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魔王のお願い①

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「話を聞いてくれる気になったんだね。ありがとう。」

 体を離した魔王ことライヤードさんがぺこりと頭を下げてくる。私よりも一回りもふた回りも大きい体の男の人がそんな仕草をするのは何だか可愛らしかった。和んでしまいそうになるが、彼はこの世界を滅ぼそうとしている魔王だということを思い出して慌てて表情を引き締めた。

「わ、私に何の様ですか?」

 いざと言うときは逃げられるように少しずつ彼から距離を取る。

「君にお願いに来たんだ。どうか僕や僕の国、僕の民を攻撃するのはやめてほしいんだ。」

「え!あ、ちょっと!やめてください!」

 ライヤードさんは突然ですが地面に座り込んで、そのまま土下座をしたのだ。そんなことをされたのは初めてで慌ててしまう。私もベッドから立ち上がり、ライヤードさんの土下座をやめさせようとするが、彼は一向にやめようとしない。それどころか、さらに深く頭を下げる始末だ。

「頼む!これ以上僕の国の国民を悲しませたくない。彼らは何も悪いことはしていないんだ!君たち人間と同じく生きているだけだ。見た目が恐ろしい者が多いから誤解されているだけであって、中身は君たちと変わらない善良な者たちだ!」

「あ、あのやめてください!そんなことされても私には!」

「頼む!攻撃を止めてくれるのならば、僕はどうなってもいい!君の言うことをなんだって聞く!だから!」

「分かった!わかりましたから!だから頭を上げてください!」

「ほんとか!!」

 とにかく土下座をやめて欲しくて適当なことを言ってしまった。それを聞いたライヤードさんが素早い動きで頭を上げる。

「ありがとう!本当にありがとう!なんとか君と話ができないかと、使者や文章を送っていたのだが、全く返事が来ないのでこうやってやって来てしまった。驚かせてしまい申し訳なかったな。」

「い、いえ。」

 ライヤードさんが上機嫌になって立ち上がる。あまりにも身長が高くてこちらの首が痛くなるぐらいだ。

「君たちが勇者を召喚したと聞いて慌てていたんだ。いよいよ魔族を皆殺しにしようとしているんじゃないかって!いやー、聖女がこんなに話の分かる女性で良かったよ。こんなことならもっと早く君に直接会いにくれば良かったなぁ。」

 ニコニコと笑い、私の手を握ってくるライヤードさん。

「ん?聖女ですか?」

「ん?あぁ、そうだ。君が聖女のサキラだろう?だってここは聖女の部屋なんだから。」

「え!そ、そうなんですか!わ、私はそんなこと知らなくて!!!」






「何をしている亜月!」

 部屋の扉を蹴破って入ってきたのは御門君だった。魔王に手を握られている私を見て、御門君は激昂する。

「裏切り者め!お前は魔王と通じていたのか!!!!」

「へ?いや、あの、ど、どういうこと?」

「黙れ!!!」

「亜月さん…、あなたが熱烈に手を握られているのはこの世界を滅ぼそうとしている魔王なのですよ?こんな夜中に密会など、魔族と通じていると言っているようなものです。」

 冷たい視線を向けてくるサキラさんの言葉に血の気が引いてしまった。

「待って!違うんです、私はただ!」

「問答無用!人間たちを苦しめ、世界を蝕む魔族とそんなに接近して離しているなど!」

「待って御門君!話を聞いて!」

「黙れ!!!!…温情で元の国に戻してやろうとする女神とサキラの心を踏みにじるとは!もはや彼女とも思いたくない!お前は裏切り者だ!」

「御門君…。」

 御門君たちは全く話を聞いてくれなかった。ただただ一方的に私を罵倒してくる。女神もサキラさんも同じように警戒する目で私を見てくる。

「えっと…もしかして君は聖女じゃ?」

「黙れ魔王!この城に侵入するとは!やはり人間との全面戦争を計画しているというのは本当だったのね!大方、勝利するために聖女であるサキラを拐かそうとしたんだろうけど、無駄よ!」

 女神が魔王をすごい形相で睨みつけている。一方魔王は慌てたように顔の前で両手を振っている。

「違う!僕はただこの不毛な戦いを終わらせたくて!」

「うるさい!サキラ、女神よ!もう亜月の安全のことは考えなくていい。あいつは魔に落ちた裏切り者だ。魔族に殺された人間たちのために犠牲になってもらう。」

「…わかりました。ごめんなさいね、亜月さん。」

「勇者が言うのなら私は従うわ。だからこの世界に来ない方が良かったのに。」

 御門君が大きな剣を、サキラさんがピンクの宝石がついた杖を、女神が光り輝く手のひらを私に向けてくる。

「どうして…!」

 涙が溢れ出て体が動かない。どうしてこんなことになったのか。私はただ、御門君が大好きで、彼のために生きていきたかっただけなのに。

 それぞれの攻撃が私に向かってくる。もういい。何も考えたくない。


 胸にとてつもない痛みが走る。体に力が入らなくなり、その場に倒れ込んでしまった。


「くそっ!!!」

 もうだめた。ここで終わりだ。でももういい。

 全てを諦めて力を抜いた私の体が温かい何かに包み込まれた気がした。
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