こんな異世界望んでません!

アオネコさん

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第3章 魔導帝国ハビリオン編

戦いの始まり

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「…?こ、これはなんだ?」

 そう呟いたアスキル
今、俺達は大きな扉の前にいる
だがアスキルが疑問を持っているのは扉の事ではない

《精霊です》

 賢者先生が俺達の前にあるソレ、に対する答えを出す
精霊だって?
もう一度、前のソレを見る

 輪郭のぼやけた光るナニカ…大きな人のような形をした精霊が床に倒れていた

「もしかしてこの扉を守ってた精霊?」

「なに?」


 俺の言葉にアスキルが反応する
この空間は、数えるのも億劫な程の守護精霊がいた
つまり精霊によりここは守られているわけだ
なら扉を守るのも精霊でしょうよ

「この精霊、存在が薄いな…やられたのか?」

「そうだろうね」


 扉を守ってるのだから弱くは無いはず…アスキルの父親がいたから通れたのかな?
いや、やられてるんだから戦ったのか

「ユウト行くぞ」

 アスキルが先を促してくるが俺は精霊の前から動けない
見たところ本棚の術式と繋がりが感じられない
今までの守護精霊は本棚との術式…というより、その術式から現れていた
意思の無い精霊を保管してるのか、それとも人工的に生み出してるのかよくわからないけど凄い技術なのだ
尊敬しちゃうぜ

 術式達の役割は侵入者を感知する事、迎撃のための精霊を出す事、そしてその精霊を維持するためと攻撃するためのエネルギーの補充だと思う

 でもこの精霊は違う
どの術式とも繋がっていない
つまりエネルギーの補充が出来ないのだ
今まではどうやって補充していたのか疑問だけど、そもそも今回が特別なだけで、普通はここに侵入者なんて入らないのか
納得ですわ

 って!そんな事考えてる場合じゃない
このままだとこの守護精霊消えちまうよ?
他の精霊と違って復活するかどうかもわからないのに…
回復魔法とかでなんとかなるかね?精霊はなんか生き物っぽくないし無理かね?
まぁそれよりもこれの方が早いかな…

「ちょっと待って」

 俺はアスキルに頼んで精霊の前へと進む

(賢者先生お願いしますよ?)

《かしこまりました》

 賢者先生が俺の願いを聞き入れてくれたので、俺は魔法を行使する
空間魔法は通常通り発動し大きな精霊は【無量空間】へと消えた

《不具合はありません…成功しました》

「ユウト!?なにしたんだ!?」

 賢者先生の大丈夫という返事を聞いたのでホッと息をいてアスキルに向き直る

「助けようと思って…ね」

 あの精霊は消えかけていた
多分あのままほっとけばエネルギーが霧散し消滅していただろう
なので【無量空間】に収納することによって消滅を防ごうという作戦だったのだ

 たとえ攻撃してきた守護精霊達の親玉みたいな精霊でも助けてあげたいなぁって…
ほら、精霊達はここを守るために攻撃してきたわけじゃん?
こっちは侵入者だし…なんか罪悪感がね?ほら…ね?

 ごめんなさい半分嘘吐きました
守護精霊の親玉っぽいあの精霊を取り込めば新しいスキルでも手に入るかな?って気持ちもありました!
すまん…誰とも知らぬ精霊よ…
まぁ助けるから許してちょ

  さっきの精霊を【無量空間】に入れられるのかは賭けだった
【無量空間】って生き物が入らないからね
他の精霊も入ったから多分大丈夫だとは思ってたけど…
それに精霊は生き物かどうか疑問だったけど入ったということは生き物じゃないのか?
それともこの空間にいる精霊が特殊なだけ?
うむむ…謎だ

 実はここに来るまでに守護精霊を【無量空間】にいくつか収納してるんだよ
扉に近付いたからか、過激になってくる攻撃に面倒臭くなって前に練習した【収納空間】を発生させて弾幕攻撃を収納してたんだけど、そこに精霊が突っ込んでいってそのまま収納されちゃって…
あ、収納出来たのか…と思ってそのままチマチマ発動させながらここに来たってわけ
だから親玉っぽい精霊も大丈夫かなと思ったんだけどその通りだったみたい

「もう大丈夫、行こう」

「あ、ああ…わかった」

 アスキルからしてみればわけわからん状況かもしれんが今は気にしないでほしい
先にやることあるでしょ!そっちに集中しようよ

 俺と困惑から回復したアスキルは扉の前まで進み、そこで頷き合い同時に扉を押した
実は引き戸だったというオチは無く、ギギギ…と鈍い音を立てながらゆっくりと扉は開かれていく

 扉の先は下り階段になっているようで一定間隔で灯りが壁に設置してあった

「警戒していくぞ」

「うん」

 扉の前でゴソゴソやってたらアスキルがそう言い進んで行ったので慌てて着いていく
なにをゴソゴソやってるって?まぁ保険みたいなものかね…
運に左右されるかもしれん保険って保険っていうのか…?
…気にしないようにしよう
 

 長い階段を2人で進み続ける
アスキルを見ると真剣な目で階段の先を見つめていた
銀色の髪が灯りに反射してキラキラしている
場違いな考えだけど、こうやって見ると凄い美少年なんだよね…
ニコニコしてればそれだけで女の子達がキャーキャー言う容姿をしてるのに…残念

「ん?なんだ?」

「なんでもないデス」

 素のアスキルはすんごい男っぽいっていうか…雑っていうか…
誰にでも丁寧で敬語を使う猫かぶりアスキルよりは好感が持てるけども
いや…誰にでもっていうか俺には素だけど…

 俺には素を見せてくれるっていうのはなんかむず痒いっていうか変な感覚だ
嬉しいのかな?そうなのかも?

(まぁとりあえずもしもの時は守ってやろうかな!なんちゃって!)


「…おい、見えたぞ」

 アスキルの言葉で現実に引き戻される
視線の先、階段が終わる部分…そこから光が漏れていた

「…」

「…」

 目を合わせて頷き合い
先ほどよりも速度を落として階段を降りていく


 階段の先は大きな一つの部屋だった
床や壁や天井全てに複雑な模様が入っていてこの部屋全体が一つの石で出来ていると錯覚してしまう
いや本当に一つの石で出来ているのかもしれない

 【叡智の部屋】で見た本棚や植物などは一切無く、その代わりに部屋の中央に巨大な球体が鎮座しているだけだった
そしてその球体の前に2つの影

「…父さん」

 アスキルの視線の先、2つの影の片方が父親なのだろう
ただし父親と思われる影は床に倒れており動いていない

(間に合わなかった…?)

 そんな気持ちが頭を支配しそうになるが賢者先生からの報告で生きてる事がわかり落ち着いた
そしてアスキルにも生きてる事を伝え、まずは敵の観察をする事も伝える

 敵と思われる者は球体に何かをしている
でも、こちらにとって良くない事をしているのは確かだろう

 もう一度球体を見る
白い輝きの中に虹色を溶かしこんでいるような不思議な色
それが絶えず流れるように球体の中を動き続けていた
それを見ていると賢者先生からの解析結果が届く

(…それめっさヤバいやん?)

《このままでは危険だと思われます》

 ヤツの好きにさせていたらこの国…いや、世界全体に被害が出る
ヤツらの目的はそれだったのか?だとしたらマズイぞ…?

「ユウト…」

 アスキルが不安そうな顔でこちらを見てくる
美少年はそんな顔で絵に…って言ってる場合じゃない!

「俺がやるからアスキルは防御に徹してくれ」

 ボソボソとアスキルに伝え、頷くのを確認すると俺は魔法を構築する

「アスキル耳を抑えて目をつぶって」

そして構築し終わったと同時にポケットに入れておいた物を思いっきり相手に投げつけた
魔封石は弧を描くように飛び相手に向かっていく

「やっとか」

 なにか聞こえたと思ったら相手がこちらに振り向いた
そして何かしようとするが、そんなの関係無いというように魔封石の中の魔法は発動する

 魔封石の中には【光魔法】が込められている
効果は単純な目くらまし
ただ、その威力は前世の閃光弾に匹敵するだろう
いくらファンタジーな世界の人とはいえ、少しは通用すると思う…多分きっと
ただ、この魔封石に音は無いので光だけの威力になってしまっているけど…

 視界が真っ白になり、その瞬間に俺は構築していた魔法を発動した
【短距離転移】という魔法を

 フッ…と俺とアスキルの間に一人の人が現れる
それはアスキルの父親であり助けようとしたその人である

「父さん…!」

 うっすら開けた目で父親を確認したのか、アスキルはすぐに父親に寄り添うと抱きしめた
賢者先生の解析で父親に命に別状が無いのを確認すると俺はそのまま球体に向かい駆け出す
すでに光が消えヤツが立っていたからだ

(賢者先生お願いしますよ!)

 俺は瞬時に魔法を放つ
そしてヤツの魔法と俺の魔法がぶつかり合ったのだった





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