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勇者たち①

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「くそっ!女神の力があれば魔物なんて楽勝なんじゃないのか!」

「そのはずなのよ!これはどう考えてもおかしいわ!」

 御門は王都の近くに出没しているという魔物の群れの退治に来ていた。女神からは「私の力があるから魔王にだって遅れをとることはない」と言われていたのに、蓋を開けてみれば小さな魔物にも手こずる始末。ともに来ていたサキラも魔物の攻撃から御門を守るために防壁を張ってくれているが、額からは汗が滴り落ちていて、いつ防壁が崩れるか分からない状態だった。

「サキラ!俺の聖剣で一掃する!」

「分かりました!」

 御門が女神から渡された大きな聖剣を構え直す。それを見たサキラは防壁を張ったまま、御門の後ろへと下がった。

「防壁を消したら合図します。お願いしますね、私の勇者。」

「あぁ、俺の聖女。」

 2人で笑い合ってから目の前の魔物の群れに向き直る。サキラがカウントを出して、御門が剣を振るおうとしたその時。




「なにイチャイチャしてるのかな君たち?こんな状況で気持ち悪いんどけど。」


「きゃあーーーーー!」

 冷え切った声がしたかと思うと、サキラの絶叫が響き渡った。

「サキラ!」

 御門が急いで駆け寄ると、サキラの真っ白な法衣が真っ赤に染まっていた。よくみれば杖を握っていた右手の指が全てなくなっており、そこから夥しいほどの血が溢れていた。

「サキラ!サキラ大丈夫か!くそっ!!!誰がこんなことを!」


「おいおい、戦闘中だよ?敵に背中を見せるなんてとんでもない馬鹿だな、君は。」

「ぐあっ!!!」

 背中が燃えるように熱い。あまりの激痛に、御門はサキラの上に倒れ込んでしまう。


「弱いなぁ。弱すぎるよ君たち。」



「ぐぅっ!!!き、貴様は魔王!!!」

「そうだよ、魔王だよ。ひと月ぶりだね?元気にしてたかな?」

 ライヤードはサキラから切り取った5本の指を掌の中で転がしながらニコリと笑う。それを見た御門は絶叫しながら剣をライヤードに突き刺そうとする。

「そんな重いだけが取り柄の剣なんて僕に当たるわけないでしょ?聖剣?だっけ?そんなので僕を殺せるはずがないのに、女神に騙されてるねぇ君たち。」

「黙れぇ!!」

 御門が聖剣に力を込めると刀身が銀色に光り出す。すると、御門の背中の傷が少しずつ癒され、数秒後にはすっかり治ってしまった。

「サキラ!」

「はい!!」

 自分に癒しの魔法を使って指を修復したサキラが詠唱を終え、聖魔法でライヤードを攻撃する。サキラの杖から出た白い光がライヤードの体を貫いた。

「よし!やったな!」


「前ならこれでやられたー!って言って撤退してあげてたんだけどねぇ。もう駄目だよ。僕は魔王としての役目を果たすことにしたんだ。君たちもそれがお望みみたいだからね。」



「ひぎぃぃあーーー!」

「サキラ!?」

 一瞬のうちにライヤードがサキラの隣に移動する。そして修復した右手を掴むとそのまま勢いよく捩じ切った。ゴキゴキィッと嫌な音を立てながら、サキラの腕が歪に千切れる。サキラは左手で残った右腕の上腕を掴むと地面に倒れ込みのたうち回った。

「あははは!虫みたいだねぇ。汚いなぁ。でも君たち人間が望んだことなんだから仕方ないよね。」

「なんのことだ!」

 御門がサキラに癒しの魔法をかけながらライヤードに問う。


「戦争がしたかったんでしょ?魔族との全面戦争が。いいよ、してあげる。僕が魔族たちに人間にやり返さないように言ってたから戦争にならなかったんだ。でもその命令も昨日解除した。もう誰も君たち人間に容赦はしないよ。王都に戻れ、劣等種。そして女神に伝えろ。この世界は魔王がもらうとな。」

「ぐぅ!待て!」

 ライヤードが羽を広げて空中へと浮かび上がる。御門は後を追おうとするが、痛みにのたうち回るサキラを置いていくことができず、その場に止まる。そんな御門を見てライヤードはにっこりと笑った。


「自分が捨てたものの価値を思い知れ、愚かな勇者。」

 そう告げると、とんでもない速さでライヤードは空へと消えていった。

 
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