神さまに嘘

４

　どんな顔をするかな。思う。めんどくさいことなんて考えない。ただ、私について考えた。家に向かう足を止めない心が、ただひたすらに軋む。捻れた一本のピアノの線が、壊れた時計の針を何度も何度も強く叩く。鈍い音が出る。そのまま、そのまま...

 　私は深呼吸をしようとした。

　「ハー、ハー、」

　気がつけば走っていた。必死に、何かを求めるように、私の足は大きく動いた。なんだ、意外と、まんざらでもないんだね。私に会うこと、そのことの事情がどんなに複雑だとしても、会いたいか会いたくないか、その内容はすごくシンプルだ。呼吸を荒くしながら、膝についた手をぎゅっと握る。汗が身体から染みてきて、前髪は雑に乱れた。その奥から覗くように、私には見る方向があった。一枚の窓だ。もうそこに見えるんだ。私の家が。一直線に走ってきて、たどり着いた場所は、密集した住宅街。一軒一軒重なるように並んだ規則正しい配列の中に、築何十年かの家は、一つもない。まだ新しい家の色調が整列するように並んで、奥まで広がっている。一つ一つを見れば、立派な建物だ。ヘンテコな屋根も、錆びれた玄関も見当たらない。ズラッと広い土地の中に詰められた現代社会の建造物は、そのどれもが、仲良く肩を寄せ合いながら、うず高い景色の中に溶け込んでいる。窮屈そうな顔は一つもない。

　バレないようにバレないように。私の部屋の窓にはカーテンがかかってる。だから外の様子は見えない。私は生まれてから、この住宅街の中で、たくさんの時間を過ごした。隣の人がどんな顔で、三軒先の犬がどんな鳴き声で鳴くのか知っている。今日も、近所の坂本さんは、朝早くから出かけて、車がもうない。仕事だ。いつも気になっている。どんな仕事をしているのだろうかと。