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天使救出編

金持ちは違うな

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 目の前にはでっかい建物。
 町の中心に聳え立つ屋敷だ。
 屋敷の周りは大きな塀で囲まれており、中はあまり見えない。
 と、言っても俺はその塀の中にいるんだけど。

 ヤテ君が俺に頼んだのは、領主の避難だった。
 俺が影落ちの魔法の事を教えたヤテ君が考えて出した提案は、領主を避難させて周りの町に助けを求めるというもの。
 湖の件で戦える人材が町から減っている今、一刻の猶予もないという。
 一応、近くの町に助けを求めて早馬……早リャマを出したみたいだけど、その町も常駐戦力がここと同じくらいらしく、残念ながらそこまで助けにならないらしい。
 それでも救援要請をするって事はそれだけマズイ状況って事だ。
 だから少し遠いが常駐戦力が多い街へ領主を避難させる兼、救援要請をするという事になった。
 なぜ早リャマでその街に行かないのかと疑問に思うかもしれないが、その街に行くには山を越えなければ行けないという問題があったのだ。
 そしてその山は結構やっかいな魔物が多数いるらしく、やられる可能性が高いらしい。
 その点、影落ちは地面―正確には違うが―に潜るのでどれだけ山があって魔物がいても一直線に目的地に移動出来る。
 なので遠くの街まで短時間で救援を求めに行く事が出来るわけだ。

 そんな訳で、俺は領主の屋敷にいる。
 本当は前線で一緒に戦いたいが、魔物がいつまでやって来るのかわからないし、ずっとはさすがに戦えない。
 それよりも領主や、町の人達を安全な所に送った方が確実だ。
 領主の屋敷の割にはあまり人がいないが、こんな状況で門番も何もないらしく、必要最低限の兵だけ残して後は迎撃に向かっているらしい。
 ヤテ君がそう言ってた。

「ユウト殿ですね、こちらへどうぞ」

 屋敷の扉の前に立っていた執事の人がこちらに気付いてやってきた。
 俺は会釈して、そのまま屋敷の中を案内される。
 前に通った時に想像したイメージとは違い、ギラギラの装飾品ではなく、落ち着いた花瓶やら絵画やらが一定の間隔で置かれていた。
 そのまま長い廊下を歩き、だいぶ奥まで来た時、行き止まりに両開き扉があった。
 きっとここに領主がいるんだろう。
 そう言えば領主の名前全然知らないな。

「こちらに領主でありますバレル様がいらっしゃいます、もう暫くお待ちくださいませ」

「あ、はい」

 と、思ってたら執事の人が教えてくれた。
 ……まさか心読まれた訳じゃないよね?
 執事ってなんかそういう能力ありそうだし。

《精神能力の干渉は確認出来ませんでした》

 心の中で震えてたら、賢者先生から報告があった。
 良かった、心読まれてたら色々不味かったもんね。
 とりあえず用意されてたソファで待つ事にする。
 あと、なんか目の前に白っぽい飲み物出されたけど、飲んでいいのかな?
 まぁ、毒が入ってるわけじゃないだろうし、仮に入ってても無効化出来るからいいけど。


「待たせてしまったようだね」


 テーブルに出された白っぽい飲み物……多分ミルク系だと思うけど、それを飲んでたら領主らしい人が来た。
 想像してた背脂マシマシ太っちょではなく、スラリとしたおじさんだった。
 こういうのってイケおじって言うんだったか?

「私はここの領主をしているバレルという。どうぞよろしく」

「あ、ユウトです、よろしくお願いします」

 一応ソファから立ち上がって頭を下げる。
 なんか緊張するな。
 少し前まで皇帝とか皇子とかと会ってたのに。
 まぁ皇子相手に緊張したかって言うと……ねぇ?
 あのツンデレ猫かぶり皇子になんて緊張する方がおかしいわ。
 あ、とりあえず話をしなければ。

「それで、これからについて何だが―――」

 バレルさんが口を開いて話は始まった。


・・・


「――と、言うことで問題ないかね?」


「大丈夫です」

 領主のバレルさんの言葉から始まった避難計画は、俺の頷きを持って終わる。

「では、私とここにいる筆頭執事……それと事務官と警護人を含めた複数人の移送を――の、前にこれを確認してほしい」

 バレルさんがテーブルに複数枚の書類を出してきた。
 見ると最初の紙に「特別契約書」と書かれている。
 話を聞くと、今回の影落ち移送は領主からギルドを通しての依頼になるという。
 ただ、書類を受け取って中身を見てみても全然わからん。
 まぁ、こういう時の賢者先生よ!ヘルプ!

《……契約書に害意のある文言は確認出来ません》

 なんかビミョーに間が空いたけど、気にしないでおくか。
 問題は無いみたいだし。
 と、賢者先生が確認したけど、一応読んでるフリをしていた俺の目にとんでもないものが映る。

「はっ!?」

 契約書の最後の方。
 依頼だからこそあるその項目。
 それは報酬の項目。

「少ないかね?今回の件は類を見ないものだから我々もギルドも少し手探りなのだよ、もし足りなければ更に付けよう」

「いえ!だ、大丈夫です!」

 反射的に応えたけど、これ以上貰うのは逆に怖いわ!
 だってめっちゃ高いよ!?
 今までの依頼――そもそもそんなに依頼受けてないけど――を全てひっくるめてもここまでの報酬にはならないぞ!?
 ヤバイヤバイ!
 落ち着け!俺!
 ひっひっふー。
 って違うわ!

 目ん玉飛び出そうな額に、パニックになりそうになったが、なんとか誤魔化し、バレルさん達と移動する。
 移動したのは広間で、何人か人がいた。
 きっと、さっき言ってた事務官とかそういう人達だろう。

「どうぞ、よろしくお願いします」

 俺が言葉をかけると少しザワついた。
 多分俺みたいなヤツが今回の依頼を受けてるのが信じられないのかもしれない。
 まぁ文句言われてもバレルさんには許可取ってあるから関係ないけど。
 その後少し、彼らと挨拶をしてから本題に入る。

「それではユウト殿、お願いする」

「はい」

 俺は頷き、魔法を使う。
 と言ってもほぼ賢者先生に任せるんだけどな!

「【影落ち】」

「「「おぉ……!」」」

 魔法を発動すると、皆の足元が黒く染めあがっていく。
 そしてスルッと流れるように全員床に消えていった。
 続いて俺も影に潜る。
 影の世界は薄らボンヤリとしてるけど、全員の無事を確認するために周りを見回す。
 バレルさん達は物珍しさからかキョロキョロ周りを見てるけど、問題はないみたいだ。
 影落ち中は声が響かない状態になるので、話は出来ないけど、やる事は決まってる。
 俺の目はとある方向を向く。
 そっちに目的の街――ジーラの街がある。

 その街目掛けて、飛ぶように移動していく。
 話では結構な距離があるみたいだったけど影落ちでの移動ならだいぶ短縮出来る。
 俺は進みながら賢者先生に確認をとる。
 確認は周囲の安全に関してだ。

《認識出来る範囲に脅威は存在しません》

 良かったと、少しホッとする。
 なにせ賢者先生が、今回の集団暴走スタンピードは意図的なものじゃないかと報告してきたからだ。
 俺としてもこんな暴走が自然に起きたとは考えにくいと思ってた。
 それに魔物が来ている方向、それは俺達が依頼で行ったラジクロートの湖の方向なのだ。
 その近くの基地に転移出来なかった事も含めて、何かあるのは確実。
 もし意図的なものだとしたら犯人がいる。
 そして、そのスタンピードに巻き込まれてる町から魔法で脱出する俺達は、犯人からすれば少し気になる存在だろう。
 だから警戒は怠らないようにしてたんだけど、とりあえず賢者先生の警戒網には引っ掛からなかったらしい。
 まぁ影落ちだと感知が若干鈍るから完全とは言い難いし、俺の感知を掻い潜るスキルがあってもおかしくないんだけど。
 一応、影落ち使う時バレルさん達に内緒で結界張ってるから、もしこの状態で襲撃受けても何とかなるでしょ。
 ……多分。






―――――――――――――――――――


皆さんこんにちはアオネコさんです!

あまり更新出来ない日々が続いておりますが、今年もお読み下さりありがとうございました。
来年もまた「こんな異世界望んでません!」をどうぞよろしくお願い致します!


それと、この時点で小説のお気に入り件数が1900件を超えました!
ありがとうございます、励みになります!
これからも頑張りますのでどうかよろしくお願いします!m(*_ _)m
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