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嵐
第7話
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「ふぅ。」
日もどっぷり暮れた頃、やっと荷物の整理を終わらせたキウラはほっと息をついた。敵国のマゴテリアに侵入するのだから、荷物にも細心の注意を払わなければならない。
「…この部屋にもしばらく帰れないな…。」
埃をかぶらないようにシーツをかけた椅子に座る。散々努力をして小隊長になり、もぎ取った1人部屋。口調のきつい自分は同室の人間とは全くそりが合わなかった。
「いつ退団になってもおかしくなかったのに…。」
思い出すのは、自分がこの第10支団に入団してすぐの10年前。
「かわいいお嬢ちゃんはさっさと家に帰りな!それとも俺といいことしたいのか?」
ぎゃはははと下品に笑う男どもを睨み付ける。第10支団に入団して3か月。必死に訓練について行こうと努力しているが、体ができた男たちと渡り合うのは15歳の自分にとっては至難の業だった。しかも女性騎士はまだまだ少ない。男性騎士からはからかいの対象になってしまっている。
「くそっ!もう一度お願いします!」
それでも喰らいつく。ここで心を折ってしまってはなんのために入団したか分からない。
「あー?まだやんのか?ほんとに俺とヤリたいのか?」
「え?っつ!何をする!!!」
自分の直属の上司である男性騎士が突然、キウラの体を抱き寄せ、無遠慮にその体をなでまわす。
「本当は訓練なんかじゃなくて、触ってほしかったんだろ?ほら、俺の部屋に行くぞ。」
にやにやと笑って顔を寄せてくる男から必死に逃れようとするが、男の力は強い。
「やっ、やめろ!」
「嫌がる振りがうめーじゃねーか。」
まわりの男性騎士もニヤニヤと笑いながらはやし立てる。
(くそ!くそ!女ってだけでこんな目にあわないといけないのか!!!)
誰も自分を助けようとしない。誰も自分を同僚とは見てくれていないのだ。自分はしょせんおもちゃでしかない。キウラが覚悟してぐっと目をつぶった時だった。
「てめーら何してんだ?」
涙目になったキウラが声の方向を見ると、それは最近になって就任した新しい支団長だった。
「あー、支団長様。いや、ちょっと新人に技を教えてただけですよー。」
「そうなんですよ、こいつ本当に練習熱心で。支団長も混ざりますかー?」
男どもがまた下品な声で笑う。
「楽しそうなことしてんじゃねーか。なら遠慮なく混ざらせてもらうぞ。」
(こいつも一緒か!)
助けてくれるのかと一瞬期待したのが馬鹿だった。じたばたと暴れるも、やはり男の腕から逃れることはできない。
「くそ!くそ!」
「おい、暴れんな!」
キウラの頬を男がはたく。
「くぅ!」
痛みからキウラが抵抗をやめると、男が満足そうに笑う。
「それじゃあ最初は支団長様にお譲りしますよ。」
「おー、じゃあ遠慮なく。」
「どうぞどうぞ、ぐぅああ!」
突然キウラの視界から男の姿が消えた。まわりにいた男たちも次々に倒れる。
「なんだーお前ら。めちゃくちゃ弱いじゃねーか。」
アルフォンソが手をぷらぷらと振りながら、地面に座り込んだ男たちを笑う。
「てめぇ!!」
キウラの上司がアルフォンソに殴りかかるが、アルフォンソはそれをやすやすと避け、また男のみぞおちに一発拳を打ち込む。
「ごああ!」
醜い声を上げて、男が地面にへたり込む。その姿を見て、周囲の男たちが恐れるように後ずさる。
「騎士の風上にも置けねー奴らだな、お前ら。俺が支団長になったからにはお前らみてーな屑どもに好き勝手させねーから覚えとけ。とりあえず明日からは来なくていいぞ。」
アルフォンソはもう一度男の腹に蹴りを入れた後、キウラの前まで歩み寄る。
そして、キウラの横っ面をさっきの男よりも強くビンタした。
「っ!!」
「お前はそれでも騎士か!!!お前が守るべき人間が男に襲われていたらどうする!そうやってびーびー泣いていれば誰かが助けてくれると思ってんのか!」
「くっ!!」
何も言い返すことができなかった。そうだ。私は守られるべき存在じゃない。助けてもらう存在ではなく、誰かを守る存在になったのだ。
「お前は騎士だ!女だからとか男だからとか関係ない!騎士として恥じない行動ができるよう努力を怠るな!!」
そう言ってアルフォンソはその場を去った。男たちもいなくなった。しかし、キウラはしばらくその場から動くこともできず、泣き続けた。
日もどっぷり暮れた頃、やっと荷物の整理を終わらせたキウラはほっと息をついた。敵国のマゴテリアに侵入するのだから、荷物にも細心の注意を払わなければならない。
「…この部屋にもしばらく帰れないな…。」
埃をかぶらないようにシーツをかけた椅子に座る。散々努力をして小隊長になり、もぎ取った1人部屋。口調のきつい自分は同室の人間とは全くそりが合わなかった。
「いつ退団になってもおかしくなかったのに…。」
思い出すのは、自分がこの第10支団に入団してすぐの10年前。
「かわいいお嬢ちゃんはさっさと家に帰りな!それとも俺といいことしたいのか?」
ぎゃはははと下品に笑う男どもを睨み付ける。第10支団に入団して3か月。必死に訓練について行こうと努力しているが、体ができた男たちと渡り合うのは15歳の自分にとっては至難の業だった。しかも女性騎士はまだまだ少ない。男性騎士からはからかいの対象になってしまっている。
「くそっ!もう一度お願いします!」
それでも喰らいつく。ここで心を折ってしまってはなんのために入団したか分からない。
「あー?まだやんのか?ほんとに俺とヤリたいのか?」
「え?っつ!何をする!!!」
自分の直属の上司である男性騎士が突然、キウラの体を抱き寄せ、無遠慮にその体をなでまわす。
「本当は訓練なんかじゃなくて、触ってほしかったんだろ?ほら、俺の部屋に行くぞ。」
にやにやと笑って顔を寄せてくる男から必死に逃れようとするが、男の力は強い。
「やっ、やめろ!」
「嫌がる振りがうめーじゃねーか。」
まわりの男性騎士もニヤニヤと笑いながらはやし立てる。
(くそ!くそ!女ってだけでこんな目にあわないといけないのか!!!)
誰も自分を助けようとしない。誰も自分を同僚とは見てくれていないのだ。自分はしょせんおもちゃでしかない。キウラが覚悟してぐっと目をつぶった時だった。
「てめーら何してんだ?」
涙目になったキウラが声の方向を見ると、それは最近になって就任した新しい支団長だった。
「あー、支団長様。いや、ちょっと新人に技を教えてただけですよー。」
「そうなんですよ、こいつ本当に練習熱心で。支団長も混ざりますかー?」
男どもがまた下品な声で笑う。
「楽しそうなことしてんじゃねーか。なら遠慮なく混ざらせてもらうぞ。」
(こいつも一緒か!)
助けてくれるのかと一瞬期待したのが馬鹿だった。じたばたと暴れるも、やはり男の腕から逃れることはできない。
「くそ!くそ!」
「おい、暴れんな!」
キウラの頬を男がはたく。
「くぅ!」
痛みからキウラが抵抗をやめると、男が満足そうに笑う。
「それじゃあ最初は支団長様にお譲りしますよ。」
「おー、じゃあ遠慮なく。」
「どうぞどうぞ、ぐぅああ!」
突然キウラの視界から男の姿が消えた。まわりにいた男たちも次々に倒れる。
「なんだーお前ら。めちゃくちゃ弱いじゃねーか。」
アルフォンソが手をぷらぷらと振りながら、地面に座り込んだ男たちを笑う。
「てめぇ!!」
キウラの上司がアルフォンソに殴りかかるが、アルフォンソはそれをやすやすと避け、また男のみぞおちに一発拳を打ち込む。
「ごああ!」
醜い声を上げて、男が地面にへたり込む。その姿を見て、周囲の男たちが恐れるように後ずさる。
「騎士の風上にも置けねー奴らだな、お前ら。俺が支団長になったからにはお前らみてーな屑どもに好き勝手させねーから覚えとけ。とりあえず明日からは来なくていいぞ。」
アルフォンソはもう一度男の腹に蹴りを入れた後、キウラの前まで歩み寄る。
そして、キウラの横っ面をさっきの男よりも強くビンタした。
「っ!!」
「お前はそれでも騎士か!!!お前が守るべき人間が男に襲われていたらどうする!そうやってびーびー泣いていれば誰かが助けてくれると思ってんのか!」
「くっ!!」
何も言い返すことができなかった。そうだ。私は守られるべき存在じゃない。助けてもらう存在ではなく、誰かを守る存在になったのだ。
「お前は騎士だ!女だからとか男だからとか関係ない!騎士として恥じない行動ができるよう努力を怠るな!!」
そう言ってアルフォンソはその場を去った。男たちもいなくなった。しかし、キウラはしばらくその場から動くこともできず、泣き続けた。
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