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訓練開始
第1話
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「セレーナ。」
窓から月明かりが差し込んでくる真夜中。あまりの寒さから早々に部屋のベッドに潜り込んだアリアネスは、隣のベッドで寝ているセレーナに話しかけた。しばらくすると、隣のベッドから寝返りをうつ音が聞こえてくる。
「…なんですか、お嬢様。今日は早めに休まれるのではなかったのですか。」
アリアネスも体の向きを変えて、セレーナの方を向く。少しだけ眠そうなセレーナはいつもより幼く見えた。
「あの子、いい子だったわね。少しおっちょこちょいな感じだけれど、そんなに目の敵にする必要はないはずよ。」
「一体誰の話をされているのか、全く見当が付きません。明日から厳しい訓練が始まります。早めに就寝されてください、お嬢様。私ももう寝ます。」
「あら、話を終わらせようとしたって無駄よ。あなただって誰のことかぐらい想像がついているはずだわ。私が言っているのはロヴェルのことよ。」
「……あのクソガキの話をするのはおやめだくさい。名前を聞いただけでも虫唾が走ります。」
セレーナが小さく舌打ちをしたのが聞こえた。短き付き合いなはずなのに、よっぽど嫌いになったのだろう。
「クソガキなんてひどいわ。あなたにもしっかり謝っていたしいい子ではない?困ったことがあればいつでも声をかけてほしいとも言ってくれて。この騎士団の人間から考えると、とっても素敵な殿方だと思うわ。」
「お嬢様の見通しは甘すぎますよ。どうせ、支団長や副支団長から命令を受けて、私たちを監視するつもりに決まっています。絶対にそうに決まってますよ。あんな人畜無害そうな顔して、心の中では何を考えているかなんて分かったものじゃありません。ああいう男が寝首をかいたりするですよ!」
眠そうな表情から一変、目を見開いて怒涛のように悪口を言い出すセレーナを見て、アリアネスがクスクスと笑い出した。
「随分とあの子が気になるみたいね、セレーナ?」
アリアネスがそう告げると、セレーナの顔が一気に赤くなる。何か反論をしようとするが、口をパクパクとさせるだけでまともな言葉を吐きだせない。
「あなたはロヴェルのことが気になってるのよ、きっと。恋の予感かもしれないわよ?
「馬鹿なことをおっしゃらないでください!私はあんな男、気になってなどおりません!恋の予感なんて見当違いでえす!!いいから早くお休みになってください!」
むきになるセレーナの態度を笑いながら、アリアネスは目を閉じた。
遠くから鳥の泣き声が聞こえてきた。遠くの空がどんどんと茜色に染まっていく。まだ夜明け前の第10支団の訓練場には既に騎士団全員が集まっていた。
「…アリアネス嬢とセレーナはどうした?」
「はっ、部屋にはおりませんでした。」
5列に並んだ団員たちの前に立つルイは、団員の1人からの報告を受けて顔をしかめる。昨晩告げた集合時刻を既に過ぎているというのに、この場にアリアネスとセレーナの姿はない。どうせ寝坊をしているのだろうと、団員の1人を向かわせたのだが、部屋はもぬけのからだったとのことだった。
「はっ!入団一日で逃げ出すとは。さすが伯爵令嬢だ!」
列の最前線に建っているキウラが馬鹿にしたように笑うと、ほかの団員もアリアネスに対して侮蔑の言葉を吐着始める。
「副支団長、あんな女どものことなど待たずに始めましょう。」
キウラが進言するが、「まだ支団長が来ていない」とルイが溜息をつきながら諌めた。団長も朝の訓練に参加することになっているのだが、アルフォンソはたまに遅れてくることがある。実際、アルフォンソはほとんど訓練には参加せず、最初の訓示をするだけなのだが。
「またか!支団長はいつも遅れていらっしゃる!部屋で書類に熱中されているのだろう!誰か呼んで来い!」
キウラが年下の団員に指示するが「すでに起こしにいきましたが、いらっしゃいませんでした!」と敬礼して答える。
「なに?」
ルイが不審げに表情を曇らせると同時に、門番の任についていた団員が「外の大通りから3人がこちらに向かってきます!」と息を切らせながらキウラに報告しに来た。
「何者だ!ゴロツキどもか何かだろう!追い返せ!」
「それが…。」
言葉を濁す団員に「はっきり言え!」とキウラが叱責する。
「はい!全速力でこちらに向かってくるのは支団長とアリアネス嬢であります!」
「なんだとぉ!?」
団員の報告に、ルイは素っ頓狂な声を上げてしまったのだった。
窓から月明かりが差し込んでくる真夜中。あまりの寒さから早々に部屋のベッドに潜り込んだアリアネスは、隣のベッドで寝ているセレーナに話しかけた。しばらくすると、隣のベッドから寝返りをうつ音が聞こえてくる。
「…なんですか、お嬢様。今日は早めに休まれるのではなかったのですか。」
アリアネスも体の向きを変えて、セレーナの方を向く。少しだけ眠そうなセレーナはいつもより幼く見えた。
「あの子、いい子だったわね。少しおっちょこちょいな感じだけれど、そんなに目の敵にする必要はないはずよ。」
「一体誰の話をされているのか、全く見当が付きません。明日から厳しい訓練が始まります。早めに就寝されてください、お嬢様。私ももう寝ます。」
「あら、話を終わらせようとしたって無駄よ。あなただって誰のことかぐらい想像がついているはずだわ。私が言っているのはロヴェルのことよ。」
「……あのクソガキの話をするのはおやめだくさい。名前を聞いただけでも虫唾が走ります。」
セレーナが小さく舌打ちをしたのが聞こえた。短き付き合いなはずなのに、よっぽど嫌いになったのだろう。
「クソガキなんてひどいわ。あなたにもしっかり謝っていたしいい子ではない?困ったことがあればいつでも声をかけてほしいとも言ってくれて。この騎士団の人間から考えると、とっても素敵な殿方だと思うわ。」
「お嬢様の見通しは甘すぎますよ。どうせ、支団長や副支団長から命令を受けて、私たちを監視するつもりに決まっています。絶対にそうに決まってますよ。あんな人畜無害そうな顔して、心の中では何を考えているかなんて分かったものじゃありません。ああいう男が寝首をかいたりするですよ!」
眠そうな表情から一変、目を見開いて怒涛のように悪口を言い出すセレーナを見て、アリアネスがクスクスと笑い出した。
「随分とあの子が気になるみたいね、セレーナ?」
アリアネスがそう告げると、セレーナの顔が一気に赤くなる。何か反論をしようとするが、口をパクパクとさせるだけでまともな言葉を吐きだせない。
「あなたはロヴェルのことが気になってるのよ、きっと。恋の予感かもしれないわよ?
「馬鹿なことをおっしゃらないでください!私はあんな男、気になってなどおりません!恋の予感なんて見当違いでえす!!いいから早くお休みになってください!」
むきになるセレーナの態度を笑いながら、アリアネスは目を閉じた。
遠くから鳥の泣き声が聞こえてきた。遠くの空がどんどんと茜色に染まっていく。まだ夜明け前の第10支団の訓練場には既に騎士団全員が集まっていた。
「…アリアネス嬢とセレーナはどうした?」
「はっ、部屋にはおりませんでした。」
5列に並んだ団員たちの前に立つルイは、団員の1人からの報告を受けて顔をしかめる。昨晩告げた集合時刻を既に過ぎているというのに、この場にアリアネスとセレーナの姿はない。どうせ寝坊をしているのだろうと、団員の1人を向かわせたのだが、部屋はもぬけのからだったとのことだった。
「はっ!入団一日で逃げ出すとは。さすが伯爵令嬢だ!」
列の最前線に建っているキウラが馬鹿にしたように笑うと、ほかの団員もアリアネスに対して侮蔑の言葉を吐着始める。
「副支団長、あんな女どものことなど待たずに始めましょう。」
キウラが進言するが、「まだ支団長が来ていない」とルイが溜息をつきながら諌めた。団長も朝の訓練に参加することになっているのだが、アルフォンソはたまに遅れてくることがある。実際、アルフォンソはほとんど訓練には参加せず、最初の訓示をするだけなのだが。
「またか!支団長はいつも遅れていらっしゃる!部屋で書類に熱中されているのだろう!誰か呼んで来い!」
キウラが年下の団員に指示するが「すでに起こしにいきましたが、いらっしゃいませんでした!」と敬礼して答える。
「なに?」
ルイが不審げに表情を曇らせると同時に、門番の任についていた団員が「外の大通りから3人がこちらに向かってきます!」と息を切らせながらキウラに報告しに来た。
「何者だ!ゴロツキどもか何かだろう!追い返せ!」
「それが…。」
言葉を濁す団員に「はっきり言え!」とキウラが叱責する。
「はい!全速力でこちらに向かってくるのは支団長とアリアネス嬢であります!」
「なんだとぉ!?」
団員の報告に、ルイは素っ頓狂な声を上げてしまったのだった。
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