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第四章 神様たちは積極的
第一話
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僕が作ったフレンチトーストを光の早さで平らげた二人は、やはり僕が作ったカフェオレを飲んで一息ついている。速さんに「説明してやるから座れ」と言われたので、二人の真向かいに腰を下ろした。
「説明せんでも我の話を聞いておれば分かるであろう?そなたは察しが悪いのぉ。」
保食神と名乗った女の子が口の回りをフレンチトーストのカスで汚しながら、呆れた表情を向けてくる。
「おぉおぉ、保食神は酷いことを言うもんだなぁ。飯まで作ってもらって事情の説明もなしとは!俺が説明してやる、ほら。」
速さんが僕にニコリと笑いかける。
「何も説明しないで悦に入ってるような餓鬼のことは放っておけ。とりあえず、俺の家に行くぞ。そこでゆっくり……。」
「さりげなく連れ込もうとするな!」
保食神様がくってかかる。「ばれたか……。」と速さんは大きく舌打ちをした。
「全く油断も隙もない……。いいだろう、特別に我が懇切丁寧に説明してやる!」
保食神様が空中に文字を書く仕草をすると、何もない空間に突然古ぼけた箱が現れて、テーブルの上にドスンと落ちた。保食神様は、鼻歌を歌いながら、慣れた仕草で箱の蓋を開けて、中身を取り出す。
「紙芝居……?」
「子どもに説明するには紙芝居が一番じゃ。ほら、ちゃんと見ておれよ。」
隣で速さんもうんうんと頷いている。そういうものなのだろうか。というか、僕はもう高校生で子どもではないと思うのだが。しかし、そんなことを考えている間に、さっさと保食神様が紙芝居を始めてしまった。
「むかーしむかし、あるところに、この日の本の国を明るく照らすそれはそれは美しい女神様がおりました。」
「うわっ、すごい。何それ!」
普通の紙芝居かと思ったら、美しい女の人の後ろに描かれた太陽がまばゆい光りを放っている。これも神の力というものだろうか。
「女神様は弟である男神に『保食神という神がどんな方か気になる。見てきて欲しい』と頼みました。」
目の前の女の子の名前が出てきて、顔を上げるが保食神様は「集中せよ」と言って紙芝居を続ける。
「男神が保食神を見に行くと、そこには国に向かって飯を、海に向かって魚を、山に向かって獣を口から吐き出すそれはそれは美しい女神が降りました。」
「自分の所だけ誇張するなよ。」
「ええい、黙れい!」
保食神様がちゃちゃを入れてくる速さんに怒鳴り、また再開する。
「その素晴らしい食物で男神をもてなそうとした保食神でしたが『なんと穢らわしい! 口から吐いたものを食べさせようとは!』と怒り狂った男神に剣で打ち殺されてしまったのです! あぁ、なんと可哀想な保食神! なんと残酷な男神でしょう。」
保食神様の演技にかなり熱が入っている。そして、保食神と思われる女性を斬り殺す男神の絵を指で執拗に攻撃している。
「日の本を照らす女神のもとに戻った男神が事情を伝えると『なんと言うことを! お前は悪い神だ。二度と顔を見たくない!』と罵り、それ以降、この世界に昼と夜が生まれたのです。」
紙芝居の絵がキラキラと星の輝く夜と太陽が照らす昼の美しい情景に別れて、思わず拍手をしてしまった。保食神様は自慢げな顔になっている。
「保食神を哀れに思った女神は一人の男を遣わしました。しかし、男がついた頃には、すでに保食神は事切れていたのです。でも頭には牛馬、額に粟、眉毛に蚕、目の中には稗、腹の中に稲、陰部に麦と大小豆が生えていたのです! 我のすごさが分かるであろう!」
目を輝かせてアピールしてくるので、とりあえず頷いておく。
「男はその全てを女神に献上しました。女神は『なんと素晴らしい。これは人間たちの食料になるでしょう』と喜びました。そして、保食神から生まれた食べ物は多くの人々を潤したのでした。めでたしめでたし。ほら、拍手じゃ!」
拍手を求められたので、大きく手をたたく。でもこの話だと大きな疑問が浮かぶ。
「保食神様って死んでるんじゃ?」
男神に殺されているはずなのに、どうして目の前にいるのか。
「そうじゃの。人に伝えられている話はここで終わりじゃ。しかし、これには続きがある。」
保食神がにやりと笑った。
「説明せんでも我の話を聞いておれば分かるであろう?そなたは察しが悪いのぉ。」
保食神と名乗った女の子が口の回りをフレンチトーストのカスで汚しながら、呆れた表情を向けてくる。
「おぉおぉ、保食神は酷いことを言うもんだなぁ。飯まで作ってもらって事情の説明もなしとは!俺が説明してやる、ほら。」
速さんが僕にニコリと笑いかける。
「何も説明しないで悦に入ってるような餓鬼のことは放っておけ。とりあえず、俺の家に行くぞ。そこでゆっくり……。」
「さりげなく連れ込もうとするな!」
保食神様がくってかかる。「ばれたか……。」と速さんは大きく舌打ちをした。
「全く油断も隙もない……。いいだろう、特別に我が懇切丁寧に説明してやる!」
保食神様が空中に文字を書く仕草をすると、何もない空間に突然古ぼけた箱が現れて、テーブルの上にドスンと落ちた。保食神様は、鼻歌を歌いながら、慣れた仕草で箱の蓋を開けて、中身を取り出す。
「紙芝居……?」
「子どもに説明するには紙芝居が一番じゃ。ほら、ちゃんと見ておれよ。」
隣で速さんもうんうんと頷いている。そういうものなのだろうか。というか、僕はもう高校生で子どもではないと思うのだが。しかし、そんなことを考えている間に、さっさと保食神様が紙芝居を始めてしまった。
「むかーしむかし、あるところに、この日の本の国を明るく照らすそれはそれは美しい女神様がおりました。」
「うわっ、すごい。何それ!」
普通の紙芝居かと思ったら、美しい女の人の後ろに描かれた太陽がまばゆい光りを放っている。これも神の力というものだろうか。
「女神様は弟である男神に『保食神という神がどんな方か気になる。見てきて欲しい』と頼みました。」
目の前の女の子の名前が出てきて、顔を上げるが保食神様は「集中せよ」と言って紙芝居を続ける。
「男神が保食神を見に行くと、そこには国に向かって飯を、海に向かって魚を、山に向かって獣を口から吐き出すそれはそれは美しい女神が降りました。」
「自分の所だけ誇張するなよ。」
「ええい、黙れい!」
保食神様がちゃちゃを入れてくる速さんに怒鳴り、また再開する。
「その素晴らしい食物で男神をもてなそうとした保食神でしたが『なんと穢らわしい! 口から吐いたものを食べさせようとは!』と怒り狂った男神に剣で打ち殺されてしまったのです! あぁ、なんと可哀想な保食神! なんと残酷な男神でしょう。」
保食神様の演技にかなり熱が入っている。そして、保食神と思われる女性を斬り殺す男神の絵を指で執拗に攻撃している。
「日の本を照らす女神のもとに戻った男神が事情を伝えると『なんと言うことを! お前は悪い神だ。二度と顔を見たくない!』と罵り、それ以降、この世界に昼と夜が生まれたのです。」
紙芝居の絵がキラキラと星の輝く夜と太陽が照らす昼の美しい情景に別れて、思わず拍手をしてしまった。保食神様は自慢げな顔になっている。
「保食神を哀れに思った女神は一人の男を遣わしました。しかし、男がついた頃には、すでに保食神は事切れていたのです。でも頭には牛馬、額に粟、眉毛に蚕、目の中には稗、腹の中に稲、陰部に麦と大小豆が生えていたのです! 我のすごさが分かるであろう!」
目を輝かせてアピールしてくるので、とりあえず頷いておく。
「男はその全てを女神に献上しました。女神は『なんと素晴らしい。これは人間たちの食料になるでしょう』と喜びました。そして、保食神から生まれた食べ物は多くの人々を潤したのでした。めでたしめでたし。ほら、拍手じゃ!」
拍手を求められたので、大きく手をたたく。でもこの話だと大きな疑問が浮かぶ。
「保食神様って死んでるんじゃ?」
男神に殺されているはずなのに、どうして目の前にいるのか。
「そうじゃの。人に伝えられている話はここで終わりじゃ。しかし、これには続きがある。」
保食神がにやりと笑った。
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