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第二章 うけもち様との出会い
第一話
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窓枠に肘をついて頭を支える。ぼーっとしている間に、乗車した路線バスの中から見る景色はどんどんと様相が変わっていく。ビルやマンションなどが多かった都守町を出ると、30分ほど田んぼが広がった田舎道を進む。そして、どんどん山奥へとバスが進んでいた。駅を出発して、1時間ほど経つと、コンクリートで舗装はされているものの、でこぼこした場所が見られるようになったほか、斜面からは湧水がコンコンとわき出ていたり、その水量が増して、天然の滝が見れるような場所も出てきている。最初、数十人ほど乗っていた乗客も、今では片手で数えられる程度に減ってしまっていた。
(そういえば父さんの実家に行くの、何年ぶりかな。)
父さんの実家で過ごした最後の記憶は小学6年生の時だ。毎年、お正月やお盆など、長期休みがある時には、父さんの運転する車に乗って、山の中腹にある父さんの実家に帰省していた。でも僕が中学生になってから、僕と兄さんは部活で忙しくなったり、沙知もピアノの習い事を始めたりして、行くことがなくなっていた。
「…確か、お祖父ちゃんたちのうちってすごく古かったような…。」
父さんの実家はとても古い建物だと聞いたことがある。見た目もかやぶき屋根で、お祖父ちゃんいわく「ずーっと昔からここに建っている」らしい。確かにいったい何年たっているのかと疑問に思うほど、真っ黒になって艶光している柱や年季の入った家具を見ると、それも嘘じゃないってことが分かる。家の裏は里山になっていて、おばあちゃんが山菜や栗、筍などたくさんの旬のものを取ってきてくれ、父さんがそれを料理してくれた。それを家族とお祖父ちゃん、お婆ちゃんとでたくさん笑って食べていた。
そこまで思い出して、考えることをやめた。どれだけ願っても過去に戻ることはできないのだから。家を出る前に、お祖父ちゃんに電話すると「気のすむまでうちにいて構わない」と言ってくれた。もう学校に行く気もないし、本当に気が済むまでいさせてもらおうと思っている。
「ふわぁ…。」
大きなあくびをする。まだお祖父ちゃんたちの家がある椎羽村まで1時間以上かかる、まだまだ先は長い。僕はカバンの中に入れいてた携帯食料を取り出して、一口齧った。
「うわぁ…こんなに田舎だったっけ?」
車内の案内アナウンスが椎羽村の名前を告げる声で目を覚ます。バスは鬱蒼と茂った林の中の細い小道を進んでいた。急いで荷物をまとめて、降車ボタンを押す。いつのまにか、僕以外の乗客は全員降りてしまっている。数分すると、古ぼけたブリキ製のバス停の前でバスが停車した。お金を払ってバスを降りると、すぐにバスは出発してしまった。
降りた場所は赤いペンキが所々剥げたアーチ型の橋のたもとだった。橋は深い谷の間にかかっていて、こちら側と向こう側の山をつないでいる。斜面には所々家屋と思われる建物が見えている。遠くで何かの動物の泣き声が聞こえ、谷にか細く響いた。
「えっと、確かこの先に小学校があるはず…。」
スマートフォンの地図アプリで確認すると、橋を渡って200メートルほど行くと、椎羽小学校が見えてくるはずだ。そこにお祖父ちゃんが迎えに来てくれる予定になっている。アプリが示してくれる方向へと歩き出す。橋は車道の横に少し狭い歩道があり、そこを進む。谷を覗き込むと、随分下の方に小川が見えた。季節は秋から冬に移り変わっていて、綺麗な紅葉が飛び込んできた。景色をスマートフォンで撮影しながら、道を歩いていると、先の方に大きな銀杏の木が見えてくる。黄色に色づいた銀杏からは、ひらりひらりと葉っぱが舞い落ちている。その木は小学校の校門前に植えてあるようで、その下には木製のベンチが置いてある。近くまで来て周りを見てみたが、まだお祖父ちゃんたちは来ていないようだ。ベンチに座って、しばらく待つことにした。
ゆっくりと落ちていく銀杏の葉を見ていると、ささくれ立った心が少しだけ慰められるような気がする。頬をなでる風が心地良い。バスの中であんなに寝たはずなのに、僕はまた眠気に誘われてしまった。
「あぁ、そうか、そうだな。我に任せておけ。」
「………。」
話声が聞こえる。目を開けると、真っ白な場所だった。声の方へ視線を向けると、小さな女の子がうずくまってぶつぶつと何かを喋っている。
「そう急くな。時間がかかる。えぇい、うるさい!我に任せておけばいいのだ!」
しかも何か怒っているようだ。近寄って声をかけようとするが、足が動いてくれない。
「そこのお前。迷い込んだな?さっさと去ね。」
「あっ。」
少女が立ち上がってこちらを振り返った。
「朝穂?こんな所で寝ていたら風邪を引くぞ!」
少女の顔を見ようと思ったが、ぱちりと目を開けてみると、そこにいたのはお祖父ちゃんだった。
(そういえば父さんの実家に行くの、何年ぶりかな。)
父さんの実家で過ごした最後の記憶は小学6年生の時だ。毎年、お正月やお盆など、長期休みがある時には、父さんの運転する車に乗って、山の中腹にある父さんの実家に帰省していた。でも僕が中学生になってから、僕と兄さんは部活で忙しくなったり、沙知もピアノの習い事を始めたりして、行くことがなくなっていた。
「…確か、お祖父ちゃんたちのうちってすごく古かったような…。」
父さんの実家はとても古い建物だと聞いたことがある。見た目もかやぶき屋根で、お祖父ちゃんいわく「ずーっと昔からここに建っている」らしい。確かにいったい何年たっているのかと疑問に思うほど、真っ黒になって艶光している柱や年季の入った家具を見ると、それも嘘じゃないってことが分かる。家の裏は里山になっていて、おばあちゃんが山菜や栗、筍などたくさんの旬のものを取ってきてくれ、父さんがそれを料理してくれた。それを家族とお祖父ちゃん、お婆ちゃんとでたくさん笑って食べていた。
そこまで思い出して、考えることをやめた。どれだけ願っても過去に戻ることはできないのだから。家を出る前に、お祖父ちゃんに電話すると「気のすむまでうちにいて構わない」と言ってくれた。もう学校に行く気もないし、本当に気が済むまでいさせてもらおうと思っている。
「ふわぁ…。」
大きなあくびをする。まだお祖父ちゃんたちの家がある椎羽村まで1時間以上かかる、まだまだ先は長い。僕はカバンの中に入れいてた携帯食料を取り出して、一口齧った。
「うわぁ…こんなに田舎だったっけ?」
車内の案内アナウンスが椎羽村の名前を告げる声で目を覚ます。バスは鬱蒼と茂った林の中の細い小道を進んでいた。急いで荷物をまとめて、降車ボタンを押す。いつのまにか、僕以外の乗客は全員降りてしまっている。数分すると、古ぼけたブリキ製のバス停の前でバスが停車した。お金を払ってバスを降りると、すぐにバスは出発してしまった。
降りた場所は赤いペンキが所々剥げたアーチ型の橋のたもとだった。橋は深い谷の間にかかっていて、こちら側と向こう側の山をつないでいる。斜面には所々家屋と思われる建物が見えている。遠くで何かの動物の泣き声が聞こえ、谷にか細く響いた。
「えっと、確かこの先に小学校があるはず…。」
スマートフォンの地図アプリで確認すると、橋を渡って200メートルほど行くと、椎羽小学校が見えてくるはずだ。そこにお祖父ちゃんが迎えに来てくれる予定になっている。アプリが示してくれる方向へと歩き出す。橋は車道の横に少し狭い歩道があり、そこを進む。谷を覗き込むと、随分下の方に小川が見えた。季節は秋から冬に移り変わっていて、綺麗な紅葉が飛び込んできた。景色をスマートフォンで撮影しながら、道を歩いていると、先の方に大きな銀杏の木が見えてくる。黄色に色づいた銀杏からは、ひらりひらりと葉っぱが舞い落ちている。その木は小学校の校門前に植えてあるようで、その下には木製のベンチが置いてある。近くまで来て周りを見てみたが、まだお祖父ちゃんたちは来ていないようだ。ベンチに座って、しばらく待つことにした。
ゆっくりと落ちていく銀杏の葉を見ていると、ささくれ立った心が少しだけ慰められるような気がする。頬をなでる風が心地良い。バスの中であんなに寝たはずなのに、僕はまた眠気に誘われてしまった。
「あぁ、そうか、そうだな。我に任せておけ。」
「………。」
話声が聞こえる。目を開けると、真っ白な場所だった。声の方へ視線を向けると、小さな女の子がうずくまってぶつぶつと何かを喋っている。
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しかも何か怒っているようだ。近寄って声をかけようとするが、足が動いてくれない。
「そこのお前。迷い込んだな?さっさと去ね。」
「あっ。」
少女が立ち上がってこちらを振り返った。
「朝穂?こんな所で寝ていたら風邪を引くぞ!」
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