驚いた。
「ルイザの教え方がいいんだね」
「まあ、それはそうなんだけど」
彼女に謙遜という言葉はない。
「なるほどなぁ。じゃあ心配する必要ないんじゃないかな」
「だけどね……」
ルイザは一呼吸おいてから話し始めた。
「ヴァザリア魔法学校は能力の高い学生が多い反面、貴族のようにお金があるならどんな子でも入学させるらしいわ。そして、その上の組織である魔法研究所に多額の寄付を要求してくるらしいの」
「え……ということは、金がないと不合格?」
公表されている学費は兵学校の給料でギリギリなんとかなる程度だ。それ以上の金を積めと言われれば不可能だ。
「まさか、むこうだって有能な子は欲しいはずよ。将来の魔法研究者を育てるのが本来の目的なんだから」
「タクトが軍をクビにならなければいいだけのことにゃん」
「まあ、そうなんだけど」
ルイザが続けたのは次のようなことだった。
魔法学校は魔法研究者を養成する場所であるが、同時に貴族のボンクラ子女の受け皿にもなっているということだった。貴族に生まれながら魔法も武芸も学問もろくにこなせないような暗愚である場合、いわば学歴を買うような形でなんとか体裁を保とうとする。ヴァザリア魔法学校にはそれだけのブランドがある。そしてそれを平然と受け入れている。
「実際、能力的には上から下まですごい差があるらしいわ。それを一斉に教えようなんてかなり無理があるわ」
「能力別でクラス分けとかしないの?」
「それこそ、プライドだけは高い貴族が許さないに決まっているでしょう」
貴族の人がよくわからないので、その気持ちを汲むことはできないが、多分そういうものなのだろう。
「ふぅん。あまりいい話じゃないみたいだけど、ルイザが言うくらいエミリが賢いならとくに問題はないんじゃないかな」
「授業とか成績面ではそうでしょうね」
のんきな卓人にルイザはいら立った。
「あのね、そんな中でエミリちゃんうまくやっていけると思う?」
エミリは気さくだし、人づきあいもきちんとできる。上流階級の作法はルイザが教えてくれているというから、相手が貴族の子供だからといって特段問題はなさそうに思うのだが。
とはいえ、ずっと孤児院で育ってきたのだ。ちゃんとした友達づきあいなんてしたことないと言っていいだろう。
なにより自分のイメージだけで妹を判断しているが、たった二ヶ月ほどの付き合いしかない。
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