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魔王の本気①
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「あ、あの、ちょっと近いです!」
「うんー?僕はそんなに近いとは思わないなぁ。むしろもっと近づきたいくらいだよ?」
「ひえっ!」
ライヤードさんがニコニコと笑いながらさらに体を近づけようとしてくる。
もう無理。これ以上は無理だ。御門君とさえ手を繋ぐのが精一杯だったのに、男の人とこんな密着してしまうと死んでしまう。誰か助けてほしい。
そんな私の願いが通じたのだろうか。
「何をしているエロ魔王。嫁入り前の娘にこんな破廉恥なことをしおって。天誅なり。」
「ぎゃあ!!」
「きゃあ!」
突然ライヤードさんの頭上から雷が落ち、ライヤードさんの体を直撃した。雷撃はなぜか私には当たらず、ライヤードさんの体からプスプスと煙が上がっている。
「大丈夫だったか、娘よ。すまんな、我らが魔王がこのような狼藉を働くとは。どうか許してほしい。」
「い、いえ!あの大丈夫です!それよりライヤードさんは!」
「何をするんだメルリダ!ビリッとしたじゃないか!」
「エッチなことをしようとするからだ、馬鹿者。」
「うげぇ!」
いち早く雷撃から回復したライヤードさんはベッドから出ようとするが、その前に小さな女の子がライヤードさんの腹の上にドスンと落ちてきた。ライヤードさんは悲鳴をあげてまたベッドに逆戻りしている。
「すまんのぉ。こやつ、ようやく伴侶ができて浮かれているのじゃ。そなた、名はなんという?わらわはメルリダという。」
「えと、亜月です。」
「アヅキか。すまんが、この馬鹿を許してやってくれ。」
ぺこりと頭を下げる幼女はとても美しかった。漆黒のストレートの髪は背丈ほどあり、肌はとんでもなく白く、赤い瞳と唇がとても目立つ。ビスクドールのような美しさにしばし見惚れてしまった。
「んん?どうした?わらわの顔に何かついているか?」
「いや、可愛いなぁって…。」
「ほぉ、嬉しいことを言う。そなた、わらわの伴侶になってもいいのだぞ?」
「やめろ、2000歳超えの婆ちゃんの癖に!」
「殺されたいのか、貴様?」
「ぎゃあー!」
ライヤードさんが再びメルリダさんの雷に撃たれて倒れる。そのやりとりがなんだか可笑しくて、私は久しぶりに心の底から笑い声を上げた。
「あはは!す、すいません。なんだか可笑しくて!」
目尻の涙を拭いながら言うと、体を起こしたライヤードさんが優しく笑って頭を撫でてくれた。
「とっても可愛い笑顔だね。こんな可愛い子が僕の奥さんになってくれるなんて本当に嬉しいよ。」
「あの、さっきからその、奥さんって…。」
先程から奥さんだの伴侶だの言われているが、一体どういうことなのか。疑問をライヤードさんにぶつけてみる。
「うん?だってアツキがいいって言ったんだよ?君を心から愛して可愛がって世界一な女の子にするって言ったら頷いてくれたじゃないか。」
「え、いや、あれは!」
なんだがぼんやりと覚えている。御門君たちの攻撃を受けて意識が朦朧としていた時に、ライヤードさんが助けてくれた。その時に、私が死なないように励ましてくれていた言葉を聞いて頷いたような気もする。でもまさかそれを本気にしているんだろうか?
「…ライヤードさんは死にそうな私を励ましてくれてたんですよね?いいですよ、そんなこと言わなくても…私もう大丈夫ですから。」
ライヤードさんはきっと優しい人だ。御門君に振られ、殺されかけ、元の世界に戻れない自分を憐れんでこんなことを言ってくれているんだろう。
ベットの上で正座をして黙ったままのライヤードさんに向き直る。
「助けてくれてありがとうございます。死ぬって思ってたので本当に嬉しいです。あとは一人で大丈夫です。私はこの世界で生きていきます。何か仕事見つけて食べていけますから。責任なんて感じないでください。」
ぺこりと頭を下げる。
感謝しているのは本当だ。魔王と通じていると勘違いされたのはライヤードさんのせいかもしれないが、あのまま元の世界に帰っても惨めなだけだ。御門君のことを忘れられずに一生懸命引きずって生きていたかもしれない。殺されるほどの攻撃を受けたおかげで、自分の御門君に対する恋心も死んだ。そう思えば、こういうことになったのもラッキーだったんじゃないかとさえ思う。
ライヤードさんもさっきからずっと黙ったままだ。きっと私の言葉に納得してくれたんだろう。
「それでですね。この世界のことを少し教えてもらえるとありかだいんですが…。」
笑って尋ねようとしたが、どうしても歪な笑顔になってしまう。でもきっとバレてない。大丈夫。
「メルリダ、席を外せ。」
「かしこまりました、魔王様。」
きっとこの世界のことを詳しく教えてくれる。そう思っていたのに、ライヤードさんから返ってきたのは冷たい声音。しかも、私にではなくメルリダさんに対する言葉だった。メルリダさんはすぐに部屋の出口へと戻り、こちらを振り向く。
「アヅキよ、魔王の本気だ。覚悟するが良い。」
「え?っきゃあ!」
手を優しく引かれたかと思うと優しく抱き寄せられる。
「アヅキ…、僕の言葉が届いてなかったんだね?一晩中、愛の言葉を囁いたら信じてくれるかな?」
「え、あの、ちょ!」
「愛してるよ、僕のたった一人の花嫁さん。」
「ぴぃ。」
また変な声が出た。
「うんー?僕はそんなに近いとは思わないなぁ。むしろもっと近づきたいくらいだよ?」
「ひえっ!」
ライヤードさんがニコニコと笑いながらさらに体を近づけようとしてくる。
もう無理。これ以上は無理だ。御門君とさえ手を繋ぐのが精一杯だったのに、男の人とこんな密着してしまうと死んでしまう。誰か助けてほしい。
そんな私の願いが通じたのだろうか。
「何をしているエロ魔王。嫁入り前の娘にこんな破廉恥なことをしおって。天誅なり。」
「ぎゃあ!!」
「きゃあ!」
突然ライヤードさんの頭上から雷が落ち、ライヤードさんの体を直撃した。雷撃はなぜか私には当たらず、ライヤードさんの体からプスプスと煙が上がっている。
「大丈夫だったか、娘よ。すまんな、我らが魔王がこのような狼藉を働くとは。どうか許してほしい。」
「い、いえ!あの大丈夫です!それよりライヤードさんは!」
「何をするんだメルリダ!ビリッとしたじゃないか!」
「エッチなことをしようとするからだ、馬鹿者。」
「うげぇ!」
いち早く雷撃から回復したライヤードさんはベッドから出ようとするが、その前に小さな女の子がライヤードさんの腹の上にドスンと落ちてきた。ライヤードさんは悲鳴をあげてまたベッドに逆戻りしている。
「すまんのぉ。こやつ、ようやく伴侶ができて浮かれているのじゃ。そなた、名はなんという?わらわはメルリダという。」
「えと、亜月です。」
「アヅキか。すまんが、この馬鹿を許してやってくれ。」
ぺこりと頭を下げる幼女はとても美しかった。漆黒のストレートの髪は背丈ほどあり、肌はとんでもなく白く、赤い瞳と唇がとても目立つ。ビスクドールのような美しさにしばし見惚れてしまった。
「んん?どうした?わらわの顔に何かついているか?」
「いや、可愛いなぁって…。」
「ほぉ、嬉しいことを言う。そなた、わらわの伴侶になってもいいのだぞ?」
「やめろ、2000歳超えの婆ちゃんの癖に!」
「殺されたいのか、貴様?」
「ぎゃあー!」
ライヤードさんが再びメルリダさんの雷に撃たれて倒れる。そのやりとりがなんだか可笑しくて、私は久しぶりに心の底から笑い声を上げた。
「あはは!す、すいません。なんだか可笑しくて!」
目尻の涙を拭いながら言うと、体を起こしたライヤードさんが優しく笑って頭を撫でてくれた。
「とっても可愛い笑顔だね。こんな可愛い子が僕の奥さんになってくれるなんて本当に嬉しいよ。」
「あの、さっきからその、奥さんって…。」
先程から奥さんだの伴侶だの言われているが、一体どういうことなのか。疑問をライヤードさんにぶつけてみる。
「うん?だってアツキがいいって言ったんだよ?君を心から愛して可愛がって世界一な女の子にするって言ったら頷いてくれたじゃないか。」
「え、いや、あれは!」
なんだがぼんやりと覚えている。御門君たちの攻撃を受けて意識が朦朧としていた時に、ライヤードさんが助けてくれた。その時に、私が死なないように励ましてくれていた言葉を聞いて頷いたような気もする。でもまさかそれを本気にしているんだろうか?
「…ライヤードさんは死にそうな私を励ましてくれてたんですよね?いいですよ、そんなこと言わなくても…私もう大丈夫ですから。」
ライヤードさんはきっと優しい人だ。御門君に振られ、殺されかけ、元の世界に戻れない自分を憐れんでこんなことを言ってくれているんだろう。
ベットの上で正座をして黙ったままのライヤードさんに向き直る。
「助けてくれてありがとうございます。死ぬって思ってたので本当に嬉しいです。あとは一人で大丈夫です。私はこの世界で生きていきます。何か仕事見つけて食べていけますから。責任なんて感じないでください。」
ぺこりと頭を下げる。
感謝しているのは本当だ。魔王と通じていると勘違いされたのはライヤードさんのせいかもしれないが、あのまま元の世界に帰っても惨めなだけだ。御門君のことを忘れられずに一生懸命引きずって生きていたかもしれない。殺されるほどの攻撃を受けたおかげで、自分の御門君に対する恋心も死んだ。そう思えば、こういうことになったのもラッキーだったんじゃないかとさえ思う。
ライヤードさんもさっきからずっと黙ったままだ。きっと私の言葉に納得してくれたんだろう。
「それでですね。この世界のことを少し教えてもらえるとありかだいんですが…。」
笑って尋ねようとしたが、どうしても歪な笑顔になってしまう。でもきっとバレてない。大丈夫。
「メルリダ、席を外せ。」
「かしこまりました、魔王様。」
きっとこの世界のことを詳しく教えてくれる。そう思っていたのに、ライヤードさんから返ってきたのは冷たい声音。しかも、私にではなくメルリダさんに対する言葉だった。メルリダさんはすぐに部屋の出口へと戻り、こちらを振り向く。
「アヅキよ、魔王の本気だ。覚悟するが良い。」
「え?っきゃあ!」
手を優しく引かれたかと思うと優しく抱き寄せられる。
「アヅキ…、僕の言葉が届いてなかったんだね?一晩中、愛の言葉を囁いたら信じてくれるかな?」
「え、あの、ちょ!」
「愛してるよ、僕のたった一人の花嫁さん。」
「ぴぃ。」
また変な声が出た。
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