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第二章 うけもち様との出会い
第四話
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「お祖父ちゃん、あの人って…。」
「ん?あの人って、速のことか?」
速さんのお店で少しだけ買い物した後、僕はすぐにお祖父ちゃんの軽トラックに戻った。しかし、お祖父ちゃんは速さんと話し込んでいて、全然戻ってきてくれなかった。しかも、速さんがチラチラとこっちを見てくるので心が全く休まらない。車の窓から顔を出して、お祖父ちゃんに「早く行こうよ。」と声をかけると、やっと「おお、そうじゃった!」といって戻ってきてくれた。速さんは僕たちの車が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
「うん、速さん。速さんってどんな人なの?」
あの真っ赤な瞳を思い出して身震いしながら尋ねる。
「おぉ、速はのぉ、若いくせしてほんとにできるやつやっちゃが!前は都会にいたらしいっちゃけど、なんかIターン?みたいなやつでうちの村に来たとよ。」
「Iターン?」
確か、出身地ではないけど、その土地が気に入って移り住む人たちだってニュースでやっていたような気がする。
「そうそう!それで五年前ぐらいに移住してきてなぁ。最初はみんな『怖ぇ奴が来た』っていうて、警戒しちょったっちゃけど、お店やるっつってくれてなぁ。うちの村にもスーパーがあるっちゃけど、中心部に一つだけで、山の上とかに家があるやつは買いに行くまで大変やったとよ。山ん中腹に店構えてくれたかい、まこち楽になったわ!それに、男前やから若い女ん子たちが騒いでなぁ。やっぱ若い人がいると村に活気が出るかいええわ!」
「そうなんだ…。」
口調は少し厳しいけど、いい人なんだなと思う。でもあの凶悪な笑顔が忘れられない。
(あそこで買い物しないようにしよう…。)
僕は心の中でそう誓った。
「ほぉーら、着いたぞ。朝穂がうちに来るのもほんとに久しぶりやなぁ。」
速さんの店から10分ほど山道を走ると、やっとお祖父ちゃんのうちについた。山の斜面にあるお祖父ちゃんのうちには山道から急なカーブを曲がって、軽トラックで急斜面をグングン進んでいくと、開けた場所に出る。そこにはお祖父ちゃんたちが住む母屋と、荷物を置いている蔵、家畜を飼っている小屋に、そして僕が住む予定の離れがあった。
「朝穂!やっと着いたとね!遅かったから心配したがぁ。」
母屋から、純子お祖母ちゃんが出てきて、車の方へと駆け寄ってきた。
「そんな遅くなっちょらんが。お前はいつも心配性で…。」
「どうせあんたが立ち話でもして遅くなったっちゃろ!朝穂はバスで何時間もかけて来たっちゃから疲れとるとよ!」
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが言い争いを始めた。こうやって喧嘩することは多いものの、二人がとても仲良しなことは、小さい頃に何回も来ていたから知っている。
「はいはい!もう喧嘩は終わりだよ!僕、家に入っていい?」
「おぉそうだな!」
「離れもちゃんと掃除しておいたから、今日から使えるからね。」
「うん、ありがとう。」
僕は二人にお礼をいって、懐かしい母屋に入った。
「うわぁ、相変わらずのすごいなぁ。」
二人の家は広い平屋で襖や屏風で部屋が仕切られている。入ってすぐは土間になっていて、靴を脱いで上がると畳の部屋になっていて、小さめの机やテレビ、本などが置いてある。ここがリビングだ。
「とりあえず荷物は隣の部屋に置いとけばええが。」
お祖父ちゃんに言われて、隣の部屋へ続く襖を開けると、お仏壇と大きな箪笥が置いてある部屋になっていた。木製の立派な机も置いてあるので、お客さんが来たときはここを使っているのだろう。確かその隣はお祖父ちゃんたちの寝室だったはずだ。そして、3つの部屋は縁側の廊下て繋がっていて、どの部屋からも移り変わる山の風景を楽しめるようになっていた。
「お茶でも入れようかね。」
「あ、手伝うよ。」
お祖母ちゃんが立ち上がったので、僕もと思ったが「疲れてるっちゃから座っとき」と言われて、大人しく囲炉裏のそばに置いてある座布団の上に座った。
「朝穂、今日は何が食べたい?」
「っ!」
台所に行ったお祖母ちゃんがヒョイと顔を出して僕に尋ねてくる。その一言に声が詰まってしまった。
「あの…。」
きっとお祖母ちゃんは、僕のためにご馳走を作ろうと張り切っているはずだ。その気持ちを無下にできない。でも出されても食べることができないのだ。
僕が黙っていると、お祖父ちゃんが「純子!」と鋭い声をあげた。
「言ったやろ、朝穂は…。」
「あぁ、そうやった。そうやったなぁ。ごめんな、朝穂。お祖母ちゃん、すっかり忘れてとってな。」
「ううん、僕が悪いんだ。僕が…。」
顔を上げることができずに俯いていると、お祖父ちゃんが僕の傍に来てワシャワシャと頭をかき乱した。
「全く、婆ちゃんはすぐ忘れてしまうからなぁ。も最近物忘れが激しくて困っとるんよ!」
「お祖父ちゃん…。」
「ちゃんと朝穂が食べられるもん買っちょるから大丈夫やが!」
「ありがとう、お祖父ちゃん。」
父さんと全く同じ笑顔を見て、僕を小さく微笑んだ。
「ん?あの人って、速のことか?」
速さんのお店で少しだけ買い物した後、僕はすぐにお祖父ちゃんの軽トラックに戻った。しかし、お祖父ちゃんは速さんと話し込んでいて、全然戻ってきてくれなかった。しかも、速さんがチラチラとこっちを見てくるので心が全く休まらない。車の窓から顔を出して、お祖父ちゃんに「早く行こうよ。」と声をかけると、やっと「おお、そうじゃった!」といって戻ってきてくれた。速さんは僕たちの車が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
「うん、速さん。速さんってどんな人なの?」
あの真っ赤な瞳を思い出して身震いしながら尋ねる。
「おぉ、速はのぉ、若いくせしてほんとにできるやつやっちゃが!前は都会にいたらしいっちゃけど、なんかIターン?みたいなやつでうちの村に来たとよ。」
「Iターン?」
確か、出身地ではないけど、その土地が気に入って移り住む人たちだってニュースでやっていたような気がする。
「そうそう!それで五年前ぐらいに移住してきてなぁ。最初はみんな『怖ぇ奴が来た』っていうて、警戒しちょったっちゃけど、お店やるっつってくれてなぁ。うちの村にもスーパーがあるっちゃけど、中心部に一つだけで、山の上とかに家があるやつは買いに行くまで大変やったとよ。山ん中腹に店構えてくれたかい、まこち楽になったわ!それに、男前やから若い女ん子たちが騒いでなぁ。やっぱ若い人がいると村に活気が出るかいええわ!」
「そうなんだ…。」
口調は少し厳しいけど、いい人なんだなと思う。でもあの凶悪な笑顔が忘れられない。
(あそこで買い物しないようにしよう…。)
僕は心の中でそう誓った。
「ほぉーら、着いたぞ。朝穂がうちに来るのもほんとに久しぶりやなぁ。」
速さんの店から10分ほど山道を走ると、やっとお祖父ちゃんのうちについた。山の斜面にあるお祖父ちゃんのうちには山道から急なカーブを曲がって、軽トラックで急斜面をグングン進んでいくと、開けた場所に出る。そこにはお祖父ちゃんたちが住む母屋と、荷物を置いている蔵、家畜を飼っている小屋に、そして僕が住む予定の離れがあった。
「朝穂!やっと着いたとね!遅かったから心配したがぁ。」
母屋から、純子お祖母ちゃんが出てきて、車の方へと駆け寄ってきた。
「そんな遅くなっちょらんが。お前はいつも心配性で…。」
「どうせあんたが立ち話でもして遅くなったっちゃろ!朝穂はバスで何時間もかけて来たっちゃから疲れとるとよ!」
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが言い争いを始めた。こうやって喧嘩することは多いものの、二人がとても仲良しなことは、小さい頃に何回も来ていたから知っている。
「はいはい!もう喧嘩は終わりだよ!僕、家に入っていい?」
「おぉそうだな!」
「離れもちゃんと掃除しておいたから、今日から使えるからね。」
「うん、ありがとう。」
僕は二人にお礼をいって、懐かしい母屋に入った。
「うわぁ、相変わらずのすごいなぁ。」
二人の家は広い平屋で襖や屏風で部屋が仕切られている。入ってすぐは土間になっていて、靴を脱いで上がると畳の部屋になっていて、小さめの机やテレビ、本などが置いてある。ここがリビングだ。
「とりあえず荷物は隣の部屋に置いとけばええが。」
お祖父ちゃんに言われて、隣の部屋へ続く襖を開けると、お仏壇と大きな箪笥が置いてある部屋になっていた。木製の立派な机も置いてあるので、お客さんが来たときはここを使っているのだろう。確かその隣はお祖父ちゃんたちの寝室だったはずだ。そして、3つの部屋は縁側の廊下て繋がっていて、どの部屋からも移り変わる山の風景を楽しめるようになっていた。
「お茶でも入れようかね。」
「あ、手伝うよ。」
お祖母ちゃんが立ち上がったので、僕もと思ったが「疲れてるっちゃから座っとき」と言われて、大人しく囲炉裏のそばに置いてある座布団の上に座った。
「朝穂、今日は何が食べたい?」
「っ!」
台所に行ったお祖母ちゃんがヒョイと顔を出して僕に尋ねてくる。その一言に声が詰まってしまった。
「あの…。」
きっとお祖母ちゃんは、僕のためにご馳走を作ろうと張り切っているはずだ。その気持ちを無下にできない。でも出されても食べることができないのだ。
僕が黙っていると、お祖父ちゃんが「純子!」と鋭い声をあげた。
「言ったやろ、朝穂は…。」
「あぁ、そうやった。そうやったなぁ。ごめんな、朝穂。お祖母ちゃん、すっかり忘れてとってな。」
「ううん、僕が悪いんだ。僕が…。」
顔を上げることができずに俯いていると、お祖父ちゃんが僕の傍に来てワシャワシャと頭をかき乱した。
「全く、婆ちゃんはすぐ忘れてしまうからなぁ。も最近物忘れが激しくて困っとるんよ!」
「お祖父ちゃん…。」
「ちゃんと朝穂が食べられるもん買っちょるから大丈夫やが!」
「ありがとう、お祖父ちゃん。」
父さんと全く同じ笑顔を見て、僕を小さく微笑んだ。
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