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第二章 うけもち様との出会い

第七話

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 「朝穂、これせっかくやから持って行きな。私と爺ちゃんだけじゃ食べきらんから。」

「えっ?いいの?」

 そろそろ夜も更けてきた。お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、夜の10時頃には床に入ると言ったので、僕は自分の離れに戻ることにした。お祖父ちゃんにお休みといって、玄関で靴を履いていると、お祖母ちゃんが小さな紙袋を持ってきた。中身を覗くと、それは先ほど僕があげた焼き菓子だった。

 「すっごい美味しかったから、朝穂にも食べて欲しいとよ。あ、これも食べられんとけ?」
「いや、これは大丈夫だよ。ありがとう、もらっとくよ。」

 夜に小腹が空いたときに摘まんでもいいかもしれない。お礼を言って紙袋を受け取り立ち上がる。

「それじゃあお祖母ちゃんもお休み。」
「お休み、朝穂。ゆっくり休むとよ。」

お祖母ちゃんに笑いかけて、僕は自分の離れへと戻る。玄関に入ってから一応鍵をかけておく。お祖父ちゃんたちは「こんな山ん中で盗みするようなやつはおらんが。」と笑っていたが、鍵をせずに寝るというのにはまだ慣れない。居間の電気をつけた後、紙袋を持って台所にへ向かった。

「んー、とりあえずこの棚の中に入れとくかぁ。」

お祖母ちゃんから貰った焼き菓子を古い食器棚の中に入れておこう。食器棚には全部で六つの引き出しがある。下と上に小さめの引き出しが二つずつ、真ん中は引き戸になっていて、開けてみると、四ヶ所に仕切られている。その一つに紙袋ごとお菓子を突っ込んで、扉を閉めた。

「さぁて、もう少しテレビ見てから寝ようかな。」

大きな欠伸をしてから、台所の電気を消して居間へと戻った。

カタカタカタッ!

その時、僕は棚の中から聞こえる物音には気付かなかった。


「んっ…。」

 なんだか物音が聞こえるような気がする。しばらく耳を済ませてみるけれど、そんな音はしなかった。気のせいかと思ってもう一度布団の中に潜り込む。

カタカタカタッ!!

「やっぱり、なんかいる…。」

 気のせいじゃない。やっぱり変な音がする。僕は布団から這い出てて、音のする場所を探すことにした。時計を見ると、時刻は午前二時すぎ。カーテンの隙間から、明るい月明かりが入ってきてほんのりと部屋の中を照らしていた。

カタカタカタッ!

「台所…?」

 また音がした。耳を澄ませてみると、音がした方向は台所だった。ゆっくりと台所に行って、電気を付けようとするが、なぜだが電気がつかない。光は月の明かりだけが便りだ。寝る前まではしっかりついていたのに。少しだけ怖くなったけれど、こんなことでお祖父ちゃんとお祖母ちゃんを起こす訳にはいかない。

(僕、もう高校生だし。)

 情けないと笑われて恥ずかしい思いをするなんてごめんだ。

カタカタカタッ!

「ここかっ!」

 はっきりと音のした場所が分かった。食器棚の中だった。カタカタカタッと何度も何かが動く音が聞こえてくる。

「あ!もしかして鼠?」

先ほど、棚の中にお菓子をしまってしまった。それに連れて鼠がやってきてしまったのかもしれない。早くお菓子を救出しないと!そう思い、一息に紙袋をしまった引き出しを開ける。そして、袋の中身を地面にぶちまけた。

「あ、あれ?」

 しかし、袋の中から出てきたのは焼き菓子だけだった。鼠なんてどこにも見当たらない。引き出しの中も確認したけれど、やはり鼠はいなかった。


「んー、逃げちゃったのかな?」

  それならまぁ問題はない。明日にでもお祖父ちゃんに鼠避けを買ってもらおう。そう思い、焼き菓子を片付けてまた布団に戻ろうとした時。


カタカタカタッ!


「えっ…?」

 まだ音がする。なぜだろう。音は食器棚の上の方から聞こえる。

「鼠が移動した…?」

 それなら早めに退治しておいた方がいい。もしかしたら鼠が飛び出してくるかもしれないけれど、そのときはその時だ。

「よぉし!」

 僕は意を決して、引き戸になっている引き出しを開けた。

「あれ?」

中に入っていたのは古ぼけた御櫃だった。旅館などにいくと、ご飯が入っていて皆で取り分けて食べるやつだ。蓋もついていて、その中央には稲をモチーフにしたマークが入っている。

「この中に鼠が?」

よぉしと思って一気に蓋を開ける。

「わあ!!!」

すると中からものすごい量の煙が出てきた。思わず取り落としてしまう。



「あぁ!!狭かった!!やっと出られたではないか!全く!肩も凝るし、なにより!!」


「なっ!なっ!!!」

床に転がった御櫃の中から、何かがのそりと出てくる。しかも、言葉を喋っている。


「とにかく、腹が…減ったのじゃあ…。」

茜色の瞳を持った小さな女の子が、大の字になって倒れていたのだった。
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