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天使救出編
時間が無いぞ
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影落ちで移動し続けてだいぶ経った頃、ようやく街が見えてきた。
といっても地面の下からだけど。
木々が疎らに生えた草原の中にジーラの街はある。
街が壁に囲まれているという点ではスータの町と同じだが、広さが違う。
スータより、一回りも二回りも広く、街の壁だって更に立派である。
そんな街の中に影落ち状態のまま俺達は進んでいく。
本当は街の外で魔法を解除して門から正式に入った方が良いんだけど、今回は緊急事態なので省略だ。
ちなみにこれは、バレルさん達がそう許可してるからであって、俺の判断じゃないからな!
こんな街の入り方したら、下手しなくても捕まるわ。
街の外周区画から更に奥へ、中心区画に向かって進む。
貴族街のような見目の良い建物が並ぶと思いきや、無骨な建物が多く並んでいる。
ただ、今は街並みを気にしてる場合じゃない。
中心区画の更に中心地。
そこに大きな壁に覆われた、屋敷が建つ。
その屋敷こそ、この街を治める町長の家らしい。
いや、バレルさんのとこより大きいやん。
まぁ、とりあえず庭にでも……。
《屋敷全域に侵入者用の結界が張られています。このまま突破しますか?》
屋敷の中に入る前に賢者先生がとんでもない事いってきた。
いやいや!突破しちゃダメでしょ!
緊急事態だし、既に街にも無断で侵入してるけども!
流石に結界破壊して侵入したら問題過ぎる!
という訳で急ブレーキをかけて門の少し手前で止まり、影落ちを解除した。
俺も含め全員が地面からスッと出てくるのは異様だろうね。
現に門番達は何事かと狼狽えてるわ。
俺は全員がきちんと出てきた事を確認しながら、周りも確認する。
警戒する門番達以外に人影はあまり見えない。
さっきの中心区画と、ここの町長屋敷までには少し距離があるみたいだ。
「お前達は何者だ!」
周りを確認してると、門番達から警告が飛んできた。
領主達を見ると、影落ちの移動速度に驚いているみたいだ。
こっちがドヤ顔したくなるぐらいのリアクションなのは良いんだけど、門番に何か言って欲しい。
今めっちゃ警戒されてるからな。
と、思ったらバレルさんが正気に戻り、門番に話しかけに行った。
「こんなに早く到着するとは……素晴らしい魔法ですね」
バレルさんの執事さんがいつの間にか寄ってきて話しかけてくる。
少し話をすると、執事さんは元々冒険者であった事実が発覚した。
引退した後、バレルさんに雇われたらしい。
見た目的に全然わからないけど……あ、もしかして戦士じゃなくて魔法主体って可能性もあるか。
魔法に反応してるし。
と考えてた所で、バレルさんが話を終わらせたらしく、門番の一人が走って屋敷の中に入っていった。
すると、逆の方向――街の方から複数の人がこちらに向かってくるのが感知でわかった。
そっちの方を見ると武装した男達が走ってくるのが見えた。
なんだ?と思ってると、執事さんも俺の視線に気付いて男達の方を向く。
「おや?冒険者の方達ですね、何かあったのでしょうか」
どうやら彼らは俺と同じく冒険者らしい。
近くまで来ると獣人やエルフの姿がある事がわかった。
種族混合パーティーらしい。
彼らは真っ直ぐこっちに向かってきて、数メートル手前で止まった。
パーティーの一人がこっちをジッと見つめてくる。
浅黒いちょっと暗めな人で全然目を逸らしてくれない。
すんごいガン飛ばしてきやがる。
『リーダー、背の低い方だ』
冒険者がなんの用だろうと思ってたら、なんか声が聞こえた。
でも執事さんの声じゃないし、目の前の冒険者達は誰も口開いてないし……。
《【万能感知】の効果により【魔法通話】の傍受に成功しております》
疑問に思ってた所で賢者先生がそんな事を報告してきた。
名前からして離れた所にいる相手に声を届ける魔法だろうけど、そんなものがあったのか。
俺の世界では機械でやってた事を魔法で出来るのは便利だな。
それに今見たように声に出さないから内緒話もできるし。
でも俺みたいなやつがいたら意味無いか。
で、なんの話だ?
冒険者達の真ん中にいた男が一歩前に出てきた。
一見、優しそうなおじさんだけどベテランって感じの雰囲気がある。
多分この人がリーダーだ。
「冒険者の方達ですかな?こんにちは、私は領主であるバレル様の筆頭執事をしておりますシュラーといいます」
「なんと……!あ、いや、私は“光の剣”のリーダーでカジェフといいます、どうぞお見知り置きください」
そう言って頭を下げてくるリーダー、カジェフさん。
その時にチラッと執事さんの事を観察してたのを俺は見逃していない。
というか、執事さん、シュラーって名前なのか。
「なるほど、わかりました。それで、冒険者の方々は町長殿に様なのですかな?」
少し前に出て執事さんが応対してくれる。
俺を守ろうとしてくれた訳じゃないと思うけど、こういう事が自然と出来る人がモテるのかと変に関心してしまう。
まぁ、この世界でモテても男にしか効果ないから無意味だけどな!
「いえ、先程怪しい魔法を感知しまして、それを追って来たら皆さんがいた訳です」
そう言って俺達を見回すカジェフさん。
って、怪しい魔法って影落ちの事か?
そりゃ、街中を突っ切ったら誰かしら気付くか。
なんて考えてる間にも話は続いていく。
「でもまさかシュラー殿に会えるとは、幸運に感謝します」
そう言って執事さんを見るカジェフさん。
なんか執事さんを知ってる感じだけど……。
「もう引退した身ですから」
そう言って笑う執事―シュラーさん。
ベテランって感じのカジェフさんが喜んでるし、執事さんってけっこう凄い冒険者だったみたいだな。
多分。
「シュラー殿でしたら移動魔法が使えるのも納得でしたが……」
その時チラッとカジェフさんが俺の方を見た。
ちなみに、暗めな人はさっきからずっと俺の方をガン見してる。
これメンチ切られてる?カマした方がいいやつ?
なんて思ってると、カジェフさんが口を開いた。
「隣の子はお弟子さんでしょうか?」
と、執事さんに聞いた。
カジェフさんの話だと執事さんは移動魔法が使えるっぽいけど、だからってなんで俺が弟子なの?
普通、執事見習いじゃない?
まぁ執事服なんて着てないけどさ。
そう考えてると賢者先生から情報が。
《移動魔法を使ったのが所持者ではないかと探っている状態のようです》
つまりカジェフさん達は元冒険者のシュラーさんじゃなくて隣の俺を警戒してるって事ね。
だから暗めな人がこっちを見てるのか。
そう言えばコイツ、魔法通話でカジェフさんに何か報告してたな。
あれって、魔法を使ったのが俺、って報告だったのか。
で、俺の正体を確認しようとしている、と。
「あぁ、紹介が遅れましたね、私の弟子ではありませんが、訳あって協力頂いている冒険者のユウト殿です」
そう言って前に出してくるので、仕方ないから挨拶する。
ずっとチラチラ見られてるからなんか嫌な感じだ。
バレルさんはなんか遠目にこっち見てるだけなんだけど、助けてくれないの?
領主でしょうが、なんか話しかけてきてよ。
「ユウトです、どうぞよろしくお願いします」
「おお!冒険者だったのか!なるほど……。もう一度言うがカジェフだ、よろしく頼む」
さっきの感じと変わって明るい笑顔を浮かべるカジェフさん。
ちょっと緊張気味というか、固くなってた顔が緩んでいた。
こっちも冒険者ってわかって気が緩んだのかな?
と、門の方で何かあったようだ。
「少し失礼しますね」
執事さんがバレルさんの方へ向かい、少ししてから戻ってきた。
話によるとバレルさんはこれから町長と緊急会談をするらしい。
支援とか、対策とか色々話し合うみたいだな。
「さっきから思ってたんですが、領主さんとやらも来てるってのは余程の何かがあったんですか?」
カジェフさんがそう聞いてくる。
そういえば、カジェフさん達に説明はしてなかった。
警戒されるんだったら最初っから説明してればよかったわ。
「この街にも関係ありますからね」
執事さんがそう言ってから続けて現在のスータの町の状況と、解決の為の支援を要請する為にここに来た事を説明した。
話を聞いていく内にカジェフさん達が険しい顔になっていく。
「そいつは相当ヤバいですね……。ふーむ、この街にいる冒険者を廻したとしても、そこまで役に立てるか……」
ブツブツと独り言を言いながらカジェフさんが考え始めた。
カジェフさんのチームの面々も各々話し合っている。
その前に執事さんに聞きたい事があった。
「執事さ……シュラーさん、後どのくらいで助けに帰れますか?」
一秒でも早くスータの町に戻って支援しなきゃいけない。
影落ちは無限に人を運べる訳じゃないから、ピストン輸送になるけど、冒険者みんなを運ぶ事は出来る。
物資に関しては問題外。
俺が無量空間にしまっちゃえばそれで終わり。
最悪、転移を使ってもいい。
皆にバレてしまうけど、仕方ない。
と、色々考えていたのだが、執事さんの言葉に思考が止まってしまった。
「兵士の選別に冒険者ギルドへの緊急依頼、それに物資の確保……全てが揃うまで最短でも三日、といった所でしょうか」
「え……」
信じられない。
三日?遅すぎる。もっと数時間単位だと思ってたのに。
……いや、普通はそうなのかもしれない。
助けに行くとしても、この街の兵士全員という訳にはいかないのだ。
まずは戦う人材を選ぶ事から始まる。
冒険者だって同じ事。
物資だって、常に倉庫に入ってる訳じゃない。
色んな所からかき集めなきゃいけないなら時間がかかるに決まってる。
俺みたいに個人で動いて魔法も色々使えて物を入れるアイテムボックスがある方がおかしいんだ。
でも、三日も待ってたらヤテ君達が……。
「も、もう少し早くならないんですかッ?時間がかかると町が……」
執事さんにそう言い募っていると、カジェフさんが近付いてきた。
「ユウト君、その町には君の大切な人がいるのかな?」
大切な人……。
冒険者ギルドのヤテ君の顔が過ぎる。
友達……とまではいかないのかもしれないけど、この世界に来て冒険者になる時からずっと助けてくれて、それからも色々あったけど大切かと言われたら、“そうだ”と言い切れる。
だからカジェフさんに頷く。
「……なら助けなくちゃな」
「リーダー!?」
チームの一人が声を上げた。
他の人達は何も言わない。
せいぜい肩をすくめるだけだ。
それに反応せずカジェフさんは俺をジッと見て更に続ける。
「俺達がここに来る事になった原因の魔法……あれはユウト君、君の魔法だね?」
「そうです」
確信はしてなかったみたいだけど、俺としてもここまで来たら隠す必要はないと考えた。
どうせバレルさん達に使っちゃったし。
だから肯定する。
カジェフさんは頷くと、口を開いた。
「あれで俺達を町まで輸送して欲しい」
――――――――――――
いつもお読みいただきありがとうございます。
今年初めての投稿ですが……この小説を初めて投稿してから五年が経ちました!
ここまで来れているのは応援してくれる皆様のおかげです!
これからも頑張っていきますので、【こんな異世界望んでません!】をどうぞ宜しくお願いします!
といっても地面の下からだけど。
木々が疎らに生えた草原の中にジーラの街はある。
街が壁に囲まれているという点ではスータの町と同じだが、広さが違う。
スータより、一回りも二回りも広く、街の壁だって更に立派である。
そんな街の中に影落ち状態のまま俺達は進んでいく。
本当は街の外で魔法を解除して門から正式に入った方が良いんだけど、今回は緊急事態なので省略だ。
ちなみにこれは、バレルさん達がそう許可してるからであって、俺の判断じゃないからな!
こんな街の入り方したら、下手しなくても捕まるわ。
街の外周区画から更に奥へ、中心区画に向かって進む。
貴族街のような見目の良い建物が並ぶと思いきや、無骨な建物が多く並んでいる。
ただ、今は街並みを気にしてる場合じゃない。
中心区画の更に中心地。
そこに大きな壁に覆われた、屋敷が建つ。
その屋敷こそ、この街を治める町長の家らしい。
いや、バレルさんのとこより大きいやん。
まぁ、とりあえず庭にでも……。
《屋敷全域に侵入者用の結界が張られています。このまま突破しますか?》
屋敷の中に入る前に賢者先生がとんでもない事いってきた。
いやいや!突破しちゃダメでしょ!
緊急事態だし、既に街にも無断で侵入してるけども!
流石に結界破壊して侵入したら問題過ぎる!
という訳で急ブレーキをかけて門の少し手前で止まり、影落ちを解除した。
俺も含め全員が地面からスッと出てくるのは異様だろうね。
現に門番達は何事かと狼狽えてるわ。
俺は全員がきちんと出てきた事を確認しながら、周りも確認する。
警戒する門番達以外に人影はあまり見えない。
さっきの中心区画と、ここの町長屋敷までには少し距離があるみたいだ。
「お前達は何者だ!」
周りを確認してると、門番達から警告が飛んできた。
領主達を見ると、影落ちの移動速度に驚いているみたいだ。
こっちがドヤ顔したくなるぐらいのリアクションなのは良いんだけど、門番に何か言って欲しい。
今めっちゃ警戒されてるからな。
と、思ったらバレルさんが正気に戻り、門番に話しかけに行った。
「こんなに早く到着するとは……素晴らしい魔法ですね」
バレルさんの執事さんがいつの間にか寄ってきて話しかけてくる。
少し話をすると、執事さんは元々冒険者であった事実が発覚した。
引退した後、バレルさんに雇われたらしい。
見た目的に全然わからないけど……あ、もしかして戦士じゃなくて魔法主体って可能性もあるか。
魔法に反応してるし。
と考えてた所で、バレルさんが話を終わらせたらしく、門番の一人が走って屋敷の中に入っていった。
すると、逆の方向――街の方から複数の人がこちらに向かってくるのが感知でわかった。
そっちの方を見ると武装した男達が走ってくるのが見えた。
なんだ?と思ってると、執事さんも俺の視線に気付いて男達の方を向く。
「おや?冒険者の方達ですね、何かあったのでしょうか」
どうやら彼らは俺と同じく冒険者らしい。
近くまで来ると獣人やエルフの姿がある事がわかった。
種族混合パーティーらしい。
彼らは真っ直ぐこっちに向かってきて、数メートル手前で止まった。
パーティーの一人がこっちをジッと見つめてくる。
浅黒いちょっと暗めな人で全然目を逸らしてくれない。
すんごいガン飛ばしてきやがる。
『リーダー、背の低い方だ』
冒険者がなんの用だろうと思ってたら、なんか声が聞こえた。
でも執事さんの声じゃないし、目の前の冒険者達は誰も口開いてないし……。
《【万能感知】の効果により【魔法通話】の傍受に成功しております》
疑問に思ってた所で賢者先生がそんな事を報告してきた。
名前からして離れた所にいる相手に声を届ける魔法だろうけど、そんなものがあったのか。
俺の世界では機械でやってた事を魔法で出来るのは便利だな。
それに今見たように声に出さないから内緒話もできるし。
でも俺みたいなやつがいたら意味無いか。
で、なんの話だ?
冒険者達の真ん中にいた男が一歩前に出てきた。
一見、優しそうなおじさんだけどベテランって感じの雰囲気がある。
多分この人がリーダーだ。
「冒険者の方達ですかな?こんにちは、私は領主であるバレル様の筆頭執事をしておりますシュラーといいます」
「なんと……!あ、いや、私は“光の剣”のリーダーでカジェフといいます、どうぞお見知り置きください」
そう言って頭を下げてくるリーダー、カジェフさん。
その時にチラッと執事さんの事を観察してたのを俺は見逃していない。
というか、執事さん、シュラーって名前なのか。
「なるほど、わかりました。それで、冒険者の方々は町長殿に様なのですかな?」
少し前に出て執事さんが応対してくれる。
俺を守ろうとしてくれた訳じゃないと思うけど、こういう事が自然と出来る人がモテるのかと変に関心してしまう。
まぁ、この世界でモテても男にしか効果ないから無意味だけどな!
「いえ、先程怪しい魔法を感知しまして、それを追って来たら皆さんがいた訳です」
そう言って俺達を見回すカジェフさん。
って、怪しい魔法って影落ちの事か?
そりゃ、街中を突っ切ったら誰かしら気付くか。
なんて考えてる間にも話は続いていく。
「でもまさかシュラー殿に会えるとは、幸運に感謝します」
そう言って執事さんを見るカジェフさん。
なんか執事さんを知ってる感じだけど……。
「もう引退した身ですから」
そう言って笑う執事―シュラーさん。
ベテランって感じのカジェフさんが喜んでるし、執事さんってけっこう凄い冒険者だったみたいだな。
多分。
「シュラー殿でしたら移動魔法が使えるのも納得でしたが……」
その時チラッとカジェフさんが俺の方を見た。
ちなみに、暗めな人はさっきからずっと俺の方をガン見してる。
これメンチ切られてる?カマした方がいいやつ?
なんて思ってると、カジェフさんが口を開いた。
「隣の子はお弟子さんでしょうか?」
と、執事さんに聞いた。
カジェフさんの話だと執事さんは移動魔法が使えるっぽいけど、だからってなんで俺が弟子なの?
普通、執事見習いじゃない?
まぁ執事服なんて着てないけどさ。
そう考えてると賢者先生から情報が。
《移動魔法を使ったのが所持者ではないかと探っている状態のようです》
つまりカジェフさん達は元冒険者のシュラーさんじゃなくて隣の俺を警戒してるって事ね。
だから暗めな人がこっちを見てるのか。
そう言えばコイツ、魔法通話でカジェフさんに何か報告してたな。
あれって、魔法を使ったのが俺、って報告だったのか。
で、俺の正体を確認しようとしている、と。
「あぁ、紹介が遅れましたね、私の弟子ではありませんが、訳あって協力頂いている冒険者のユウト殿です」
そう言って前に出してくるので、仕方ないから挨拶する。
ずっとチラチラ見られてるからなんか嫌な感じだ。
バレルさんはなんか遠目にこっち見てるだけなんだけど、助けてくれないの?
領主でしょうが、なんか話しかけてきてよ。
「ユウトです、どうぞよろしくお願いします」
「おお!冒険者だったのか!なるほど……。もう一度言うがカジェフだ、よろしく頼む」
さっきの感じと変わって明るい笑顔を浮かべるカジェフさん。
ちょっと緊張気味というか、固くなってた顔が緩んでいた。
こっちも冒険者ってわかって気が緩んだのかな?
と、門の方で何かあったようだ。
「少し失礼しますね」
執事さんがバレルさんの方へ向かい、少ししてから戻ってきた。
話によるとバレルさんはこれから町長と緊急会談をするらしい。
支援とか、対策とか色々話し合うみたいだな。
「さっきから思ってたんですが、領主さんとやらも来てるってのは余程の何かがあったんですか?」
カジェフさんがそう聞いてくる。
そういえば、カジェフさん達に説明はしてなかった。
警戒されるんだったら最初っから説明してればよかったわ。
「この街にも関係ありますからね」
執事さんがそう言ってから続けて現在のスータの町の状況と、解決の為の支援を要請する為にここに来た事を説明した。
話を聞いていく内にカジェフさん達が険しい顔になっていく。
「そいつは相当ヤバいですね……。ふーむ、この街にいる冒険者を廻したとしても、そこまで役に立てるか……」
ブツブツと独り言を言いながらカジェフさんが考え始めた。
カジェフさんのチームの面々も各々話し合っている。
その前に執事さんに聞きたい事があった。
「執事さ……シュラーさん、後どのくらいで助けに帰れますか?」
一秒でも早くスータの町に戻って支援しなきゃいけない。
影落ちは無限に人を運べる訳じゃないから、ピストン輸送になるけど、冒険者みんなを運ぶ事は出来る。
物資に関しては問題外。
俺が無量空間にしまっちゃえばそれで終わり。
最悪、転移を使ってもいい。
皆にバレてしまうけど、仕方ない。
と、色々考えていたのだが、執事さんの言葉に思考が止まってしまった。
「兵士の選別に冒険者ギルドへの緊急依頼、それに物資の確保……全てが揃うまで最短でも三日、といった所でしょうか」
「え……」
信じられない。
三日?遅すぎる。もっと数時間単位だと思ってたのに。
……いや、普通はそうなのかもしれない。
助けに行くとしても、この街の兵士全員という訳にはいかないのだ。
まずは戦う人材を選ぶ事から始まる。
冒険者だって同じ事。
物資だって、常に倉庫に入ってる訳じゃない。
色んな所からかき集めなきゃいけないなら時間がかかるに決まってる。
俺みたいに個人で動いて魔法も色々使えて物を入れるアイテムボックスがある方がおかしいんだ。
でも、三日も待ってたらヤテ君達が……。
「も、もう少し早くならないんですかッ?時間がかかると町が……」
執事さんにそう言い募っていると、カジェフさんが近付いてきた。
「ユウト君、その町には君の大切な人がいるのかな?」
大切な人……。
冒険者ギルドのヤテ君の顔が過ぎる。
友達……とまではいかないのかもしれないけど、この世界に来て冒険者になる時からずっと助けてくれて、それからも色々あったけど大切かと言われたら、“そうだ”と言い切れる。
だからカジェフさんに頷く。
「……なら助けなくちゃな」
「リーダー!?」
チームの一人が声を上げた。
他の人達は何も言わない。
せいぜい肩をすくめるだけだ。
それに反応せずカジェフさんは俺をジッと見て更に続ける。
「俺達がここに来る事になった原因の魔法……あれはユウト君、君の魔法だね?」
「そうです」
確信はしてなかったみたいだけど、俺としてもここまで来たら隠す必要はないと考えた。
どうせバレルさん達に使っちゃったし。
だから肯定する。
カジェフさんは頷くと、口を開いた。
「あれで俺達を町まで輸送して欲しい」
――――――――――――
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今年初めての投稿ですが……この小説を初めて投稿してから五年が経ちました!
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