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覚悟、いまだならず
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爆発の魔法を放つより速く卓人はスコップでアキームに襲いかかっていた。
しかしアキームは即座に爆発の魔法で吹き飛ばす。十分な大爆発のエネルギーを貯め込めていなかったおかげで卓人は吹き飛ばされても、すぐに立ち上がれる程度だった。
「……きみは、本当にナナリのタクトなのかね? かなりの魔法の使い手だと聞いていたのだが、今の攻撃などタイミング以外に誉めるべきものは何もない」
それはルイザも感じていたことだった。だが、それは言葉にして表してしまえば何かを失うような気がしていつも躊躇っていた。
「その顔も覚えている。だが、先ほどきみは魔法が使えないと言っていたし……どうも辻褄が合わんが、どういうことかね」
ルイザはこの至近にありながら目の前の男を討てないでいる自分に歯がゆさを感じていた。
もしかすると自分自身がこいつは自分たちの敵う相手ではないと無意識に屈服してしまっているのではないか。
そんなことは許されない。
しかし、身体は男の背後への攻撃を拒み続ける。
「ただのそっくりさんだとしたら、もっとも面白くないのだが」
「そ、そうよ、タクトはつまらない男よ。殺したって何の意味もないわ」
「いいや、私はきみを連れ去ると決めたのだ。殺さなければ彼が追ってきてしまう」
どこまで本気なのか推し量ることができないがゆえに、恐怖は増幅する。
「何より、どの攻撃にも人を傷つけることに迷いを抱えている。ナナリのタクトは戦場では当然のように敵兵を殺していたのだろう。人格として一致するところがない」
アキームは、卓人が地面に転がる火薬の入った袋を手にしようとした瞬間に、魔法で着火して爆発させた。
「ほら。これはもっとたくさんあればかなりの殺傷能力のある道具だったはずだ。なのにきみはこんなわずかな量しか準備してこなかった。本当に殺すつもりで用意したのかね?」
――だって、材料が足りなかったから……
いや、かき集めればおそらく十人程度吹き飛ばす爆薬なら準備できていた。
今このように戦わずとも、爆薬を山盛りにして、不審に思った敵が集まったところで点火すれば皆殺しにして終われていた。もっとも容赦ない選択をすればもっとも簡潔に問題解決ができたはずだ。
なぜその選択をしなかった?
大きな塊にするとむしろこちらにリスクがあるから?
爆発による落盤に巻き込まれるのを恐れたから?
まさか、自分はここに及んでなお、覚悟ができていないのだろうか?
敵を殺すという覚悟が――!
谷底から吹き上げる風に軽いエミリの身体は何度も舞い上げられそうになった。
何度も涙を拭って、目の周りは腫れ上がっていた。
険しい道が怖いからではない。
――このままでは、お兄ちゃんが私の前からいなくなってしまう!
何かがそう強く訴えかけてくる。
ついこの前まで、兄は一年間もいなかった。
戦争に参加したという報告を聞いてもきっと大丈夫だと安心できていた。
なのに、今回はとてもいやな予感しかしない。
兄は今、攻め込んできた敵と戦っているのかもしれないし、違うかもしれない。
自分が行ったところで何になるのだろう。
むしろ足手まといになるかもしれない。
兄の同僚らしき美人の兵士には留まるように言われた。
きっとそれが正しい。
なのに、行かずにはおれなかった。
――兄が向かった鉱山へ。
エミリは泣きながらも、その歩は決して挫けることはなかった。
しかしアキームは即座に爆発の魔法で吹き飛ばす。十分な大爆発のエネルギーを貯め込めていなかったおかげで卓人は吹き飛ばされても、すぐに立ち上がれる程度だった。
「……きみは、本当にナナリのタクトなのかね? かなりの魔法の使い手だと聞いていたのだが、今の攻撃などタイミング以外に誉めるべきものは何もない」
それはルイザも感じていたことだった。だが、それは言葉にして表してしまえば何かを失うような気がしていつも躊躇っていた。
「その顔も覚えている。だが、先ほどきみは魔法が使えないと言っていたし……どうも辻褄が合わんが、どういうことかね」
ルイザはこの至近にありながら目の前の男を討てないでいる自分に歯がゆさを感じていた。
もしかすると自分自身がこいつは自分たちの敵う相手ではないと無意識に屈服してしまっているのではないか。
そんなことは許されない。
しかし、身体は男の背後への攻撃を拒み続ける。
「ただのそっくりさんだとしたら、もっとも面白くないのだが」
「そ、そうよ、タクトはつまらない男よ。殺したって何の意味もないわ」
「いいや、私はきみを連れ去ると決めたのだ。殺さなければ彼が追ってきてしまう」
どこまで本気なのか推し量ることができないがゆえに、恐怖は増幅する。
「何より、どの攻撃にも人を傷つけることに迷いを抱えている。ナナリのタクトは戦場では当然のように敵兵を殺していたのだろう。人格として一致するところがない」
アキームは、卓人が地面に転がる火薬の入った袋を手にしようとした瞬間に、魔法で着火して爆発させた。
「ほら。これはもっとたくさんあればかなりの殺傷能力のある道具だったはずだ。なのにきみはこんなわずかな量しか準備してこなかった。本当に殺すつもりで用意したのかね?」
――だって、材料が足りなかったから……
いや、かき集めればおそらく十人程度吹き飛ばす爆薬なら準備できていた。
今このように戦わずとも、爆薬を山盛りにして、不審に思った敵が集まったところで点火すれば皆殺しにして終われていた。もっとも容赦ない選択をすればもっとも簡潔に問題解決ができたはずだ。
なぜその選択をしなかった?
大きな塊にするとむしろこちらにリスクがあるから?
爆発による落盤に巻き込まれるのを恐れたから?
まさか、自分はここに及んでなお、覚悟ができていないのだろうか?
敵を殺すという覚悟が――!
谷底から吹き上げる風に軽いエミリの身体は何度も舞い上げられそうになった。
何度も涙を拭って、目の周りは腫れ上がっていた。
険しい道が怖いからではない。
――このままでは、お兄ちゃんが私の前からいなくなってしまう!
何かがそう強く訴えかけてくる。
ついこの前まで、兄は一年間もいなかった。
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なのに、今回はとてもいやな予感しかしない。
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自分が行ったところで何になるのだろう。
むしろ足手まといになるかもしれない。
兄の同僚らしき美人の兵士には留まるように言われた。
きっとそれが正しい。
なのに、行かずにはおれなかった。
――兄が向かった鉱山へ。
エミリは泣きながらも、その歩は決して挫けることはなかった。
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