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第二章 うけもち様との出会い
第五話
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「ご飯そろそろできるから、朝穂は先にお風呂に入ってこんね。」
お祖父ちゃん、お祖母ちゃんと一緒にお茶を飲んだ後、二人は「朝穂はゆっくりしとけ」と言って、それぞれの仕事をし始めた。お祖母ちゃんは台所で夕飯の準備、お祖父ちゃんは昔ながらの五右衛門風呂を沸かすために、火を焚きはじめた。
テレビを見ながらゆっくりしていると、あっという間に日が落ちて周りが暗くなってしまった。まだ季節は秋でも、ここまでの山奥だとしんしんと冷えてくる。ぶるりと身震いしていると、お祖母ちゃんがお風呂を進めてくれた。
「ちょうど今、いい感じに沸いたところやが。朝穂、早く入れ。」
お祖父ちゃんも縁側から顔を覗かせてる。
「分かった。ありがとう。」
二人にお礼をいって、台所を通り、その隣にあるお風呂へと向かう。木製の少しだけ立て付けの悪い扉の向こうは脱衣場になっていて、そこで服を脱いだ。裸になると一段と冷える。慌てて風呂に続く磨硝子の扉を開けると、地面はうす緑色のタイル張りになっていて、お風呂からはもくもくと白い湯気が立ち上っていった。昔ながらの木製の桶を使ってお湯をかぶり、ゆっくりと湯船に浸かった。
「あぁ~。」
あまりの気持ちよさに、おじさんのような声を出してしまった。
「あっはっは!朝穂ぉ、ジジイみたいな声出しちょるが!」
外からお祖父ちゃんの笑い声が聞こえてくる。上を見ると格子状になっている窓からお祖父ちゃんがこちらを除き見ていた。
「しっ、仕方ないでしょ!」
顔を赤くしながら反論すると、お祖父ちゃんはニヤリと笑う。
「そうだなぁ。爺ちゃんとこのお風呂は気持ちいいからなぁ。湯加減はいいか?」
「うん、ちょうどいいよ。ありがと。」
「ん!ならよかった。ゆっくり温まれよ。」
ヒラヒラと手を振った後、お祖父ちゃんの姿が見えなくなる。言われた通り、お風呂を満喫しようと、首まで湯船に浸かった。
「なんだか、落ち着くなぁ。」
お祖父ちゃんちに来てから、なんだか心が静まったような気がする。都守町と違って、人もいなければ、ビル群もない。自然に囲まれたこの村にはゆったりとした時間が流れてるような気がする。
「ここにいれば、僕もマトモに戻れるのかな…。」
父さんが死んで以来、僕は普通じゃなくなってしまった。いつも塞ぎこんで、料理も食べられなくなって、人に迷惑をかけてばかりで、家族さえも崩壊してしまった。
ここにいれば、僕の心は癒えていくんだろうか。いつかまた、家族と笑い合ってご飯を食べられるようになるんだろか。
「教えてよ、父さん…。」
僕はぶくぶくと湯船の中に沈んだ。
「じゃあ次は俺が入るわ。」
僕がお風呂からあがって、台所に行くと、お祖父ちゃんが「おー、寒い寒い」と言いながら、タオルやらパジャマやらを持っていそいそとお風呂に入っていった。
「朝穂、ご飯の前に荷物を離れに持っていったらいいんやないと?布団とかも置いてあるから、自分の部屋ちょっと見てくるといいわ。」
お祖母ちゃんが鍋をかき混ぜながら言ったのでその通りにさせてもらうことにした。自分のボストンバッグを持って玄関を出る。離れはすぐ右手にある。小さな玄関の扉を開けて靴を脱ぐ。三メートル程の廊下があり、右手には小さな台所とトイレがあった。
「うわぁ!でかい!」
その小さな台所には天井まで届く大きな食器棚が置いてあった。随分古いものらしく、木製なんだろうが黒光りしていて、所々は茜色に光っているようにも見えた。引き出しの金具には繊細な紋様が刻まれていて、なんだか高いもののような気もする。小さなシンクの下は開きになっていて、中を見るとお鍋とやかん、まな板に包丁と一通りのものは揃っていた。
「離れっていっても立派だなぁ。」
この家はお祖父ちゃんたちのもっとご先祖様が生きてる時からあるらしく、昔はここに使用人なんかが住んでたらしい。
料理はしないけれど、お湯を沸かしてカップラーメンを食べる時とかは、母屋まで行かないですんで、便利そうだ。ありがたく使わせてもらおうと思いながら、廊下の左手の部屋に入る。四畳一間になっていて、小さな丸机とテレビが置いてあった。押し入れを開けるとお祖母ちゃんの言う通り、布団が一組準備されている。テレビまで用意してもらえるなんて本当にうれしい。
「あ、忘れてた。」
ボストンバッグの中身を出していると、二人にお世話になるのだからと、駅で一応お土産を買っておいた焼き菓子が出てきた。大したことのないものだが、おそらく喜んでくれるだろう。
「朝穂?そろそろご飯やが!」
玄関からお祖母ちゃんの声が聞こえる。「はーい!」と返事をして、僕は部屋を出た。
お祖父ちゃん、お祖母ちゃんと一緒にお茶を飲んだ後、二人は「朝穂はゆっくりしとけ」と言って、それぞれの仕事をし始めた。お祖母ちゃんは台所で夕飯の準備、お祖父ちゃんは昔ながらの五右衛門風呂を沸かすために、火を焚きはじめた。
テレビを見ながらゆっくりしていると、あっという間に日が落ちて周りが暗くなってしまった。まだ季節は秋でも、ここまでの山奥だとしんしんと冷えてくる。ぶるりと身震いしていると、お祖母ちゃんがお風呂を進めてくれた。
「ちょうど今、いい感じに沸いたところやが。朝穂、早く入れ。」
お祖父ちゃんも縁側から顔を覗かせてる。
「分かった。ありがとう。」
二人にお礼をいって、台所を通り、その隣にあるお風呂へと向かう。木製の少しだけ立て付けの悪い扉の向こうは脱衣場になっていて、そこで服を脱いだ。裸になると一段と冷える。慌てて風呂に続く磨硝子の扉を開けると、地面はうす緑色のタイル張りになっていて、お風呂からはもくもくと白い湯気が立ち上っていった。昔ながらの木製の桶を使ってお湯をかぶり、ゆっくりと湯船に浸かった。
「あぁ~。」
あまりの気持ちよさに、おじさんのような声を出してしまった。
「あっはっは!朝穂ぉ、ジジイみたいな声出しちょるが!」
外からお祖父ちゃんの笑い声が聞こえてくる。上を見ると格子状になっている窓からお祖父ちゃんがこちらを除き見ていた。
「しっ、仕方ないでしょ!」
顔を赤くしながら反論すると、お祖父ちゃんはニヤリと笑う。
「そうだなぁ。爺ちゃんとこのお風呂は気持ちいいからなぁ。湯加減はいいか?」
「うん、ちょうどいいよ。ありがと。」
「ん!ならよかった。ゆっくり温まれよ。」
ヒラヒラと手を振った後、お祖父ちゃんの姿が見えなくなる。言われた通り、お風呂を満喫しようと、首まで湯船に浸かった。
「なんだか、落ち着くなぁ。」
お祖父ちゃんちに来てから、なんだか心が静まったような気がする。都守町と違って、人もいなければ、ビル群もない。自然に囲まれたこの村にはゆったりとした時間が流れてるような気がする。
「ここにいれば、僕もマトモに戻れるのかな…。」
父さんが死んで以来、僕は普通じゃなくなってしまった。いつも塞ぎこんで、料理も食べられなくなって、人に迷惑をかけてばかりで、家族さえも崩壊してしまった。
ここにいれば、僕の心は癒えていくんだろうか。いつかまた、家族と笑い合ってご飯を食べられるようになるんだろか。
「教えてよ、父さん…。」
僕はぶくぶくと湯船の中に沈んだ。
「じゃあ次は俺が入るわ。」
僕がお風呂からあがって、台所に行くと、お祖父ちゃんが「おー、寒い寒い」と言いながら、タオルやらパジャマやらを持っていそいそとお風呂に入っていった。
「朝穂、ご飯の前に荷物を離れに持っていったらいいんやないと?布団とかも置いてあるから、自分の部屋ちょっと見てくるといいわ。」
お祖母ちゃんが鍋をかき混ぜながら言ったのでその通りにさせてもらうことにした。自分のボストンバッグを持って玄関を出る。離れはすぐ右手にある。小さな玄関の扉を開けて靴を脱ぐ。三メートル程の廊下があり、右手には小さな台所とトイレがあった。
「うわぁ!でかい!」
その小さな台所には天井まで届く大きな食器棚が置いてあった。随分古いものらしく、木製なんだろうが黒光りしていて、所々は茜色に光っているようにも見えた。引き出しの金具には繊細な紋様が刻まれていて、なんだか高いもののような気もする。小さなシンクの下は開きになっていて、中を見るとお鍋とやかん、まな板に包丁と一通りのものは揃っていた。
「離れっていっても立派だなぁ。」
この家はお祖父ちゃんたちのもっとご先祖様が生きてる時からあるらしく、昔はここに使用人なんかが住んでたらしい。
料理はしないけれど、お湯を沸かしてカップラーメンを食べる時とかは、母屋まで行かないですんで、便利そうだ。ありがたく使わせてもらおうと思いながら、廊下の左手の部屋に入る。四畳一間になっていて、小さな丸机とテレビが置いてあった。押し入れを開けるとお祖母ちゃんの言う通り、布団が一組準備されている。テレビまで用意してもらえるなんて本当にうれしい。
「あ、忘れてた。」
ボストンバッグの中身を出していると、二人にお世話になるのだからと、駅で一応お土産を買っておいた焼き菓子が出てきた。大したことのないものだが、おそらく喜んでくれるだろう。
「朝穂?そろそろご飯やが!」
玄関からお祖母ちゃんの声が聞こえる。「はーい!」と返事をして、僕は部屋を出た。
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