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騎士団の洗礼
第6話
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食堂を出るとすぐ、セレーナが立ち止まり、アリアネスに声をかける。振り返ったアリアネスにセレーナは深々と頭を下げた。
「お嬢様、ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。お嬢様付きの従者失格です。」
頭を下げ続けるセレーナの前に、アリアネスがゆっくりと近づいていく。
「私はアリアネス様への侮辱を許してしまいました。本当に従者失格でございます。どうか私に罰をお与えください。」
セレーナの前で立ち止まったアリアネスが下げられ続けている頭に優しく片手を置いた。びくりとセレーナの体が揺れる。
「……そうね、わたくしが伯爵令嬢であれば、主を守れなかった従者に罰を与えなければなりません。」
「はい、どんな罰でもお受けする覚悟はできております。」
「でも、ここにいる私は伯爵令嬢ではありません。ただのアリアネスです。セレーナ、顔を上げなさい。」
アリアネスに促されて、セレーナがゆっくりと顔を上げる。その瞳にはうっすらではあるが涙が浮かんでいた。
「何度もいうように今のわたくしはただのアリアネス。あなたの同僚よ。あなたは友人の名誉を必死で守ろうとしてくれた仲間に罰を与えるの?」
「お嬢様……。」
「いい、セレーナ。わたくしはこんなところで立ち止まるわけにはいかないの。1年という短い期間でラシード様をコテンパンに叩きのめさないといけないの。そして『どうか、俺と結婚してください』とまで言わせないといけないのよ!些末なことにとらわれていてはいけないわ!」
胸を張って宣言するアリアネスの姿に、セレーナがクスリと笑ったあと、その場で姿勢を正す。
「お心の広い我が主に感謝いたします。」
「いいのよ。明日も早いわ。わたくしが部屋の掃除を終わらせておいたから、今日は早めに休みましょう。」
「承知いたしました。」
二人でにやりと笑って、用意された自室へと向かおうとした時。
「お待ちください!」と食堂の方から必死な声が聞こえてくる。
「お嬢様。早く部屋に戻りましょう。明日も早いですから、些細なことに時間をかけている場合ではないとアリアネス様も申し上げておりました。」
「そんな意地悪を言っては可哀想よ。まだ若い男の子なんだから、そんなにいじめては泣いてしまうわ。」
「あんな男のことを気にする必要なんかありません!」
二人が言い合いをしている間に、声をかけてきた張本人である青年が追い付いてきてしまった。
「アリアネス様、セレーナ様!さきほどは大変失礼なことをいたしました。申し訳ありません!」
青年は先ほどのセレーナ以上に深々と頭を下げる。
「構いませんわ。ただあなたは少し人の話を聞くことを心掛けておいたほうが良いかもしれませんわね。」
アリアネスがにこりと笑って歩き出すのに合わせてセレーナも動き出すが、「あの!」と青年が再び声を上げた。
「セレーナ様!自分のせいでアリアネス様がみんなに馬鹿にされて……。本当にすいません!」
またもや青年が頭を下げるが、セレーナは思いっきり無視をする。
「……セレーナ?返事をしてあげないの?」
「……必要ありませんので。」
すたすたと歩くセレーナの前に青年が飛び出してくる。
「セレーナ様!どうかお許しを!あなたがあまりにも美しく、そのつややかな黒髪も東洋の女神とも称されるアリアネス様そのものだと思い込んでしまって!」
「あら、うれしいことを。」
アリアネスが口元に手を当て、ふふふと笑うが、セレーナは「うるさい!!」といらだたしげに叫んだ。
「このクソガキが!アリアネス様の美しさはこの国一番、いや、世界一で唯一無二のものだ!私のものと比べるなんてあまりにもおこがましい!その愚かな口を早く閉じろ!それとも今すぐ縫い付けてやろうか!」
「すっすいません!」
怒りに震え、今にもナイフを取りだそうとするセレーナを見て青年があわてて謝罪する。
「二度と私たちに声をかけるな!私は絶対にお前を許さない!!」
行きましょう、お嬢様!とセレーナがアリアネスの手をとり、早足で歩く。
「セレーナ様、アリアネス様、自分はロヴェルといいます。何かお困りのことがあればいつでもお声かけください!」
「黙れ!」
セレーナの怒声を聞いて、肩を落とす青年を見て、くすりと笑ったアリアネスは顔だけを青年に向けた後、声に出さず「ごきげんよう」と声をかけた。
「お嬢様、ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。お嬢様付きの従者失格です。」
頭を下げ続けるセレーナの前に、アリアネスがゆっくりと近づいていく。
「私はアリアネス様への侮辱を許してしまいました。本当に従者失格でございます。どうか私に罰をお与えください。」
セレーナの前で立ち止まったアリアネスが下げられ続けている頭に優しく片手を置いた。びくりとセレーナの体が揺れる。
「……そうね、わたくしが伯爵令嬢であれば、主を守れなかった従者に罰を与えなければなりません。」
「はい、どんな罰でもお受けする覚悟はできております。」
「でも、ここにいる私は伯爵令嬢ではありません。ただのアリアネスです。セレーナ、顔を上げなさい。」
アリアネスに促されて、セレーナがゆっくりと顔を上げる。その瞳にはうっすらではあるが涙が浮かんでいた。
「何度もいうように今のわたくしはただのアリアネス。あなたの同僚よ。あなたは友人の名誉を必死で守ろうとしてくれた仲間に罰を与えるの?」
「お嬢様……。」
「いい、セレーナ。わたくしはこんなところで立ち止まるわけにはいかないの。1年という短い期間でラシード様をコテンパンに叩きのめさないといけないの。そして『どうか、俺と結婚してください』とまで言わせないといけないのよ!些末なことにとらわれていてはいけないわ!」
胸を張って宣言するアリアネスの姿に、セレーナがクスリと笑ったあと、その場で姿勢を正す。
「お心の広い我が主に感謝いたします。」
「いいのよ。明日も早いわ。わたくしが部屋の掃除を終わらせておいたから、今日は早めに休みましょう。」
「承知いたしました。」
二人でにやりと笑って、用意された自室へと向かおうとした時。
「お待ちください!」と食堂の方から必死な声が聞こえてくる。
「お嬢様。早く部屋に戻りましょう。明日も早いですから、些細なことに時間をかけている場合ではないとアリアネス様も申し上げておりました。」
「そんな意地悪を言っては可哀想よ。まだ若い男の子なんだから、そんなにいじめては泣いてしまうわ。」
「あんな男のことを気にする必要なんかありません!」
二人が言い合いをしている間に、声をかけてきた張本人である青年が追い付いてきてしまった。
「アリアネス様、セレーナ様!さきほどは大変失礼なことをいたしました。申し訳ありません!」
青年は先ほどのセレーナ以上に深々と頭を下げる。
「構いませんわ。ただあなたは少し人の話を聞くことを心掛けておいたほうが良いかもしれませんわね。」
アリアネスがにこりと笑って歩き出すのに合わせてセレーナも動き出すが、「あの!」と青年が再び声を上げた。
「セレーナ様!自分のせいでアリアネス様がみんなに馬鹿にされて……。本当にすいません!」
またもや青年が頭を下げるが、セレーナは思いっきり無視をする。
「……セレーナ?返事をしてあげないの?」
「……必要ありませんので。」
すたすたと歩くセレーナの前に青年が飛び出してくる。
「セレーナ様!どうかお許しを!あなたがあまりにも美しく、そのつややかな黒髪も東洋の女神とも称されるアリアネス様そのものだと思い込んでしまって!」
「あら、うれしいことを。」
アリアネスが口元に手を当て、ふふふと笑うが、セレーナは「うるさい!!」といらだたしげに叫んだ。
「このクソガキが!アリアネス様の美しさはこの国一番、いや、世界一で唯一無二のものだ!私のものと比べるなんてあまりにもおこがましい!その愚かな口を早く閉じろ!それとも今すぐ縫い付けてやろうか!」
「すっすいません!」
怒りに震え、今にもナイフを取りだそうとするセレーナを見て青年があわてて謝罪する。
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行きましょう、お嬢様!とセレーナがアリアネスの手をとり、早足で歩く。
「セレーナ様、アリアネス様、自分はロヴェルといいます。何かお困りのことがあればいつでもお声かけください!」
「黙れ!」
セレーナの怒声を聞いて、肩を落とす青年を見て、くすりと笑ったアリアネスは顔だけを青年に向けた後、声に出さず「ごきげんよう」と声をかけた。
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