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天使救出編

色々危機

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 ハビリオンでの事件が無事……とは言えないまでもなんとか収束し、天使の封印解除にも目処が立った。
それで直接そこに出向こうと思ったら何故か転移出来ず、一先ずスータの町に転移してから移動しようと転移したら集団暴走(スタンピード)が起きていた件。


 …………。


 はあぁぁぁん!?
 どういう事ですか!?
 なん、なんでスータの町が魔物に襲われてるの!?
 いーみわからん!

「がァァァ!」

「とうっ!」

 というか待って?
 今、冒険者とか兵士とかって基地に行ってるんだよね?
 という事は、スータの町の戦力って何時もより劣ってるんじゃないの?

「グガァァァッ!」

「ていっ!」

 だとしたら大変だ。
 流石に町の中に兵士がいないわけじゃないだろうけど、いつもより防衛力は落ちてるはず。
 町には壁があるし、簡単に崩れる町じゃないだろうけど、急いだ方がいいな。

「グオガァァ!」

「しつこいわッ!」

 急いだ方がいいんだけどね!周りがね!
 魔物が俺の方まで流れてきてるわけよ!
 そのせいで中々町に進めない!
ええい!どけぇい!

「ギャオオォ!」

「はいはい」

 もう襲われすぎて逆に冷静になったわ。
 飛びかかってくる魔物を手に持つ剣で薙ぎ払う。
 それだけで紙切れのように魔物が切り裂かれる。
 ……ていうか、さっきからとんでもない切れ味なんだけど。

 ハビリオンでの戦いの結果、暗黒魔法が進化して深淵魔法なる魔法になった。
 そしてその深淵魔法で生み出した【破滅剣フォールンブレイド】。
 効果:魔物を種族関係なく紙切れにする。
 いや威力高すぎ高杉くん。

 賢者先生が言うには、これでも威力を抑えてる方らしいから本当の威力なんて怖すぎて聞けない。
 とりあえず魔物は数は多いけど強さはそんなでもないし、このまま町に急ぐか。




 魔物を蹴散らしながら、ついでに【無量空間】に回収していく事しばらく。
 ようやく町の壁が見えてきた。
 そして同時に騒がしさも聞こえてきた。
 うむ、やっぱり魔物に襲われてる。
 感知では壁が壊れてる所は発見出来なかったし、町の中は無事かなと思ってたけど、壁周りは違うね。
 壁を壊されないようにか、壁の外に人が展開してるところがあってそこが襲われてるみたい。

「……ッ!」

 町の出入口―俺が初めて通った門ではないけれど―そこが今破られそうになっていた。

 って!考えてる場合じゃない!
 このままだと魔物が町に入ってしまう!
 急げぇ!
 ダッシュで門まで急ぐ。
 オークのような魔物が門を殴りつけて破壊しようとしているのが肉眼で見えた。
 あかん!遠い!

「【炸裂弾シャインショット】!」

 剣の代わりに手から生み出された光弾があっという間にオークらしき魔物に接触、炸裂した。
 バチンッ!という音と爆風が魔物達を吹き飛ばす。
 何とか門が壊れるのは防いだけど、このままだとまた危険になるかも。
 とりあえず町の中に入ろう。
 ……入れるのか?

 門を見上げる。
 固く閉ざされているため入れそうもない。
 ……普通はな!

「【影落ち】」

 ふっふっふっ。
 普通に入れないなら、影の中に入って門を越えてしまえばいいのさ!
 いやー、持つべきはスキルだね!(なお一部使用不可)

 こっそりと入った町の中は大騒ぎだった。
 大通りをバタバタと武装した男達が走り回り、家の殆どにはバリケードのようなものが立てられ、通りとは逆に静けさに包まれている。
 そんな悲鳴やら怒号やらが聞こえる町をギルドに向かって走る。
 ヤテ君に話を聞かないと。
 他の人?いやー、ほら、ね?知り合いの方が話しやすいでしょ?

「ユウ!」

「ん?」

 ギルドに向かう途中、誰かが話しかけてきた。
 誰だ?俺の事そんな呼び方する人ここにいたっけ?
 顔を向けると、記憶に無い男が走ってきた。
 いや本当に誰だ?

「ダメじゃないか!家から出ちゃ!」

「え?いやあの」

 見た感じ冒険者のようだけど、会ったことあったっけ?
 それに家って?俺、ギルドに寝泊まりしてたから家という家なんてないけども……。
 なんて思っていると、心底心配したような顔で俺のお腹の方を見ながら再び話し出す。

「俺が君を子供達ごと守るからね?君は身重なんだからゆっくり家で安心しているといいよ」

 ニッコリと笑顔を浮かべながら俺の額にキスをした。
 回避?
 無理。
 ヤバい、何を言ってるのかわからな過ぎて動けん。
ていうか身重ってなんや。

《妊娠しているという意味です》

 知っとるわッ!!!
 そういう事じゃなくてだね??!
 俺が身重だとか意味わからんわ!
 妊娠してないわ!!
 色々ごにょごにょしてるけど!妊娠なんてしてない!

「オクト!こっちだ早くしろ!」

「わかりました!……それじゃあ気を付けて帰るんだよ?」

 俺が混乱している間にヤバいヤツ……オクトとやらは走って行ってしまった。
 た、助かった……。
 なんだか魔物と戦った時よりやばかった気がした。
 というか、オクト?オクト……?
 どっかで聞いた事あるような…?
 もしかして知り合いだったっけ?俺が忘れてる?
 妊娠した事は絶対ないけど。

《ジュシ・オクトはラジクロート湖前線基地において所持者マスターが治療を施した冒険者の一人です》

 なぬ?基地?
 ……あ、あー!
 思い出した!あの童貞の!……いかんブーメランだやめよう。
 それで勝手に、友達にならないか、とか考えてたんだった。
 それでなぜこうおかしくなった?

《……考えられるとすれば、治療において所持者マスターのスキルを使用した副作用でしょう》

 いやぁぁぁぁ!!
 遂に他の人にまで悪影響が!?

《いえ……所持者マスターへの好意が強く精神に影響した結果だと考えられます》

 ……えーと。
 つまり、俺の事が好きすぎて俺と結婚してる幻覚見てるって事?

《はい》

 あかぁぁぁん!!
 副作用どころじゃない!
 深淵魔法で何とか出来るか……?
 よし、早急に忘却魔法を開発しよう。

「とりあえずギルド行くか……」

 幻覚野郎の事は忘れて、騒がしい町中を走る。
 ギルドに着くと、そこもまた祭りの如き大騒ぎになっていた。
 その中で他の職員と一緒に動いているヤテ君を見つける。

「ヤテさん!」

「え!?あ、ユウト君!?」

 俺の声に反応したヤテ君がこちらを向いて目を見開く。
 そして何かを周りの人に話すと、こちらに向かってきた。

「ユウト君、ハビリオンに行ったんじゃ……というかどうやって町に……ああ、ここじゃなんだからこっちへ」

 ヤテ君自身、何を話したらいいのか混乱しているようで、近くにある部屋へと通される。
 前にウィアベルさんと話した部屋と同じ部屋だ。
 ただ、前と違って部屋の中は資料やら箱が積まれているやらで少し散らかっているけど。
 ソファに座ると、向かいにヤテ君が座る。
 そして少し考えた素振りを見せると、口を開いた。

「それで、ユウト君はどうしてここに?」

 この質問には色々な意味が含まれているんだろう。
 ヤテ君からすれば、俺は今ハビリオンにいるはずだし、この町の周囲は魔物だらけだし、俺がこの町にいるのが不思議なんだろうな。

「ハビリオンの用事が終わったから戻ってきたんです。そしたらこんな事になってて驚きました。それでさっき、魔法を使ってなんとか町に入ってきたんです」

 詳しく説明すると時間がかかりすぎるから、大雑把に説明する。
 ちょっと雑すぎる気がしないでもないけど、細かい事は気にしない気にしない。
 大事な事だから二回。

「なるほど、もっと何年も会えないかと思っていたから嬉しいよ」

 ヤテ君はこっちを見て嬉しそうに、でもどこか困ったように笑った。
 そして少しあと、考え込んだように沈黙した。
 ん?話に何かおかしな所あった?
 大丈夫だよね?

「……ユウト君、今魔法を使って入ってきたって言ったよね?」

「え、あ、はい」

 ヤテ君の質問に頷く。
 ん?ちょっと待てよ?
 もしかして、魔法で町に入るのって何か不味かったのか……?
 もしかして違法?え?大丈夫?俺。
 逮捕されるのでは!?

「その魔法って個人用かな?」

 え、個人と複数で罪の重さが変わるのか!?
 いや、そりゃそうか。
 個人で侵入されるのと、複数で侵入されるのじゃ、後者の方が圧倒的に不味いもんね。
 えーっと、この場合どうすれば!
 実は、【影落ち】って個人用だけど、他人に使えないわけでもないのだ。
 なので自分以外に使用出来るという点では複数とも言える。

「えっと、個人ですけど、他の人にも使えます……けど」

「そうか……」

 ヤテ君がそれっきり黙ってしまう。
 うん、バカ正直に言っちゃったけど、これ犯罪だったらヤバいな。
 よし、本当にヤバい時は忘却魔法だ。

《現在開発中です》

 賢者先生の頼りになる言葉を聞いていると、ヤテ君がこっちを見る。
 あ、待ってね、まだ完成してないから警察には――

「ユウト君、頼みがあるんだ」

 ヤテ君は何か覚悟を決めたような顔で言い頭を下げた。
 ……共犯の話ですか?
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