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騎士団の洗礼

第3話

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 凄まじい勢いでドアを蹴破ってきたアリアネスの姿を見て、先ほどまで大きく口を開けて笑っていた団員達の動きが一斉にピタリと止まった。すらりと伸びた美しい足が露になって、思わず顔を赤くしてしまった団員もちらほらいる。

「あら、ごめんあそばせ?」

 何事もなかったかのように、スカートとの裾を整えて、アリアネスが淑女の礼をとる。そして、セレーナに向き直り、仁王立ちになった。

「やめなさい、セレーナ!私の上司を早速殺すつもりなの?」

「しっ、しかし!お嬢様を貶めるような奴らなど、この世に生きている価値などございません!」
「あなたもわたくしのことをとことん馬鹿にするじゃない。」
「わたくしはいいのです!しかしこの豚どもは!」
「豚って…。ほら、そんなことを言ったら騎士団の皆様が傷ついてしまうわ。言葉を選びなさい?」

 セレーナが太ももから取り出した短剣を手刀によって叩き落とす。それらを床から拾い上げたアリアネスが呆然と立ち尽くしている騎士団員たちに向かって微笑みかけた。そこでやっと我に帰ったのか、ルイが前に進み出てきた。

「アリアネス様…その恰好は。」
「恰好?何か問題があられますか、ルイ副支団長?」

 ルイが声をかけるのも無理はなかった。今のアリアネスの格好は薄汚れた木綿のブラウスに乗馬で着古したグレーのズボンとブーツ。頭には掃除で汚れないよう頭巾をかぶっていた。

「伯爵令嬢がそのような恰好を…。」
「あら?騎士団での私はただのアリアネスですわ。あなたも先ほどそのようにおっしゃっていたはずでしょう?」
「それはそうですが……。」

 でもまさかそんな格好をするとは思っておらず、ルイは困惑した表情を見せる。

「伯爵令嬢など関係ありません。ならばどのような恰好をしてもかまわないはずです。そうよね、セレーナ?」
「その通りです、お嬢様。しかし、ブラウスはだいぶ前のものを使われているせいか、胸元がだいぶきつくなっておりますね。早急に新しいものを手配いたします。」

 冷静な態度に戻りつつあるセレーナが、アリアネスの側に近寄って、胸元のボタンを上まで締める。

「必要ないわ。この手触りが気に入ってるの。」
「聞き入れられません、お嬢様。明らかに胸のサイズに合っておりません。これではそうそうにボタンが弾けとんでしまいます。」

 幾人かの団員が思わずといったようにアリアネスの胸元を見る。胸が大きすぎて閉まらないブラウスを見て、またもや頬を染めるものも多い。


「この雌狐!そうやって自分の体を見せつけて男を籠絡するつもりか!」

 突然食堂内に女の怒声が響き渡る。アリアネスとセレーナが声の方向に顔を向けると、先ほど部屋まで案内をしてくれた女が怒りで顔を歪ませていた。しかし、アリアネスはその声に反応せず、ルイの方へ向き直る。

「ルイ支団長?食事はお盆を持って、列に並べばいいのかしら?」
「あっ、あぁ。」
「セレーナ、並びましょう。わたくし、お腹がぺこぺこなの。」
「承知いたしました。お嬢様は座られてはいかがですか?わたくしが二人分並びます。」
「はっ、召使に全部おまかせってか!」

ほかの団員からすかさずヤジが飛ぶ。

「といわれるみたいだから自分で並ぶのがよさそうね。」

 アリアネスは汚い言葉を吐いた団員に対して優雅に笑いかけ、食事の列に並んだ。
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