理系少年の異世界考察

ヴォルフガング・ニポー

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勝敗

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 ルイザの攻撃は強引で乱雑なものになった。

 決闘はその手続きから見ても、勝利を確信するからこそ申請するということになる。タクトの剣術がどのレベルかは知らなかったが、まずは剣戟で様子を見て、雷撃で勝負を決める算段を立てていた。

 その雷撃が堪えられるならまだしも、無効化されるとは予想の範疇になかった。

 負けはないにしても、引き分けにでもなろうものなら評価は下がり、ティフリスへの首位推薦が遠のいてしまう!

 ルイザは休む間もなく剣戟を加えるが、重い剣と卓人の最小限の動きの防御に完全に阻まれた。時折強引すぎて姿勢を崩して隙を見せたりもしたが、卓人は攻撃を加えたりしなかった。

「くそ!」

 何が起こっているかわからないがゆえに、加減のない渾身の雷撃を放った。

 剣の鞘が電気容量を超えて爆発して燃えた。

「うわ!」

 さすがに卓人も驚いた。

 この直撃を受けたら死んでいたのではないだろうか。その目線は否応なく燃えた鞘に向けられた。この好機を逃さずルイザは卓人に剣を突き立てた。一瞬遅れた卓人は反射的に剣でそれを払おうとする。

 剣と剣が触れ合おうとした瞬間、青白いプラズマがスパークした。

「しまった!」

 卓人がそう思ったときはもう遅かった。

 すべての電気は爆発によって拡散されてはいなかった。剣と剣とがふれあった瞬間、鞘に残った電気は流れやすいほう、すなわちルイザの剣からその肉体を経て地面へと流れた。

「きゃあああ!」

 ルイザは自らが放った雷撃によって感電した。あらゆる筋肉が瞬間的に硬直し、突進してきた勢いはかき消された。よろめくように卓人の横を通り過ぎ、そして跪いた。細身の剣を落とし、そのまま倒れこもうとしたところを卓人が抱き止めた。

「あんた……なんかに……」

 そう言い残してルイザはこと切れた。卓人は焦ってルイザの胸に耳を当てた。立会人である教官が詰めかける。

「大丈夫、心臓は動いています」

 周囲は安堵のため息をついた。そして思い出したようにざわつき始めた。

「今のってさ、魔法反射じゃないか?」

「雷撃を放ったルイザのほうが感電してたからな」

「反射ってどの属性だったっけ?」

「多分、水じゃないかな。それでもかなりのハイレベルな魔法だぜ」

「すごい、すごいぞ。カウンターなんて初めて見た」

「ああ、さすがタクトだ」

 にわかに歓声が上がった。立会人をしていた教官たちも唖然としていた。

 おそらく魔法反射とはあらゆる魔法を撥ね返すものであろう。これは雷撃だから撥ね返したのであって、それ以外の魔法ではこうはならない。応用範囲としては極めて狭い。

「ナナリのタクトの勝利」

 立会人の教官が宣言した。

 すると周囲は堰を切ったように闘った者たちに駆け寄った。まずはレヴァンニたち男仲間が、それにつられて他も取り囲む。遅れてルイザを心配する女子たちが人込みをかき分けて姿を見せる。気を失ったルイザを引き渡すと、ベラは悲しそうな笑みを浮かべ女仲間とともに数人で肩を担いで医務室へ連れ去った。さっきまではほとんどがルイザの味方だったが、一部は卓人の勝利を喜んだ。

「やったな、タクト」

「まさか勝つとは」

「何よりすごいのは、安否を気遣うふりをしつつ、しれっと女の胸に顔を押しつけてみせたことだ。やはりこいつは俺たちとは違う」

 レヴァンニの発言に男連中はどっと笑った。

 しかし卓人は一緒になって笑うことができなかった。負けるわけにはいかなかったが、勝ちたいとも思っていなかった。勝ってしまえばルイザのこれまで積み重ねてきたものが失われてしまう。引き分けですませたかった。一方的に自分を嫌っているとはいえ、誰かのために努力してきた人からチャンスを奪ってしまうのは忍びなかった。

「教官、勝てば僕の要望を認めてもらえるということでしたね」

「原則的には、だが」

「では、ルイザの評価を下げないようにお願いしたいのですが」

 教官は思いもしない要望に驚いた。「ひょう、かっこいい!」と周りが冷やかす。

「それは認められんな」

「何故ですか?」

「それは、この決闘そのものを侮辱するものだ」

 理由は簡潔である代わりに曖昧なものであったが、「侮辱」という言葉がどういうことを指しているのかはなんとなく想像できた。

 望まぬ結果に卓人は暗澹たる気持ちになった。

 そのとき、遠くからけたたましく木板をたたく音がした。

 警告音である。予科生たちはざわついた。教官たちは即座に予科生たちを落ち着かせ、それぞれに指示を出した。

「きたか」

 そうつぶやいたのはニコライであった。

 バルツ軍がまたしても攻め込んできたのだ。
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