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第一章
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「こちら、前菜の野菜とハムのアスピックでございます。」
ウェイターの人が何か分からないけれど、とにかくオシャレな料理が乗ったお皿を持ってきてくれた。私の頭の上にクエスチョンマークが出たことが分かったのか、不破さんがクスリと笑う。
「アスピックっていうのは、簡単には言うとゼリー寄せのことだ。和食で言うと煮こごりだな。」
「へぇー!」
さすが社長。なんでと詳しいんだなと思って感心してしまう。
「ここの料理は美味しいから、俺もよく来るんだ。たくさん食べて。」
(よく来るんだ…。)
それはそうだろう。どんな会社なのかは詳しくは知らないが、ぞういんを考えているって話だったし決して儲かってないことはないはずた。それにこの容姿だ。私みたいな平凡な女ではなく、もっと中身も外見も美しい人が。
(まぁ、そんなこと私には関係ないんだけど!)
暇潰しに使われている女がだ。どうせならこの幸運を精一杯楽しみたい。不破さんのことを考えるのはやめて、食べたこともない目の前の前菜を恐る恐る口に入れた。
「お、美味しい!」
高級なものなんで、ほとんど食べたことないし、贅沢なんでスーパーで買うパック寿司ぐらいの自分にはどう表現すればいいか分からないが、とにかく美味しいことだけは分かる。ハムと野菜の旨味がすごく凝縮されているような気がする!多分!
「千佳子は美味しそうに食べてくれるな。」
「んっ!ごほっ!」
いかんいかん。目の前の食事に夢中になりすぎて、不破さんのことをすっかり忘れてしまっていた。ガツガツと口に料理を放り込む自分と違って、不破さんはその見た目と比例してそれはそれは優雅に食事をしていた。
「…なんか、不破さんってズルいですね。」
「俺が?ズルい?なんで?」
不破さんが食事をやめて、楽しそうに目を細める。
「だ、だってなんかライオンみたいな見た目なのに、すっごく綺麗に食事しますし、エスコートとかもすごく上手だし…。」
「へぇ、俺のことそんなふうに思ってくれてるんだ?ライオンみたいってどういうこと?」
「え、あ、ライオンっていうのは見た目というかワイルドというか。」
「ふーん、ワイルドねぇ。」
「と、とにかくズルいって話です!」
なんだか不破さんの笑みがどんどん深くなるような気がして怖くなってきた。適当に話を切り上げると、ちょうどいいタイミングでウエイターが次の料理を持ってきてくれた。それをいいことき、私は食事に集中することにしたのだった。
「んんぅ、おいひい…。幸せ。」
新しい料理が来るごとにクエスチョンマークが浮かぶ私のために、不破さんはその都度ちょっとした説明をいれてくれた。飲み物にも気を使ってくれて「柑橘系が好きならこれもどうだ?」と言って、一緒にメニュー表を見ながら考えてくれた。サツマイモの冷製スープに、白身魚のフリット、サーモンのカルパッチョにメインの和牛のロースト、ポルチーニ茸のリゾットに、ティラミスと自家製アイスクリームのセット。どれもこれも美味しいものばかりだった。
「んんー、幸せ。」
こんなに美味しいものを食べたのはこの前のカレーぶりだ。やっぱり美味しいものを食べるといっきに幸せになる。満足感から頬を緩ませていると、不破さんが「千佳子」と呼び掛けてきた。
「なんですか…っ!?」
(あ、ダメだ。)
不破さんに視線を向けたのを後悔した。彼は両手を組んでテーブルに付け、少し前屈みの姿勢で私のことを見つめていた。その瞳はギラギラと輝いていて、思わず吸い込まれそうになる。
「千佳子…。手、握っていいか?」
「っ、やだ!」
不破さんが、同じくテーブルの上に置いてある私の手に視線を向ける。しかし、私はさっきのことを思い出して、素早くその手を引っ込めてしまった。それを見て、不破さんが少しだけ寂しい表情を見せる。
「あっ…。」
「千佳子がいいっていうまで触らない約束だったからな。ちゃんと約束は守る。」
「はい…。」
「…そろそろ出ようか?」
不破さんがナプキンで口を拭いた後、立ち上がって私の傍によってくる。
「行こうか、千佳子。」
まるでシンデレラになった気分。
(一時でだとしても、幸せ。)
私はニコリと微笑んで、不破さんの手をとった。
ウェイターの人が何か分からないけれど、とにかくオシャレな料理が乗ったお皿を持ってきてくれた。私の頭の上にクエスチョンマークが出たことが分かったのか、不破さんがクスリと笑う。
「アスピックっていうのは、簡単には言うとゼリー寄せのことだ。和食で言うと煮こごりだな。」
「へぇー!」
さすが社長。なんでと詳しいんだなと思って感心してしまう。
「ここの料理は美味しいから、俺もよく来るんだ。たくさん食べて。」
(よく来るんだ…。)
それはそうだろう。どんな会社なのかは詳しくは知らないが、ぞういんを考えているって話だったし決して儲かってないことはないはずた。それにこの容姿だ。私みたいな平凡な女ではなく、もっと中身も外見も美しい人が。
(まぁ、そんなこと私には関係ないんだけど!)
暇潰しに使われている女がだ。どうせならこの幸運を精一杯楽しみたい。不破さんのことを考えるのはやめて、食べたこともない目の前の前菜を恐る恐る口に入れた。
「お、美味しい!」
高級なものなんで、ほとんど食べたことないし、贅沢なんでスーパーで買うパック寿司ぐらいの自分にはどう表現すればいいか分からないが、とにかく美味しいことだけは分かる。ハムと野菜の旨味がすごく凝縮されているような気がする!多分!
「千佳子は美味しそうに食べてくれるな。」
「んっ!ごほっ!」
いかんいかん。目の前の食事に夢中になりすぎて、不破さんのことをすっかり忘れてしまっていた。ガツガツと口に料理を放り込む自分と違って、不破さんはその見た目と比例してそれはそれは優雅に食事をしていた。
「…なんか、不破さんってズルいですね。」
「俺が?ズルい?なんで?」
不破さんが食事をやめて、楽しそうに目を細める。
「だ、だってなんかライオンみたいな見た目なのに、すっごく綺麗に食事しますし、エスコートとかもすごく上手だし…。」
「へぇ、俺のことそんなふうに思ってくれてるんだ?ライオンみたいってどういうこと?」
「え、あ、ライオンっていうのは見た目というかワイルドというか。」
「ふーん、ワイルドねぇ。」
「と、とにかくズルいって話です!」
なんだか不破さんの笑みがどんどん深くなるような気がして怖くなってきた。適当に話を切り上げると、ちょうどいいタイミングでウエイターが次の料理を持ってきてくれた。それをいいことき、私は食事に集中することにしたのだった。
「んんぅ、おいひい…。幸せ。」
新しい料理が来るごとにクエスチョンマークが浮かぶ私のために、不破さんはその都度ちょっとした説明をいれてくれた。飲み物にも気を使ってくれて「柑橘系が好きならこれもどうだ?」と言って、一緒にメニュー表を見ながら考えてくれた。サツマイモの冷製スープに、白身魚のフリット、サーモンのカルパッチョにメインの和牛のロースト、ポルチーニ茸のリゾットに、ティラミスと自家製アイスクリームのセット。どれもこれも美味しいものばかりだった。
「んんー、幸せ。」
こんなに美味しいものを食べたのはこの前のカレーぶりだ。やっぱり美味しいものを食べるといっきに幸せになる。満足感から頬を緩ませていると、不破さんが「千佳子」と呼び掛けてきた。
「なんですか…っ!?」
(あ、ダメだ。)
不破さんに視線を向けたのを後悔した。彼は両手を組んでテーブルに付け、少し前屈みの姿勢で私のことを見つめていた。その瞳はギラギラと輝いていて、思わず吸い込まれそうになる。
「千佳子…。手、握っていいか?」
「っ、やだ!」
不破さんが、同じくテーブルの上に置いてある私の手に視線を向ける。しかし、私はさっきのことを思い出して、素早くその手を引っ込めてしまった。それを見て、不破さんが少しだけ寂しい表情を見せる。
「あっ…。」
「千佳子がいいっていうまで触らない約束だったからな。ちゃんと約束は守る。」
「はい…。」
「…そろそろ出ようか?」
不破さんがナプキンで口を拭いた後、立ち上がって私の傍によってくる。
「行こうか、千佳子。」
まるでシンデレラになった気分。
(一時でだとしても、幸せ。)
私はニコリと微笑んで、不破さんの手をとった。
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